ほの明るいグレーに融ける

さほり

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月曜日

3.

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「社長、せいせいしてるんだろうなぁ。」

そう言ったのは和臣の同期の桜井だ。たしかナギサ子会社の広告をいくつか担当している。綾人がナギサグループの関係者だとは知らなかったから、気にしたことがなかったけれど。
桜井は和臣が視線を向けると、煙草をくわえたままの口の端で笑った。

「何回か飲んだよ。ゴルフも行ったかな。政治家に嫁にやった娘は自慢だけど、長男は恥ずかしくて人前に出せないとか言ってたぜ。だからもう死んだものと思ってるってさ。てっきりグレてんのかと思ったけど、可愛い顔してたよなぁ?」

そう言ってテレビ画面に目をやる。和臣もつられて顔を向けたが、画面に映っているのはスタジオだった。事故を起こした運転手には持病があったらしく、どんな病気なのかをフラップを使って解説していた。

「次男の話は聞いたことなかったなぁ。」

桜井は鼻から煙を吐き出すと、首をまわしてコキコキと鳴らした。

「あれ、○○駅って、江藤の家の近くじゃねえの?金曜日って、同期会ちょっと早めに引けたよな。もしかして事故見た?」

「いや…… 」

「そっか、よかったな。下手したら巻き込まれてたかもよ。俺らと飲んでてよかったよな。」

和臣の頭は混乱を極めていて、適当な相槌を打つことさえ難しかった。

「桜井、弔電…… 」

そう促すと、桜井は何かを察したのか、吸いかけのケントを灰皿に押し付けると立ち上がった。

「そうだな。総務に頼んでくるわ。」

桜井が喫煙室から出ていくと、和臣は視線をテレビに戻した。画面はもう天気予報に変わっている。まとまらない頭でぐるぐると考えながら待ったが、結局その番組が終わるまで、事故の続報はなかった。

熱心に見ている人はいなそうだが、チャンネルを勝手に変えることには抵抗がある。
ふと隣に座る社員を見ると、煙草をくわえて携帯電話でゲームをしていた。

そうだ、そうだった。
混乱のあまり忘れていた。
ニュースなら携帯で見ればいい。
和臣はそう思って、胸ポケットから自分のiPhoneを取り出した。

3月8日金曜日23時17分
神奈川県○○駅前の交差点で、大型トラックが時速50キロで歩道に乗り上げて多数の通行人をはねる事故があった。
38歳の運転手には持病があり、発作をおこしたか、薬を服用していて居眠り運転だった可能性がある。
被害者は19歳から52歳の学生や会社員で、死者3名、負傷者11名。負傷者のうち2名は意識不明の重体、6名は骨折などの重症である。
死傷者のうちの兄弟二人の身元確認が遅れたのは、父親が外国に出張中で帰国を待つ必要があったため。
死者の一人は名木佐綾人(24)無職。

いくつものニュースサイトを閲覧し、和臣が得たのはこれだけの情報だった。

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