6 / 6
know you
1
しおりを挟む
満開の桜が告げる新年度の始まりから、数日経ったある日の午前。
心地の良い日差しと過ごしやすい温かさが肌に触れる。絶好のお出かけ日和とはこの日のことだろう。
ハイネックインナーとシャツ、ニットを重ね着し、薄手のコートを羽織る。いつものリュックを背負った寿葉は、マンションの玄関に向かった。
玄関門近くには、既に到着した、
「輝一さん、お久しぶりです! 待っててくれてありがとうございます」
「寿葉さん、おはようございます。僕も今来たところなので」
白いシャツにニットベストを重ね、淡いベージュのスプリングコートを羽織っている輝一の姿が目に入る。
以前、助けてもらった時と違う私服、背の高い輝一はやはりモデルのようで写真映えするだろうなぁ、と寿葉は感じていた。
今日は輝一と一緒に映画を見に行く約束をしていた。休みを合わせてくれ、マンションまで迎えに行くとまで言ってくれた。相変わらず優しいが、少し気を使わせてしまっているだろうか……と寿葉は感じていた。
しかし、輝一は、
「僕自身の望みでもあるので、お気になさらないでください」
と柔らかく微笑んでくれた。改めて振る舞いも言葉も紳士的だと寿葉は感心した。
「さあ、行きましょうか!」
顔を見合わせ、微笑みを交わす。初めてふたりで映画を見に行く。楽しみで仕方ない足取りに、桜の花びらが舞い上がっていた。
街中の映画館に着き、チケットを買う。今日は平日なのもあり、人はそこまで多くない。
近くの長椅子に座り、上映時間まで少し待つことになった。今日見る映画のあらすじや、新作映画のパンフレットなどを片手に語りながら。
「僕はあまり街中の映画館に来なくて……」
「そうなんですか! 僕はひとりでもよく来ますよ。1日2回とか平気で見ちゃいますね!」
輝一は自宅で見る派なのだろうか? 少し緊張している様子だ。寿葉は不思議に思いながらも、焦らず輝一のことを知っていこうと話を続けた。
程なくして、開場を伝えるアナウンスが流れ出す。寿葉と輝一は館内へと向かった。
今から見る映画は、過去へとタイムスリップしてしまう双子の話、『ホテルRe:Wind』という国内映画。SFサスペンスだが、ミステリー要素もあり、予告から面白そうだ、とふたりで相談して決めた。
疎らに座る客たちの間、並んで座る。しんと静まり返り、照明が落とされた。
いよいよ始まる。高揚感と緊張感を抱えながら、互いにスクリーンに集中した。
2時間少し、無言で映画に向き合った。率直に面白い内容ではあった。伏線も回収され、しっかりまとめられた綺麗な終わり方。
しかし、一部現実味のある表現に、輝一は心が痛くなった。
「さ、出ましょうか」
「はい」
ゆっくりと明るくなった館内、寿葉の呼びかけに席を立つ。淡い照明に照らされた寿葉の表情も、少し曇っているように見えた。
寿葉の提案で、近くのカフェに入った。席に座り、一緒に感想を語り合うはずだったのに……
正直なところ、映画の全体の内容より、たったワンシーンの衝撃に意識を奪われている。
かける言葉を探している。一言も発せない。店員の声や食事をしている人の食器の音が、やけにはっきりと輝一の耳に響く。
「……寿葉さん……大丈夫ですか?」
こんなこと聞くべきではないのに、沈黙に耐えきれずに輝一は問いかけてしまった。
「……あぁ、もしかして、『人間の差別表現』のことですか?」
「……はい。まさかこんな生々しい表現があるとは僕も想像していなくて……」
知っていたら別の映画にしたかもしれない。予告でも触れられなかったシーンだった分、予想もできなかった。
寿葉は眉を落としながらも、微笑んで続けた。
「気遣ってくれてありがとうございます。気にしていない、って言ったら嘘になるんですけど……フィクションでもリアリティがある方が没入できるというか、過去の世界にこういうことがあった、と知ることもできるから……リスクを承知で、監督は描いたんだなって思っています」
輝一も現実味があるからこその面白さは理解しているが、それでも……
黙り込んだ寿葉は、ゆっくり視線までも落としてしまった。
「……でも、いろいろ考えはしましたし、苦しくもなってしまいました。今は差別自体少なくなったけど、僕は今でも感じることはあるんです。僕の住んでいるマンションだって、人間専用のものだし……」
「そう、ですね……僕も、主に人間の皆さんを守るための部署に所属していますから……平等には……感じないのも無理ないですよね」
「輝一さんは悪くないですよ! 世界全体の問題ですし……劣等種と蔑まれていた時代から、皆同じ命として人間も平等とする時代に、変わってきたのも事実です。でも、未だに血液事件が続いていて、どうしても僕たちは獣人よりも、守られる立場が強くなって……結果、人間だけ特別視されているようにみえて、不満を抱いている獣人もいますし……事件にかこつける獣人もいますから……」
チクリと胸が痛む。寿葉が感じている気持ちは、獣人である自分よりもずっと重いものだ。輝一は以前寿葉が襲われた事件や、過去に絡めて複雑に思った。
「……すみません、映画の話から逸れてしまいましたね。暗い雰囲気にするつもりはなかったんですけど……」
「いえ、問いかけたのは僕の方です。答えにくいことだったにも拘わらず、答えてくださってありがとうございます。映画をきっかけに過去や今の認識を知ることも僕は大事だと思いますし、寿葉さんの感じている気持ちも大切なものですから。皆平等といえる世界は難しいかもしれませんが、少なくとも今、僕とあなたは、立場も人種も関係なく対等です」
獣人と人間の立場というデリケートな話題を、広げてしまったことに寿葉は申し訳なく感じた。素直に話しても、受け取るには難しいものだ。でも、輝一は真っ直ぐ向き合って返してくれた。
だからこそ、寿葉も目の前の輝一に向き合うべきだと思った。
「ふふ、そうですね。ありがとうございます。今を大事にしないとですね! じゃあ、映画の話、しましょうか!」
ようやく、本題の映画全体の話を交わす。
好きなシーンやセリフ、意外だったところ、主人公たちの心情、タイムトラベルものだからこその、タイムパラドックスについてなど、時間も忘れ、語り尽くした。
気づけば昼も過ぎ、14時を回ろうとしている。お茶と軽食だけでカフェに長居しすぎた、と思い寿葉たちは席を立った。
一緒に映画も見て、感想も語り合った、もう十分すぎるくらい心は満たされている。それでも、もう少し話がしたいなんて、欲張りだろうか……輝一が考えを巡らせていると、多賀野から言われた言葉が頭をよぎる。
「もっと自分の気持ちに素直になった方がいい」
自分の気持ちに従うことは難しい、と未だ感じる。けれど、勇気を出して寿葉に声をかけた。
「寿葉さん、まだ時間はありますか? よろしければ、もう1本、一緒に映画を見ませんか?」
――
輝一の誘いに頷いたはいいが、先程いた映画館からは遠のいていく案内。寿葉は不思議に思いながらも輝一についていく。
街中から電車に揺られ、二駅先で降りる。賑わう商店街を通り抜け、少し薄暗い路地に入った。
一体どこに向かうのだろうか。どことなく怪しげだが、ノスタルジックな雰囲気も漂う。
人一人いない裏路地から少し開けた場所に出た。古びた看板がぽつり佇む。そこには『シアター森谷』と書かれてあった。
「好きな映画の円盤を持っていくと、スクリーンに映して見ることができる、会員制の特別な映画館なんです。僕はよくここで映画を見せていただいています。お貸しする予定で持ってきた『秘密結社LOTUS』、せっかくなので一緒に見たいと思いまして……」
少し照れている様子の輝一から、そう説明された。
こんな穴場シアターがあるとは……深いワインブラウンの扉や壁に、金色の装飾が散りばめてあり、年季を感じさせる色褪せすらおしゃれに見える。
「すごいですね! こんな所にあるなんて!」
「館主の森谷(もりや)さんも映画好きなんです。寿葉さんのことを、ぜひ紹介したいと思っていましたから。さぁ、入ってください」
ギィッ、と音が軋む、輝一が開けてくれた重厚感のある扉。同じ映画好き、と聞いて歓喜に満ちながら寿葉は建物内へと入った。
暖色のライトがぼんやりと照らすレッドカーペット。辺りを見回して目に留まった掲示板に、古びたポスターや貼り紙が少々乱雑に貼られてあった。
その1枚の貼り紙が目に飛び込む。一際大きく書かれた『人間は館内立ち入り禁止!』という文字に、寿葉は胸が締め付けられた。
「輝一さん……これ……」
「寿葉さん、大丈夫です。一緒に行きましょう」
動揺を隠せない。しかし、輝一は戸惑うことなく、心配ないという表情で力強く頷いた。
「昔、この映画館で人間の誘拐未遂事件があったんです。上映中の館内は暗く音も大きいので犯罪しやすい状況ですから。純粋に映画を楽しむ場を犯罪に使われることや、誰かが傷つくのを望まないその結果、人間の出入りを制限した、と森谷さんが仰っていました。人間のことを差別したい訳でも嫌いな訳でもないんです。極端なやり方だと僕は思うのですが、森谷さんも心から映画が好きな優しい方ですから、寿葉さんともきっと、お話出来ると思います」
輝一は隣を歩きながら、立ち入り禁止の理由を話してくれた。
そんなことがあったのか……一瞬不信感を抱いてしまったが、優しく誠実な輝一が信頼を寄せている人なら、悪い人ではないのかもしれない。それでも微かに、寿葉の胸の痛みが残る。
少し長い廊下の奥、小さな受付と人のシルエットらしきものが見えてきた。
「森谷さん、こんにちは」
「ん? 同志か……先週ぶりか?そいつは誰だ?」
寿葉に向かって毛で覆われた指が指す。フクロウ……いや、ミミズクだろうか。動物としての血が濃い獣人がカウンター越しに座って見上げる。
茶色い羽毛が覆う顔、頭から飛び出ている角のような羽角、黒いくちばし、大きくはないが確かにある翼、そして輝一によく似た丸い瞳が見つめてくる。
「僕の友人の寿葉さんです。僕と同じく映画がお好きな方です。ここで一緒に映画を見に来ました。せっかくですから僕の行きつけである、この映画館や森谷さんのことも紹介しようと思いまして……」
「ほう、人間か……あんたも映画が好きなのか?」
鋭い眼光に、少し身を引く。妙な緊張を感じながらも寿葉は口を開いた。
「は、はい! 映画大好きです! えっと……幅広く見ていて、国内作品が好きで、海外作品やB級映画も……」
「僕が好きな作品もたくさん知っている方で――」
吃りかけていたところを輝一が丁寧に紹介してくれた。森谷は寿葉からようやく視線を外して、ふぅ……と小さく息を吐いた。
「同志が言うなら信じよう。同志の趣味に合うやつなんて滅多におらんからな。今日からあんたも同志だ」
森谷から再び、ビシッと指をさされる。独特な世界観に寿葉は首を傾げ、輝一にこっそりと問いかけた。
「えっと、さっきから何度も言っている、『同志』って?」
「映画好きの『同志』という意味です。お歳を召していらっしゃるのもあって、新しく名前を覚えるのが苦手と仰っていました。僕もずっと同志って呼ばれています」
な、なるほど、と寿葉は小さく頷いた。
杖を支えに、よいしょ、と呟きながらゆっくりと立ち上がる森谷。動物の血が濃いと見た目では判断しづらいが、確かにお年寄りのようだ。
輝一がDVDを森谷に渡す。するとケースをまじまじと見て、顎に手を当てながら森谷は呟いた。
「最近の作品だが……珍しい国の映画だな……一体どこで仕入れてくるのか、不思議に思うな」
「僕がお勧めした作品で、寿葉さんも見たいと仰ってくれましたから……ぜひ、ここで上映していただきたいです」
「ふむ……ここは映画に真摯に向き合う場所だからな。いいだろう。客は誰もおらん、貸切だ。思う存分楽しんでくれ」
「ありがとうございます!」
寿葉が頭を下げると、森谷は目を細め微笑んでいるようだった。
予想していた不信感が薄れていく。ただ純粋に映画が好きな人、輝一の言葉通りだった。
案内された館内。街中の映画館より小さいがしっかりとした造り。スクリーン全体が見える真ん中の特等席にふたり並んで座った。
座り心地の良い上質な椅子。深々と腰かけ、寿葉は緊張感から強張った体をやっと解放した。
「森谷さん、寿葉さんのこと気に入っている様子でしたよ」
「そうですかね? 独特な雰囲気でちょっと怖かったけど……」
「僕も最初出会った時はそう感じましたよ。でも映画のこと知らなかった僕に、すごく丁寧に教えてくださった方なんです。森谷さんのおかげで、もっと色んな作品に触れてみたいと思いましたから」
そう語る輝一はすごく誇らしそうに見えた。
次第に明かりが落ち、スクリーンだけが白く光る。映画が始まる。お互い合わせていた視線をスクリーンに移した。
「……すっごく面白かったです!!」
見終わった瞬間思わず口にしてしまった。
輝一は驚いて目を丸くしていたが、
「面白いと言っていただけて、僕も嬉しいです。お勧めした甲斐がありました。これで、2も3も楽しめますね」
と微笑みかけてくれた。
余韻を感じながら館内から出ると、輝一は何故か立ち止まった。
「見終わった後はいつも館内の掃除をするんです」
「……今から掃除を?」
掃除は従業員がしてくれるもの、街中の大きな映画館での認識しか寿葉にはなかった。
しかし、ここは個人経営。昔は森谷や働いていた従業員が掃除していたが、今は森谷一人、ご老体には広い館内清掃は当然の重労働だ。だから、お客さんが見終わったあと掃除をすると割引してくれるようにしたと、輝一から説明された。
「寿葉さんは先に出て、少しだけ待っていただけますか? すぐに終わるので」
「いやいや、僕も手伝いますよ! むしろ、手伝わせてください!」
映画を見せてもらった敬意を寿葉も誠心誠意伝えたいと、輝一と共に館内清掃をした。
受付に向かい、森谷に挨拶をする。
先程見た作品のことを話すと、楽しそうに森谷は聞いてくれた。
「……事件以来、人間を入れておらんかったが……あんたみたいな映画好きの若い同志がまだおるとはな。長生きはするものだ」
「僕も紹介していただけて嬉しいです! 森谷さん、今日はありがとうございました! ……また見に来てもいいですか?」
「今の上映は知り合いの会員のみしておるが……この同志と一緒に来るならいいだろう。好きな映画の円盤、ビデオでも構わんから持ってこい」
この同志、輝一に対して指を指す。輝一と一緒になら見させてもらえる、という意味だろう。
隣に居る輝一を見上げると、いいですよ、と頷いてくれた。
最初は、人間立ち入り禁止の貼り紙で、動揺してしまった。でも、今は心の痛みも和らぎ、この空間が居心地よく感じる。映画好きの友人が、また新たに出来たという喜びがあった。
「では、また来ますね! ありがとうございました!」
「ありがとうございました。失礼します」
ふたりでお辞儀をし、別れを告げる。森谷は小さく手を振って見送ってくれた。
感情が揺れ動いたこの数時間。帰りの電車に揺られながら、寿葉は今日一日の事を思い返していた。
自分が人間であること、で受ける悲しみはあるけれど、自分のことを尊重してくれる人たちが居る今を大事にしたい、そう思えた。
ようやく最寄り駅に着く。日が沈むオレンジと藍のグラデーションが美しい空を背に、白い街灯が照らす帰り道を並んで歩いた。
寿葉は先程一緒に見た『秘密結社LOTUS』の感想を語った。
「笑えるシーンがとにかく多くて、しっかりとコメディ要素がメインだけど、人としての成長や気づき、考え方の変化など、ヒューマンドラマもあって、主人公たちを含めて全ての登場人物ひとりひとりに魅力を感じる作品でした! 人種も立場も関係なく、皆が笑顔になれる世界が確かにここにあった、と感じます!」
「そうなんです。彼らは『自分も皆も笑顔にする』をモットーに登場する人たちの個性を最大限に活かし、様々なことに挑戦しながら、物語を構成するという精神がとても好きで――」
映画の裏話や自主制作時代の話、相変わらずのユーモア溢れる、独特な感性を交えた感想など、輝一は声色明るく話してくれた。
いつの間にかマンションに着いており、結局は送ってもらうという形になっていた。
「輝一さん、今日はありがとうございました! 一緒に映画も見れて、お話もできたし、森谷さんのことも紹介してくれて、すごく楽しかったです!」
「こちらこそ、ありがとうございました。……誰かと一緒に映画を見に行くことも初めてでしたが……僕も寿葉さんと楽しく過ごさせていただきましたし、感謝しています」
笑顔の寿葉に輝一は安心した。今日一日、複雑な思いを何度も感じただろう。少しでも心が晴れたならよかった、と輝一も頬を緩めた。
しん……と流れる沈黙。輝一からじっ、と見つめられたまま。何か、まだ言いたいことがあるのだろうか? と寿葉は言葉を待つ。
「あの……また一緒に映画、見に行っていただけないでしょうか……?」
「もちろんですよ! また一緒に見に行きましょう! 森谷さんにも会いたいですし! お話もっとしたいですから」
友達ですから、と寿葉は胸を張った。輝一はまだ少し遠慮しているようだ。プライベートで遊ぶこと自体、今回お互い初めてで慣れない部分もあるのだろう。
あっ! と寿葉は思い出したように呟いた。
「僕もお願いがあるんですけど……輝一さんのおすすめの映画、またお借りすることは出来ますか? 今日は森谷さんのところで一緒に見ちゃいましたけど、実を言うと、教えてもらったのにまだ見れていないものがいくつかあって……代わりといってはなんですけど、僕も、輝一さんが見たことない作品、お貸しします!」
「いいですよ。お貸しすると提案したのは僕の方ですから。ぜひ、僕もお借りしたいです。よろしくお願いしますね」
映画を通じてだが、今回限りでなくこれからも関わってくれることは素直に喜ばしい。寿葉と共に過ごせるという望みが今叶っている。
ゆっくりと歩み寄っていく関係が輝一は心地よく感じていた。
「じゃあ、また連絡しますね! 今日は本当にありがとうございました!!」
「はい、こちらこそ、ありがとうございました。ゆっくり休んでくださいね」
別れの礼と挨拶を交わした。笑顔で手を振る寿葉を背に、機動隊本部へと輝一は歩き出す。
1歩1歩、足を進める度、思い返す今日のこと。1歩1歩……楽しかった心地の良い記憶の合間、どうしようもない過去の事実が現実に引き戻してくる。
誰もいない夜道に吹く冷たい風が、さらに不安を煽ってきた。
改めて強く感じた、人間であることで傷ついてきた寿葉のこと。
寿葉との繋がりに舞い上がっていた輝一に、後ろめたい過去の出来事が過ってしまった。
分かっていながらも、寿葉とのこの縁を手放したくないと思ってしまう。このことを知れば、寿葉が傷ついてしまうかもしれないけれど、それでも……
映画のことも、それに、あなたのことももっと知りたい。始まったばかりの今の関係値では、告げることが出来ない過去のことも、優しくて真っ直ぐなあなたになら、いつか話せる日が来るのだろうか。
自分のことも知って欲しいだなんて、こんな気持ち初めてだ。
私欲と理性が渦巻く中でも、寿葉と関わる道を選びとることを、輝一は改めて強く決意する。
☆今回の映画紹介
『ホテルRe:Wind』
主人公の双子たちが偶然見つけたノート。
それは、すでに廃業したホテル『Wind』の、来客が好きに記録を残せるノートだった。
ノートを手に廃墟になったホテル跡地に向かうと、壊れていたエレベーターが突然動き出す。扉が開くと過去のホテルにタイムスリップしていた。
ノートに記された過去を辿り、タイムスリップの謎とホテルの真実を追う、SFサスペンス。
評価☆3.0
当時の時代再現の高さは目を見張るものがある。だからこそ現実的な嫌悪が否めない。主軸となる物語は面白いが、時代的差別の印象が色濃く感じる。
(40代・男性)
心地の良い日差しと過ごしやすい温かさが肌に触れる。絶好のお出かけ日和とはこの日のことだろう。
ハイネックインナーとシャツ、ニットを重ね着し、薄手のコートを羽織る。いつものリュックを背負った寿葉は、マンションの玄関に向かった。
玄関門近くには、既に到着した、
「輝一さん、お久しぶりです! 待っててくれてありがとうございます」
「寿葉さん、おはようございます。僕も今来たところなので」
白いシャツにニットベストを重ね、淡いベージュのスプリングコートを羽織っている輝一の姿が目に入る。
以前、助けてもらった時と違う私服、背の高い輝一はやはりモデルのようで写真映えするだろうなぁ、と寿葉は感じていた。
今日は輝一と一緒に映画を見に行く約束をしていた。休みを合わせてくれ、マンションまで迎えに行くとまで言ってくれた。相変わらず優しいが、少し気を使わせてしまっているだろうか……と寿葉は感じていた。
しかし、輝一は、
「僕自身の望みでもあるので、お気になさらないでください」
と柔らかく微笑んでくれた。改めて振る舞いも言葉も紳士的だと寿葉は感心した。
「さあ、行きましょうか!」
顔を見合わせ、微笑みを交わす。初めてふたりで映画を見に行く。楽しみで仕方ない足取りに、桜の花びらが舞い上がっていた。
街中の映画館に着き、チケットを買う。今日は平日なのもあり、人はそこまで多くない。
近くの長椅子に座り、上映時間まで少し待つことになった。今日見る映画のあらすじや、新作映画のパンフレットなどを片手に語りながら。
「僕はあまり街中の映画館に来なくて……」
「そうなんですか! 僕はひとりでもよく来ますよ。1日2回とか平気で見ちゃいますね!」
輝一は自宅で見る派なのだろうか? 少し緊張している様子だ。寿葉は不思議に思いながらも、焦らず輝一のことを知っていこうと話を続けた。
程なくして、開場を伝えるアナウンスが流れ出す。寿葉と輝一は館内へと向かった。
今から見る映画は、過去へとタイムスリップしてしまう双子の話、『ホテルRe:Wind』という国内映画。SFサスペンスだが、ミステリー要素もあり、予告から面白そうだ、とふたりで相談して決めた。
疎らに座る客たちの間、並んで座る。しんと静まり返り、照明が落とされた。
いよいよ始まる。高揚感と緊張感を抱えながら、互いにスクリーンに集中した。
2時間少し、無言で映画に向き合った。率直に面白い内容ではあった。伏線も回収され、しっかりまとめられた綺麗な終わり方。
しかし、一部現実味のある表現に、輝一は心が痛くなった。
「さ、出ましょうか」
「はい」
ゆっくりと明るくなった館内、寿葉の呼びかけに席を立つ。淡い照明に照らされた寿葉の表情も、少し曇っているように見えた。
寿葉の提案で、近くのカフェに入った。席に座り、一緒に感想を語り合うはずだったのに……
正直なところ、映画の全体の内容より、たったワンシーンの衝撃に意識を奪われている。
かける言葉を探している。一言も発せない。店員の声や食事をしている人の食器の音が、やけにはっきりと輝一の耳に響く。
「……寿葉さん……大丈夫ですか?」
こんなこと聞くべきではないのに、沈黙に耐えきれずに輝一は問いかけてしまった。
「……あぁ、もしかして、『人間の差別表現』のことですか?」
「……はい。まさかこんな生々しい表現があるとは僕も想像していなくて……」
知っていたら別の映画にしたかもしれない。予告でも触れられなかったシーンだった分、予想もできなかった。
寿葉は眉を落としながらも、微笑んで続けた。
「気遣ってくれてありがとうございます。気にしていない、って言ったら嘘になるんですけど……フィクションでもリアリティがある方が没入できるというか、過去の世界にこういうことがあった、と知ることもできるから……リスクを承知で、監督は描いたんだなって思っています」
輝一も現実味があるからこその面白さは理解しているが、それでも……
黙り込んだ寿葉は、ゆっくり視線までも落としてしまった。
「……でも、いろいろ考えはしましたし、苦しくもなってしまいました。今は差別自体少なくなったけど、僕は今でも感じることはあるんです。僕の住んでいるマンションだって、人間専用のものだし……」
「そう、ですね……僕も、主に人間の皆さんを守るための部署に所属していますから……平等には……感じないのも無理ないですよね」
「輝一さんは悪くないですよ! 世界全体の問題ですし……劣等種と蔑まれていた時代から、皆同じ命として人間も平等とする時代に、変わってきたのも事実です。でも、未だに血液事件が続いていて、どうしても僕たちは獣人よりも、守られる立場が強くなって……結果、人間だけ特別視されているようにみえて、不満を抱いている獣人もいますし……事件にかこつける獣人もいますから……」
チクリと胸が痛む。寿葉が感じている気持ちは、獣人である自分よりもずっと重いものだ。輝一は以前寿葉が襲われた事件や、過去に絡めて複雑に思った。
「……すみません、映画の話から逸れてしまいましたね。暗い雰囲気にするつもりはなかったんですけど……」
「いえ、問いかけたのは僕の方です。答えにくいことだったにも拘わらず、答えてくださってありがとうございます。映画をきっかけに過去や今の認識を知ることも僕は大事だと思いますし、寿葉さんの感じている気持ちも大切なものですから。皆平等といえる世界は難しいかもしれませんが、少なくとも今、僕とあなたは、立場も人種も関係なく対等です」
獣人と人間の立場というデリケートな話題を、広げてしまったことに寿葉は申し訳なく感じた。素直に話しても、受け取るには難しいものだ。でも、輝一は真っ直ぐ向き合って返してくれた。
だからこそ、寿葉も目の前の輝一に向き合うべきだと思った。
「ふふ、そうですね。ありがとうございます。今を大事にしないとですね! じゃあ、映画の話、しましょうか!」
ようやく、本題の映画全体の話を交わす。
好きなシーンやセリフ、意外だったところ、主人公たちの心情、タイムトラベルものだからこその、タイムパラドックスについてなど、時間も忘れ、語り尽くした。
気づけば昼も過ぎ、14時を回ろうとしている。お茶と軽食だけでカフェに長居しすぎた、と思い寿葉たちは席を立った。
一緒に映画も見て、感想も語り合った、もう十分すぎるくらい心は満たされている。それでも、もう少し話がしたいなんて、欲張りだろうか……輝一が考えを巡らせていると、多賀野から言われた言葉が頭をよぎる。
「もっと自分の気持ちに素直になった方がいい」
自分の気持ちに従うことは難しい、と未だ感じる。けれど、勇気を出して寿葉に声をかけた。
「寿葉さん、まだ時間はありますか? よろしければ、もう1本、一緒に映画を見ませんか?」
――
輝一の誘いに頷いたはいいが、先程いた映画館からは遠のいていく案内。寿葉は不思議に思いながらも輝一についていく。
街中から電車に揺られ、二駅先で降りる。賑わう商店街を通り抜け、少し薄暗い路地に入った。
一体どこに向かうのだろうか。どことなく怪しげだが、ノスタルジックな雰囲気も漂う。
人一人いない裏路地から少し開けた場所に出た。古びた看板がぽつり佇む。そこには『シアター森谷』と書かれてあった。
「好きな映画の円盤を持っていくと、スクリーンに映して見ることができる、会員制の特別な映画館なんです。僕はよくここで映画を見せていただいています。お貸しする予定で持ってきた『秘密結社LOTUS』、せっかくなので一緒に見たいと思いまして……」
少し照れている様子の輝一から、そう説明された。
こんな穴場シアターがあるとは……深いワインブラウンの扉や壁に、金色の装飾が散りばめてあり、年季を感じさせる色褪せすらおしゃれに見える。
「すごいですね! こんな所にあるなんて!」
「館主の森谷(もりや)さんも映画好きなんです。寿葉さんのことを、ぜひ紹介したいと思っていましたから。さぁ、入ってください」
ギィッ、と音が軋む、輝一が開けてくれた重厚感のある扉。同じ映画好き、と聞いて歓喜に満ちながら寿葉は建物内へと入った。
暖色のライトがぼんやりと照らすレッドカーペット。辺りを見回して目に留まった掲示板に、古びたポスターや貼り紙が少々乱雑に貼られてあった。
その1枚の貼り紙が目に飛び込む。一際大きく書かれた『人間は館内立ち入り禁止!』という文字に、寿葉は胸が締め付けられた。
「輝一さん……これ……」
「寿葉さん、大丈夫です。一緒に行きましょう」
動揺を隠せない。しかし、輝一は戸惑うことなく、心配ないという表情で力強く頷いた。
「昔、この映画館で人間の誘拐未遂事件があったんです。上映中の館内は暗く音も大きいので犯罪しやすい状況ですから。純粋に映画を楽しむ場を犯罪に使われることや、誰かが傷つくのを望まないその結果、人間の出入りを制限した、と森谷さんが仰っていました。人間のことを差別したい訳でも嫌いな訳でもないんです。極端なやり方だと僕は思うのですが、森谷さんも心から映画が好きな優しい方ですから、寿葉さんともきっと、お話出来ると思います」
輝一は隣を歩きながら、立ち入り禁止の理由を話してくれた。
そんなことがあったのか……一瞬不信感を抱いてしまったが、優しく誠実な輝一が信頼を寄せている人なら、悪い人ではないのかもしれない。それでも微かに、寿葉の胸の痛みが残る。
少し長い廊下の奥、小さな受付と人のシルエットらしきものが見えてきた。
「森谷さん、こんにちは」
「ん? 同志か……先週ぶりか?そいつは誰だ?」
寿葉に向かって毛で覆われた指が指す。フクロウ……いや、ミミズクだろうか。動物としての血が濃い獣人がカウンター越しに座って見上げる。
茶色い羽毛が覆う顔、頭から飛び出ている角のような羽角、黒いくちばし、大きくはないが確かにある翼、そして輝一によく似た丸い瞳が見つめてくる。
「僕の友人の寿葉さんです。僕と同じく映画がお好きな方です。ここで一緒に映画を見に来ました。せっかくですから僕の行きつけである、この映画館や森谷さんのことも紹介しようと思いまして……」
「ほう、人間か……あんたも映画が好きなのか?」
鋭い眼光に、少し身を引く。妙な緊張を感じながらも寿葉は口を開いた。
「は、はい! 映画大好きです! えっと……幅広く見ていて、国内作品が好きで、海外作品やB級映画も……」
「僕が好きな作品もたくさん知っている方で――」
吃りかけていたところを輝一が丁寧に紹介してくれた。森谷は寿葉からようやく視線を外して、ふぅ……と小さく息を吐いた。
「同志が言うなら信じよう。同志の趣味に合うやつなんて滅多におらんからな。今日からあんたも同志だ」
森谷から再び、ビシッと指をさされる。独特な世界観に寿葉は首を傾げ、輝一にこっそりと問いかけた。
「えっと、さっきから何度も言っている、『同志』って?」
「映画好きの『同志』という意味です。お歳を召していらっしゃるのもあって、新しく名前を覚えるのが苦手と仰っていました。僕もずっと同志って呼ばれています」
な、なるほど、と寿葉は小さく頷いた。
杖を支えに、よいしょ、と呟きながらゆっくりと立ち上がる森谷。動物の血が濃いと見た目では判断しづらいが、確かにお年寄りのようだ。
輝一がDVDを森谷に渡す。するとケースをまじまじと見て、顎に手を当てながら森谷は呟いた。
「最近の作品だが……珍しい国の映画だな……一体どこで仕入れてくるのか、不思議に思うな」
「僕がお勧めした作品で、寿葉さんも見たいと仰ってくれましたから……ぜひ、ここで上映していただきたいです」
「ふむ……ここは映画に真摯に向き合う場所だからな。いいだろう。客は誰もおらん、貸切だ。思う存分楽しんでくれ」
「ありがとうございます!」
寿葉が頭を下げると、森谷は目を細め微笑んでいるようだった。
予想していた不信感が薄れていく。ただ純粋に映画が好きな人、輝一の言葉通りだった。
案内された館内。街中の映画館より小さいがしっかりとした造り。スクリーン全体が見える真ん中の特等席にふたり並んで座った。
座り心地の良い上質な椅子。深々と腰かけ、寿葉は緊張感から強張った体をやっと解放した。
「森谷さん、寿葉さんのこと気に入っている様子でしたよ」
「そうですかね? 独特な雰囲気でちょっと怖かったけど……」
「僕も最初出会った時はそう感じましたよ。でも映画のこと知らなかった僕に、すごく丁寧に教えてくださった方なんです。森谷さんのおかげで、もっと色んな作品に触れてみたいと思いましたから」
そう語る輝一はすごく誇らしそうに見えた。
次第に明かりが落ち、スクリーンだけが白く光る。映画が始まる。お互い合わせていた視線をスクリーンに移した。
「……すっごく面白かったです!!」
見終わった瞬間思わず口にしてしまった。
輝一は驚いて目を丸くしていたが、
「面白いと言っていただけて、僕も嬉しいです。お勧めした甲斐がありました。これで、2も3も楽しめますね」
と微笑みかけてくれた。
余韻を感じながら館内から出ると、輝一は何故か立ち止まった。
「見終わった後はいつも館内の掃除をするんです」
「……今から掃除を?」
掃除は従業員がしてくれるもの、街中の大きな映画館での認識しか寿葉にはなかった。
しかし、ここは個人経営。昔は森谷や働いていた従業員が掃除していたが、今は森谷一人、ご老体には広い館内清掃は当然の重労働だ。だから、お客さんが見終わったあと掃除をすると割引してくれるようにしたと、輝一から説明された。
「寿葉さんは先に出て、少しだけ待っていただけますか? すぐに終わるので」
「いやいや、僕も手伝いますよ! むしろ、手伝わせてください!」
映画を見せてもらった敬意を寿葉も誠心誠意伝えたいと、輝一と共に館内清掃をした。
受付に向かい、森谷に挨拶をする。
先程見た作品のことを話すと、楽しそうに森谷は聞いてくれた。
「……事件以来、人間を入れておらんかったが……あんたみたいな映画好きの若い同志がまだおるとはな。長生きはするものだ」
「僕も紹介していただけて嬉しいです! 森谷さん、今日はありがとうございました! ……また見に来てもいいですか?」
「今の上映は知り合いの会員のみしておるが……この同志と一緒に来るならいいだろう。好きな映画の円盤、ビデオでも構わんから持ってこい」
この同志、輝一に対して指を指す。輝一と一緒になら見させてもらえる、という意味だろう。
隣に居る輝一を見上げると、いいですよ、と頷いてくれた。
最初は、人間立ち入り禁止の貼り紙で、動揺してしまった。でも、今は心の痛みも和らぎ、この空間が居心地よく感じる。映画好きの友人が、また新たに出来たという喜びがあった。
「では、また来ますね! ありがとうございました!」
「ありがとうございました。失礼します」
ふたりでお辞儀をし、別れを告げる。森谷は小さく手を振って見送ってくれた。
感情が揺れ動いたこの数時間。帰りの電車に揺られながら、寿葉は今日一日の事を思い返していた。
自分が人間であること、で受ける悲しみはあるけれど、自分のことを尊重してくれる人たちが居る今を大事にしたい、そう思えた。
ようやく最寄り駅に着く。日が沈むオレンジと藍のグラデーションが美しい空を背に、白い街灯が照らす帰り道を並んで歩いた。
寿葉は先程一緒に見た『秘密結社LOTUS』の感想を語った。
「笑えるシーンがとにかく多くて、しっかりとコメディ要素がメインだけど、人としての成長や気づき、考え方の変化など、ヒューマンドラマもあって、主人公たちを含めて全ての登場人物ひとりひとりに魅力を感じる作品でした! 人種も立場も関係なく、皆が笑顔になれる世界が確かにここにあった、と感じます!」
「そうなんです。彼らは『自分も皆も笑顔にする』をモットーに登場する人たちの個性を最大限に活かし、様々なことに挑戦しながら、物語を構成するという精神がとても好きで――」
映画の裏話や自主制作時代の話、相変わらずのユーモア溢れる、独特な感性を交えた感想など、輝一は声色明るく話してくれた。
いつの間にかマンションに着いており、結局は送ってもらうという形になっていた。
「輝一さん、今日はありがとうございました! 一緒に映画も見れて、お話もできたし、森谷さんのことも紹介してくれて、すごく楽しかったです!」
「こちらこそ、ありがとうございました。……誰かと一緒に映画を見に行くことも初めてでしたが……僕も寿葉さんと楽しく過ごさせていただきましたし、感謝しています」
笑顔の寿葉に輝一は安心した。今日一日、複雑な思いを何度も感じただろう。少しでも心が晴れたならよかった、と輝一も頬を緩めた。
しん……と流れる沈黙。輝一からじっ、と見つめられたまま。何か、まだ言いたいことがあるのだろうか? と寿葉は言葉を待つ。
「あの……また一緒に映画、見に行っていただけないでしょうか……?」
「もちろんですよ! また一緒に見に行きましょう! 森谷さんにも会いたいですし! お話もっとしたいですから」
友達ですから、と寿葉は胸を張った。輝一はまだ少し遠慮しているようだ。プライベートで遊ぶこと自体、今回お互い初めてで慣れない部分もあるのだろう。
あっ! と寿葉は思い出したように呟いた。
「僕もお願いがあるんですけど……輝一さんのおすすめの映画、またお借りすることは出来ますか? 今日は森谷さんのところで一緒に見ちゃいましたけど、実を言うと、教えてもらったのにまだ見れていないものがいくつかあって……代わりといってはなんですけど、僕も、輝一さんが見たことない作品、お貸しします!」
「いいですよ。お貸しすると提案したのは僕の方ですから。ぜひ、僕もお借りしたいです。よろしくお願いしますね」
映画を通じてだが、今回限りでなくこれからも関わってくれることは素直に喜ばしい。寿葉と共に過ごせるという望みが今叶っている。
ゆっくりと歩み寄っていく関係が輝一は心地よく感じていた。
「じゃあ、また連絡しますね! 今日は本当にありがとうございました!!」
「はい、こちらこそ、ありがとうございました。ゆっくり休んでくださいね」
別れの礼と挨拶を交わした。笑顔で手を振る寿葉を背に、機動隊本部へと輝一は歩き出す。
1歩1歩、足を進める度、思い返す今日のこと。1歩1歩……楽しかった心地の良い記憶の合間、どうしようもない過去の事実が現実に引き戻してくる。
誰もいない夜道に吹く冷たい風が、さらに不安を煽ってきた。
改めて強く感じた、人間であることで傷ついてきた寿葉のこと。
寿葉との繋がりに舞い上がっていた輝一に、後ろめたい過去の出来事が過ってしまった。
分かっていながらも、寿葉とのこの縁を手放したくないと思ってしまう。このことを知れば、寿葉が傷ついてしまうかもしれないけれど、それでも……
映画のことも、それに、あなたのことももっと知りたい。始まったばかりの今の関係値では、告げることが出来ない過去のことも、優しくて真っ直ぐなあなたになら、いつか話せる日が来るのだろうか。
自分のことも知って欲しいだなんて、こんな気持ち初めてだ。
私欲と理性が渦巻く中でも、寿葉と関わる道を選びとることを、輝一は改めて強く決意する。
☆今回の映画紹介
『ホテルRe:Wind』
主人公の双子たちが偶然見つけたノート。
それは、すでに廃業したホテル『Wind』の、来客が好きに記録を残せるノートだった。
ノートを手に廃墟になったホテル跡地に向かうと、壊れていたエレベーターが突然動き出す。扉が開くと過去のホテルにタイムスリップしていた。
ノートに記された過去を辿り、タイムスリップの謎とホテルの真実を追う、SFサスペンス。
評価☆3.0
当時の時代再現の高さは目を見張るものがある。だからこそ現実的な嫌悪が否めない。主軸となる物語は面白いが、時代的差別の印象が色濃く感じる。
(40代・男性)
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
闘病日記
さとう
BL
闘病中の男の子と、その彼氏
愛を取るのか、彼の幸せを取るのか。
体も心も弱まっていく中での闘病生活。
⚠
・特別な世界観(オメガバース等、非現実的な設定)はなし
・作品設定の都合上、文章が見ずらいです。横書き設定で読むことをおすすめします
・人間の生々しい感情表現を含むため、苦手だと思ったらブラウザバックをおすすめします🥲︎
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる