ほの明るいグレーに融ける

さほり

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日曜日

1.

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和臣は早朝から接待ゴルフに出かけて行った。
朝が早いから、と、昨夜はあの一回だけにしたけれど、きっと和臣の身体には連日の疲れが溜まっているだろう。

ゴルフの日は機嫌が悪い。休日に長時間拘束されて、神経と体力を消耗するから嫌いなんだと、以前話していたのを思い出す。

ーー 腕は悪くないらしいのにね……

和臣はなんでも器用にこなす。人望が厚く、連絡をとりあう友人が何人もいる。会社には部下もいる。気楽に飲める同期の仲間もいる。家族とも縁が切れていない。
友だちの一人もいない、自分とは違う。

ーー 突然いなくなっても、誰にも探してもらえなかったオレとは違う……

ナギサは畳み終わった和臣の洗濯物を抱えて立ち上がった。
昨日は起きたらもう昼で、夕方の買い物の前に3月の寒空に干した洗濯物は夜までに乾かなかった。そのまま一晩外に放置された衣類は触るとひんやりと冷たくて、乾いているのかどうか判別が難しい。

それでも畳みたかった。
和臣の服を、下着を、畳んで定位置にしまう。それだけのことが、無性にうれしかった。

ナギサはクロゼットの扉を開けて、その内側に貼りつけられた鏡に映った自分の姿にビクッとした。

伸びかけた金髪に細く整えた眉。ピアスは耳と鼻にあわせて4つもあけた。茶色い肌。猫のような大きなつり目。

ナギサは鏡を覗き込んで、頭を左右に振ってみた。口を開けて、閉じる。小鼻のピアスを指ではじく。鏡の中の男も、まったく同じ動作をした。
そして、だらしなくにへっと笑った。

「うん、チャラいな。」

だいじょうぶ。ちゃんとチャラい。これが、今の自分だ。

この姿になって2ヶ月半。なかなか見慣れるものではなく、鏡を見るたびに少し驚いてしまう。メスを入れて整形したのは目元だけなのに、人の印象など簡単に変えられるのだと驚いた。自分でも驚くくらいだから、他人が気づくはずもない。

だいじょうぶ。
だいじょうぶ。ちゃんとやれてる。

そう言い聞かせていないとすぐに、胃液が上がってくるような不快感に襲われる。
首を触る。もう首輪はない。跡も消えた。
だいじょうぶ。

ナギサはクロゼットの奥の、段ボール箱に手を伸ばした。手前に動かす前に、その位置と箱の向きを確認して記憶に残す。

だいじょうぶ。

クロゼットから引っ張り出して床に置くと、箱の上部に不規則な水玉模様が残っているのが見えた。
水たまりのような塊もある。段ボールの茶色に、少しだけ濃くなったたくさんの水玉。それは一度濡れて、乾いた涙の跡だった。

「和臣…… 」

彼に与えた心の痛みを思うと、胸がぎゅっとつまった。

ナギサはそっと箱のふたを開けた。
すべては和臣の言ったとおり。中には綾人の持ち物が、きちんと整頓されて、畳んで、しまわれていた。

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