2 / 11
思い出の在処
しおりを挟む
少女の目の前にある大きな影は、大観覧車の姿で現れました。少女以外に人影がないせいか、やけに大きくそびえ立ち、威圧感すら感じさせます。しかし少女は自分のぬいぐるみでも慈しむかのような目で、無機質な観覧車を見上げていたのです。
「まさかまたここに来られるなんて」
「会えなかったら寂しいでしょう」
「あなたが会いに来てくれたの? 私は動けるけどあなたは動けないのに……。観覧車が会いに来るなんてなんだか不思議ね」
「実際には私が会いに来たというより、あなたの意識に潜り込んだ形ですけどね。私を忘れてしまった人には会えませんから」
「ふふっ、なんだか、信じないと姿が見えない妖精みたい」
「そうとも言えますかね。実際私はいるんだかいないんだか分かりませんから」
人間と、大きな物。異なる2つの存在ですが、友人との再会を喜ぶかのように親しげに言葉を交わしています。
どうやらここは現実世界ではないようです。不安定なこの世界では、人間と観覧車が言葉を交わすという奇妙な光景にも納得してしまうような空気が漂っているのでした。
会話する2つの存在を奇妙だと訝しがる通行人の姿もありません。この空間で見える景色は、記憶から生み出されるただの映像のようなのです。
ここに実際に存在するらしいものは少女と観覧車しか見当たりません。その2つの存在すら、本当にあるのかどうか不確かではありますが……。
彼女らもここが現実ではないことは知っているようで、誰はばかることなく、当然のように会話を続けるのでした。
「今でも私を覚えていてくれるのはあなたくらいですよ」
先程の言葉からやや間を置いて、観覧車がポツリと言いました。
「えー、そんなことないでしょ? だって大人気だったじゃない。空いているときもあったけど、並ばないと乗れないときも多かったよ」
「人の集まりなんて一時のものです。いつしか忘れてゆき、また別のものに集う。それが人間というものでしょう」
「えー、でも絶対思い出す人多いと思うけどな……。あなたの探し方が足りないんじゃない?」
「もう私が消えたと思っている人が多いんです。大体観覧車に会えるとも会おうとも思っていないですしね。私は無言で回っているから良かったのです」
「もう……。そんな卑屈にならないでよ」
少女は呆れたようにため息をつきました。
観覧車は、多くの人を喜ばせ愛された誇りを失ったわけではありません。その証拠に凛とした姿勢を崩さず、今も一定のペースで回り続けながら天を仰いでいるのです。
しかしそれは乗客を待っているのか、自分の意識が朽ち果てるのを待っているのか……。残留思念のように取り残された観覧車にも、よく分からないのかもしれません。
「とりあえず乗せてもらっていい?」
観覧車なんだから。そう言いたげに少女は観覧車を見上げました。
「もちろんです。どうぞ、どうぞ。お好きなゴンドラをお選びください」
やはり乗客がいることは嬉しいのか、観覧車は心なしか上擦った様子で答えましたが、すぐに平静を保とうと、落ち着いた態度を演じるのでした。
「気が済むまで何周でも回っていて良いですよ。料金もなければ交替もないですから」
「えへへ、新鮮だねぇ。前もそうしてもらったけど。……係の人とか誰もいないのも変な感じ」
「いつだって誰もいないんですよ、ここは。あなたがいるとき以外はね」
「まさかまたここに来られるなんて」
「会えなかったら寂しいでしょう」
「あなたが会いに来てくれたの? 私は動けるけどあなたは動けないのに……。観覧車が会いに来るなんてなんだか不思議ね」
「実際には私が会いに来たというより、あなたの意識に潜り込んだ形ですけどね。私を忘れてしまった人には会えませんから」
「ふふっ、なんだか、信じないと姿が見えない妖精みたい」
「そうとも言えますかね。実際私はいるんだかいないんだか分かりませんから」
人間と、大きな物。異なる2つの存在ですが、友人との再会を喜ぶかのように親しげに言葉を交わしています。
どうやらここは現実世界ではないようです。不安定なこの世界では、人間と観覧車が言葉を交わすという奇妙な光景にも納得してしまうような空気が漂っているのでした。
会話する2つの存在を奇妙だと訝しがる通行人の姿もありません。この空間で見える景色は、記憶から生み出されるただの映像のようなのです。
ここに実際に存在するらしいものは少女と観覧車しか見当たりません。その2つの存在すら、本当にあるのかどうか不確かではありますが……。
彼女らもここが現実ではないことは知っているようで、誰はばかることなく、当然のように会話を続けるのでした。
「今でも私を覚えていてくれるのはあなたくらいですよ」
先程の言葉からやや間を置いて、観覧車がポツリと言いました。
「えー、そんなことないでしょ? だって大人気だったじゃない。空いているときもあったけど、並ばないと乗れないときも多かったよ」
「人の集まりなんて一時のものです。いつしか忘れてゆき、また別のものに集う。それが人間というものでしょう」
「えー、でも絶対思い出す人多いと思うけどな……。あなたの探し方が足りないんじゃない?」
「もう私が消えたと思っている人が多いんです。大体観覧車に会えるとも会おうとも思っていないですしね。私は無言で回っているから良かったのです」
「もう……。そんな卑屈にならないでよ」
少女は呆れたようにため息をつきました。
観覧車は、多くの人を喜ばせ愛された誇りを失ったわけではありません。その証拠に凛とした姿勢を崩さず、今も一定のペースで回り続けながら天を仰いでいるのです。
しかしそれは乗客を待っているのか、自分の意識が朽ち果てるのを待っているのか……。残留思念のように取り残された観覧車にも、よく分からないのかもしれません。
「とりあえず乗せてもらっていい?」
観覧車なんだから。そう言いたげに少女は観覧車を見上げました。
「もちろんです。どうぞ、どうぞ。お好きなゴンドラをお選びください」
やはり乗客がいることは嬉しいのか、観覧車は心なしか上擦った様子で答えましたが、すぐに平静を保とうと、落ち着いた態度を演じるのでした。
「気が済むまで何周でも回っていて良いですよ。料金もなければ交替もないですから」
「えへへ、新鮮だねぇ。前もそうしてもらったけど。……係の人とか誰もいないのも変な感じ」
「いつだって誰もいないんですよ、ここは。あなたがいるとき以外はね」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
王女と2人の誘拐犯~囚われのセリーナ~
Masa&G
ファンタジー
王女セリーナが連れ去られた。犯人は、貧しい村出身の二人の男。だが、彼らの瞳にあったのは憎しみではなく――痛みだった。
閉ざされた小屋で、セリーナは知る。彼らが抱える“事情”と、王国が見落としてきた現実に。
恐怖、怒り、そして理解。交わるはずのなかった三人の心が、やがて静かに溶け合っていく。
「助けてあげて」。母の残した言葉を胸に、セリーナは自らの“選択”を迫られる。
――これは、王女として生きる前に、人としての答えを、彼女は見つけにいく。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる