ほの明るいグレーに融ける

さほり

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月曜日

1.

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狭い喫煙室の中は、普段に輪をかけて白い煙が充満していた。

勝手だとはわかっているが、自分がスモーカーでも他人の吐き出した煙は気分の良いものではない。できることならこんな煙臭い部屋に入りたくないのに。
自分のデスクでタバコを吸わせてくれたら、仕事の能率だって3割増しだぜ、和臣はそう思いながら喫煙室の扉を押した。

知った顔に短く挨拶しながら奥の席に進む。上司と鉢合わせすることもなく、暇で話の長いおっさんもいない。今回のメンツは悪くないな、と和臣はひそかに安堵した。

常につけっぱなしになっているテレビは、午後のワイドショーを垂れ流していた。トピックは芸能人のゴシップ。
ワイドショー全体をバカにするつもりはない。入り組んだ政治の話題を夜のニュースよりわかりやすく解説していることもあるし、なによりワイドショーの放送内容に日本の株価が大きく影響されることを、和臣は知っている。
ただ、芸能人のプライベートを暴くことに、どうしてそこまで時間を割くのかは理解不能だった。

和臣はシャツの胸ポケットからボックスを取り出すと、視線はテレビに向けたまま一本引き抜く。
ライターで火をつけて大きく吸い込むと、一瞬煙草の先が赤金色に光った。
夕日に照り返す、ナギサの髪の色だ。

昨夜、ナギサを蹴り出した後、ビールを取りにキッチンに行くと、洗ったレタスがざるに入って流しに置いてあった。冷蔵庫には、形成されて焼くだけになったハンバーグが冷えていて、コンロの鍋には味噌汁が作ってあった。

綾人が出て行った時のことを髣髴とさせた。

でも、あいつは違う。なかば脅迫するようにして、強引に転がり込んできた男だ。何度か抱いて絆されて、綾人の話までして、少しでも信用して家に置いたのが間違いだった。

和臣は、ナギサを許す気にはなれなかった。

寝るときになって、ナギサのコートがハンガーにかかったままなのに気がついた。3月とはいえまだ寒い。薄着のまま追い出したことには罪悪感を覚えたが、子どもじゃないんだから自分でどうにかするだろうと、たいして気にしなかった。

今朝出勤するときに、そのコートは紙袋に入れて玄関のドアノブにかけてきた。ナギサが戻ってきたら持って行くだろう。他人に盗られることも考えたが、そこまで心配してやる義理はないと思った。

「臨時ニュースをお伝えいたします。3月8日金曜日の夜11時ごろに発生した、神奈川県○○駅前の大型トラックによる人身事故で、昨日まで不明だった被害者の身元が確認されました。」

テレビから、若い男性キャスターの緊張した声が流れた。それまでの放送のゆるい雰囲気からの突然の変化に気をひかれたのか、部屋にいる和臣以外の喫煙者たちも一斉にテレビに視線を投げる。

「神奈川県警の発表によりますと、亡くなったのは、ナギサアヤトさん、24歳。本日未明、遺族が遺体を確認したということです。」
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