6 / 7
札束風呂
しおりを挟む
やべーほどの暑さ。地面に膝と手をついたら、手も膝も焼け落ちそう。
けど何もしなくても、太陽に焼き尽くされ、皮膚が溶け落ちそう。しかし屋内ももはや……。
「うわー」
叫び声とともに火の手が上がる。今度はなんだ。
もう誰も原因だの何だの突き止めようともしない。それどころではないのだ。誰に聞いても「想定外」だの「原因不明」だの。家電が爆発しただか、新素材が発火しただか、もう知らん。
政府が設置した巨大パネルに映るおっさんが、「今年こそ最高の少子化対策……」とか言ってる、その前で、幼子を抱いた女性が倒れている。が、誰も手を差し伸べようとも、生死を確認しようともしない。暑すぎてハエも沸いてない。
誰かが落としただか投げ捨てただか、もはやどうでもいいゴミのように扱われたカネが、地面にところどころ散らばっている。俺はそれをかき集めた。カサカサと熱風に舞う、クシャクシャになった紙幣を、手で抑えつけて捕らえる。小銭も拾う。外国のカネも拾う。意味もなく、ひたすら拾う。手が焼けても拾う。
……あ、ギザ十。
なんとなく集めたりしたこともあった。懐かしさに、涙がこぼれ落ちる。
あの頃はまだまだ平和だった。夜の歩道橋から車道を見下ろして、ここから飛び降りて車に轢かれたら死ねるだろうかとか妄想したあの頃でさえ、まだどうにでもできたんじゃないか。
そうだ、老後がどうとか難しいこと考えるから八方塞がりだったんだ。仕事なんか辞めたって、日雇いバイトとかで数十年、気楽に暮らせたんじゃないか。町が楽しそうなフリしているうちに、散々遊び歩けば良かった。
ギザ十を握り締めてぼろ泣きする俺。
「そんなに泣くと死が近づきますよ」と声をかけてくる女性。
「やめろ、他人なんかに構うな、体力の無駄遣いだ」と隣の男性。
去ってゆく二人。
カネをかき集める。
今となってはどうでもいい物体。
昔は俺の生死を左右するかに思えた物体。
でも多分そこまでじゃなかった。生活保護とか申請できたのかもしれない。よく知らなかった社会と、何かに怯え続けた若い頃。
歯を食いしばり、時間を失い続け、頭を下げることで得たカネ。それが、さもどうでもいい物であるかのように、路上に転がっている。
カネを集める。
昔は命懸けで集めたカネ。
人様の命より重かったカネ。
人類が築き上げたものがどうでもいい物になるのは、文明が死にゆく最期のときだけなのか。
それまで俺たちは、訳の分からぬものに縛られ続けたのか。
くそったれ!
崩壊した我が家に、抱えたカネを持って帰り、湯をためる機能を失った湯船にぶち込んだ。ジャラジャラと硬貨が音を立てる。思ったほどいっぱいにはならなかったが。
「札束風呂~!」
ふざけた声で叫んでみる。……札クズと小銭であって札束じゃねーか。
札束風呂もどきに浸かった俺は、体の水分が果てるまで、泣き喚いた。
けど何もしなくても、太陽に焼き尽くされ、皮膚が溶け落ちそう。しかし屋内ももはや……。
「うわー」
叫び声とともに火の手が上がる。今度はなんだ。
もう誰も原因だの何だの突き止めようともしない。それどころではないのだ。誰に聞いても「想定外」だの「原因不明」だの。家電が爆発しただか、新素材が発火しただか、もう知らん。
政府が設置した巨大パネルに映るおっさんが、「今年こそ最高の少子化対策……」とか言ってる、その前で、幼子を抱いた女性が倒れている。が、誰も手を差し伸べようとも、生死を確認しようともしない。暑すぎてハエも沸いてない。
誰かが落としただか投げ捨てただか、もはやどうでもいいゴミのように扱われたカネが、地面にところどころ散らばっている。俺はそれをかき集めた。カサカサと熱風に舞う、クシャクシャになった紙幣を、手で抑えつけて捕らえる。小銭も拾う。外国のカネも拾う。意味もなく、ひたすら拾う。手が焼けても拾う。
……あ、ギザ十。
なんとなく集めたりしたこともあった。懐かしさに、涙がこぼれ落ちる。
あの頃はまだまだ平和だった。夜の歩道橋から車道を見下ろして、ここから飛び降りて車に轢かれたら死ねるだろうかとか妄想したあの頃でさえ、まだどうにでもできたんじゃないか。
そうだ、老後がどうとか難しいこと考えるから八方塞がりだったんだ。仕事なんか辞めたって、日雇いバイトとかで数十年、気楽に暮らせたんじゃないか。町が楽しそうなフリしているうちに、散々遊び歩けば良かった。
ギザ十を握り締めてぼろ泣きする俺。
「そんなに泣くと死が近づきますよ」と声をかけてくる女性。
「やめろ、他人なんかに構うな、体力の無駄遣いだ」と隣の男性。
去ってゆく二人。
カネをかき集める。
今となってはどうでもいい物体。
昔は俺の生死を左右するかに思えた物体。
でも多分そこまでじゃなかった。生活保護とか申請できたのかもしれない。よく知らなかった社会と、何かに怯え続けた若い頃。
歯を食いしばり、時間を失い続け、頭を下げることで得たカネ。それが、さもどうでもいい物であるかのように、路上に転がっている。
カネを集める。
昔は命懸けで集めたカネ。
人様の命より重かったカネ。
人類が築き上げたものがどうでもいい物になるのは、文明が死にゆく最期のときだけなのか。
それまで俺たちは、訳の分からぬものに縛られ続けたのか。
くそったれ!
崩壊した我が家に、抱えたカネを持って帰り、湯をためる機能を失った湯船にぶち込んだ。ジャラジャラと硬貨が音を立てる。思ったほどいっぱいにはならなかったが。
「札束風呂~!」
ふざけた声で叫んでみる。……札クズと小銭であって札束じゃねーか。
札束風呂もどきに浸かった俺は、体の水分が果てるまで、泣き喚いた。
20
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
麗しき未亡人
石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。
そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。
他サイトにも掲載しております。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる