3 / 11
記憶の中で
しおりを挟む
その後、少女と観覧車はぽつりぽつりと言葉を交わしながら景色を眺めました。
「あのお店も、あっちの建物もなくなったんだよ」
「そうなんですか」
「あとあっちもこっちもリニューアル。随分と明るくなったし、前とは全然違うんだ」
「へぇ……人の世の移り変わりは激しいものですね。私が存在していたときにも変化はありましたが」
この場所の景色は、観覧車が元の世界で最後に見たときのまま止まっているようでした。少女はというと、その先を知っているようで、建物を指差しながら元の世界の変化を伝えています。
その後も少女は観覧車に話しかけ続けました。
「誰もいなかったら普通、建物とかって壊れるよね。誰もメンテナンスしていないのにあなたがずっと回っていられるのって不思議」
「あなたもここだと食事とか必要ないですもんね」
「食事のこと知ってるんだ」
「お菓子など食べている人を見ましたからねぇ……飲食禁止でしたけど」
「そっか、今は私だけだけどたくさんの人を乗せたんだもんね。他にどんなことしてる人がいたの?」
「どんなって……観覧車なんだから景色を見るんですよ」
「それだけ?」
「……。この話はおしまいです」
「ふふ」
今度は少女がからかうように言いました。
「あなたはたくさんの人を見てきたんだもんね。なんでも知っているよね」
観覧車は自嘲気味に答えます。
「いえ、私が見た世界など、限られたものです。時間的にも……。あなたがおっしゃっていたように私はここから動かないのです。人々の普段の生活や日常のことは何も知りません。私が知っているのは人々が乗っていたときのことだけ。あとはお客様の会話や、ここから眺める景色から想像しただけですよ」
「ふーん。でもさ」
少女はゴンドラの窓から上の方を覗きながら言いました。
「あなたは私たちよりずっと空に近かったよね」
「地上から見ればそうかもしれません。けど私から見た空はずっとずっと高かったですよ」
「そう? 私たちが見上げたあなたはすごく大きくて、空に触れているみたいだった。……なんていうか、あなたは私たちとは違う世界を見ていると思うの」
「どうですかねぇ……」
「もっと自信持ってよ」
卑屈になるなとか自信を持てと言われても、観覧車は既に「役目を終えたもの」「必要のないもの」として表の世界から姿を消したのですから、自分の存在意義など感じられないのでした。
多くの人に必要とされ、せわしなくも楽しかった日々に思いを馳せてぼんやりとしていた観覧車は、しかし少女の次の一言で引き戻されました。
「ねぇ、ところで私たちって何なのかな」
「あのお店も、あっちの建物もなくなったんだよ」
「そうなんですか」
「あとあっちもこっちもリニューアル。随分と明るくなったし、前とは全然違うんだ」
「へぇ……人の世の移り変わりは激しいものですね。私が存在していたときにも変化はありましたが」
この場所の景色は、観覧車が元の世界で最後に見たときのまま止まっているようでした。少女はというと、その先を知っているようで、建物を指差しながら元の世界の変化を伝えています。
その後も少女は観覧車に話しかけ続けました。
「誰もいなかったら普通、建物とかって壊れるよね。誰もメンテナンスしていないのにあなたがずっと回っていられるのって不思議」
「あなたもここだと食事とか必要ないですもんね」
「食事のこと知ってるんだ」
「お菓子など食べている人を見ましたからねぇ……飲食禁止でしたけど」
「そっか、今は私だけだけどたくさんの人を乗せたんだもんね。他にどんなことしてる人がいたの?」
「どんなって……観覧車なんだから景色を見るんですよ」
「それだけ?」
「……。この話はおしまいです」
「ふふ」
今度は少女がからかうように言いました。
「あなたはたくさんの人を見てきたんだもんね。なんでも知っているよね」
観覧車は自嘲気味に答えます。
「いえ、私が見た世界など、限られたものです。時間的にも……。あなたがおっしゃっていたように私はここから動かないのです。人々の普段の生活や日常のことは何も知りません。私が知っているのは人々が乗っていたときのことだけ。あとはお客様の会話や、ここから眺める景色から想像しただけですよ」
「ふーん。でもさ」
少女はゴンドラの窓から上の方を覗きながら言いました。
「あなたは私たちよりずっと空に近かったよね」
「地上から見ればそうかもしれません。けど私から見た空はずっとずっと高かったですよ」
「そう? 私たちが見上げたあなたはすごく大きくて、空に触れているみたいだった。……なんていうか、あなたは私たちとは違う世界を見ていると思うの」
「どうですかねぇ……」
「もっと自信持ってよ」
卑屈になるなとか自信を持てと言われても、観覧車は既に「役目を終えたもの」「必要のないもの」として表の世界から姿を消したのですから、自分の存在意義など感じられないのでした。
多くの人に必要とされ、せわしなくも楽しかった日々に思いを馳せてぼんやりとしていた観覧車は、しかし少女の次の一言で引き戻されました。
「ねぇ、ところで私たちって何なのかな」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
王女と2人の誘拐犯~囚われのセリーナ~
Masa&G
ファンタジー
王女セリーナが連れ去られた。犯人は、貧しい村出身の二人の男。だが、彼らの瞳にあったのは憎しみではなく――痛みだった。
閉ざされた小屋で、セリーナは知る。彼らが抱える“事情”と、王国が見落としてきた現実に。
恐怖、怒り、そして理解。交わるはずのなかった三人の心が、やがて静かに溶け合っていく。
「助けてあげて」。母の残した言葉を胸に、セリーナは自らの“選択”を迫られる。
――これは、王女として生きる前に、人としての答えを、彼女は見つけにいく。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる