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ドロップ
5.
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呼びかけても反応のないその足に、恐る恐る近づく。
ちょうどローテーブルの陰になる場所に、丸まった背中が見えた。制服じゃないシャツが埃で汚れている。その背中は、小刻みに震えていた。
肩に手をかけても、反応がない。乱暴に揺すって抱き起こしたら、涙でぐちゃぐちゃに濡れた海老沢の顔がやっと見えた。
「海老沢!」
正面から呼びかけても、目が合わない。見開いた目から涙を流しながら、海老沢の瞳は何も映していなかった。
唇を引き結んで、口をきかない。
完全な、Subドロップだった。
服は乱れていない。床に転がっていたせいで汚れてはいるが、脱がされた形跡はない。
尺らせただけ。
それでも充分腹ただしいが、多分あいつの言葉に嘘はない。でもきっと、海老沢はひどい恐怖を感じただろう。
セーフワードがないと、SubはDomに逆らえない。何をされても、拒否できない。
海老沢が感じた恐怖を思うと、あの男の罪は、実際にさせたこと以上に、重い。
生まれついた性質を一方的に利用されたその状態は、Subにとっては恐ろしいストレスで。
その極限状態に置かれたSubに残された最後の自衛手段が、ドロップだ。
全てを遮断して、無意識下に堕ちる。何にも従わず、何も受け入れない。
自衛と言っても、それは諸刃の剣で。
長い間そのまま放置されたら、一生そこから抜けられなくなる。
早く引き上げてやらないと、海老沢の心はそのまま、壊れてしまう。
なんでこんなことになったんだよ…… っ !!
オレは人形みたいに反応のない海老沢を腕に抱いて、痛むほど奥歯を噛み締めた。
この状態で家に帰すわけにいかないから、オレはとりあえず海老沢をうちに連れて帰った。
海老沢は、立たせてやれば立ち、手を引けば歩いた。いつのまにか涙は止まり、何も見ていないような目はぼんやりと世界を映し始めたようだ。
表情はないまま、話しかければ聞こえているらしいことだけは、緩慢な目の動きでわかるようになった。
ただ、何を聞いても返事はない。
白くなるほど強く唇を噛んだまま、一言も口をきかなかった。
オレの部屋の、いつものベッド。そこに座るように促すと、海老沢は言われたとおりにゆっくりと腰を下ろした。
オレのことが、わかっているのかどうかもわからない。抵抗せずについて来たけど、ただ流されているだけかもしれない。
現に海老沢は、怯えたような目でオレを見ていた。
さっきから、気になっていたことがある。
外にいるときには、空気にいろんな匂いが混ざっていて、確信が持てなかった。
でも。
自分の部屋に戻ってきて、その違和感は益々強くなっていた。
唇を引きむすんだ海老沢の、鼻から吐く息に、異様な匂いがする。
「尺らせただけ」「時間がかかって」そう言ったあいつの言い分からして、口で最後までさせたんだろう。それを飲まされたのなら、胃からその匂いが上がってくるのもわかる。
でもそれが、こんなにいつまでも匂うものだろうか…… ?
ちょうどローテーブルの陰になる場所に、丸まった背中が見えた。制服じゃないシャツが埃で汚れている。その背中は、小刻みに震えていた。
肩に手をかけても、反応がない。乱暴に揺すって抱き起こしたら、涙でぐちゃぐちゃに濡れた海老沢の顔がやっと見えた。
「海老沢!」
正面から呼びかけても、目が合わない。見開いた目から涙を流しながら、海老沢の瞳は何も映していなかった。
唇を引き結んで、口をきかない。
完全な、Subドロップだった。
服は乱れていない。床に転がっていたせいで汚れてはいるが、脱がされた形跡はない。
尺らせただけ。
それでも充分腹ただしいが、多分あいつの言葉に嘘はない。でもきっと、海老沢はひどい恐怖を感じただろう。
セーフワードがないと、SubはDomに逆らえない。何をされても、拒否できない。
海老沢が感じた恐怖を思うと、あの男の罪は、実際にさせたこと以上に、重い。
生まれついた性質を一方的に利用されたその状態は、Subにとっては恐ろしいストレスで。
その極限状態に置かれたSubに残された最後の自衛手段が、ドロップだ。
全てを遮断して、無意識下に堕ちる。何にも従わず、何も受け入れない。
自衛と言っても、それは諸刃の剣で。
長い間そのまま放置されたら、一生そこから抜けられなくなる。
早く引き上げてやらないと、海老沢の心はそのまま、壊れてしまう。
なんでこんなことになったんだよ…… っ !!
オレは人形みたいに反応のない海老沢を腕に抱いて、痛むほど奥歯を噛み締めた。
この状態で家に帰すわけにいかないから、オレはとりあえず海老沢をうちに連れて帰った。
海老沢は、立たせてやれば立ち、手を引けば歩いた。いつのまにか涙は止まり、何も見ていないような目はぼんやりと世界を映し始めたようだ。
表情はないまま、話しかければ聞こえているらしいことだけは、緩慢な目の動きでわかるようになった。
ただ、何を聞いても返事はない。
白くなるほど強く唇を噛んだまま、一言も口をきかなかった。
オレの部屋の、いつものベッド。そこに座るように促すと、海老沢は言われたとおりにゆっくりと腰を下ろした。
オレのことが、わかっているのかどうかもわからない。抵抗せずについて来たけど、ただ流されているだけかもしれない。
現に海老沢は、怯えたような目でオレを見ていた。
さっきから、気になっていたことがある。
外にいるときには、空気にいろんな匂いが混ざっていて、確信が持てなかった。
でも。
自分の部屋に戻ってきて、その違和感は益々強くなっていた。
唇を引きむすんだ海老沢の、鼻から吐く息に、異様な匂いがする。
「尺らせただけ」「時間がかかって」そう言ったあいつの言い分からして、口で最後までさせたんだろう。それを飲まされたのなら、胃からその匂いが上がってくるのもわかる。
でもそれが、こんなにいつまでも匂うものだろうか…… ?
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