霧の森のリゼロン

なずとず

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「……っ、レオーネ、っあ、もう、やめ、……っ!」

 リゼロンは半ば泣き出しそうな声で訴え、髪を振り乱しもがいた。レオーネの責めは静かで執拗だ。見えないけれど、恐らく触られすぎて赤くなるほどだろう乳首や、先まで紅潮した耳、敏感になってしまった口内を責められ続けて、気持ち良さともどかしさでどうにかなりそうだ。

 解放されたくて太腿を性器に擦りつけたところで、根元を拘束されているのだから出せるわけでもない。ただ内腿が濡れ、中途半端な刺激でさらに追い詰められるだけだ。

「もういや、いやだっ、……ひぃ、ああぁあっ」

 思わず身を守ろうと姿勢をうつ伏せになろうとしては、胎内を張り型で抉られ、悲鳴を上げる。すっかり熟れたそこはぐずぐずに溶けていきそうなほど熱くて、些細な刺激でさえ強い快感にしてしまうのだ。震えながら堪えていると、レオーネがようやく責めを止めてくれる。ハァハァと呼吸を繰り返し、なんとか休もうとしているのに、

「ひっ⁉ あ、うぅうう、ならぬ、ならぬぅう……っ」

 張り型をゆっくりと動かされ、リゼロンは身を縮めて悶えた。くいくいとほんの少し出し入れしているだけだというのに、先端がリゼロンの最も弱い場所を撫でるものだからたまったものではない。縛られたままの手がぎゅうと握りしめられ、足の指に力が入る。

 気持ち良すぎる。こんなのは、無理だ。

「レオーネっ、ダメだ、だめ、やめ、やめて、ああ、っ!」

 止めるように訴えているのに、一番弱い場所をぐりぐりと押されて頭が真っ白になりかける。びくびくと身体が跳ねるのは、逃げようとしているのか、あるいはもっと決定的な快感を得ようとしているのか、それさえもわからない。か弱い娘のように泣き声を漏らしながら懇願するのは屈辱で、恥ずかしいし辛いのに、せずにいられなかった。

「いやだ、や、め……っあ、あぅううう……っ!」

 なんとか快感から逃げようともがいたけれど、腰を掴まれてそれも叶わない。レオーネは何も言わずにリゼロンを責めるものだから、弄ばれていることを余計に実感してしまう。

 最早ひっきりなしに溢れ出る声を抑えることもできなくなって、縋るものの無い手が握りしめられる。そこに何か布が有ったから、リゼロンは思わずそれをぎゅうと握り、快感に震えた。それがレオーネの服だと、レオーネもそうすることを許したともわからなかったけれど。

「レオーネ、レオーネぇ……っ、つ、つらい、解いて、解いてくれ……っ、苦しいぃ……っ!」

 直接的な刺激に全身が限界を訴えている。脚が勝手にガクガクと震え、今にも絶頂を迎えてしまいそうなのに、前を縛られている為にその時が来ない。行き場の無い強い快感が、熱となって脳まで溶かしていくようだ。涙が溢れては目隠しの布に沁み込んでいく。

「出したいか?」

「ひっ、い……!」

 唐突に耳元で囁かれ、それだけで身体が跳ねる。出したい、楽になりたくてたまらない。頭の中はそれでいっぱいだけれど、言葉に出すことはできず唇を噛み締める。

「真実を話せば、楽になれるぞ?」

 かぷ、と耳朶を甘く噛まれ、その感覚さえ熱になる。わかっている、それをレオーネが求めていることも、言えば楽になれることだって。

 それでも。それでも、言えないのだ。

「……っ、言え、ぬ、……っ」

「しかたないな……」

「……ッア⁉ や、そこ、だ、めぇ……っ!」

 レオーネの指が、ぬる、と性器の先端を撫で、リゼロンが悲鳴を上げる。散々焦らされていた後での刺激は耐えがたいもので、リゼロンの胎内がきゅうっと締まる。それなのに、張り型を動かす手も止めてもらえない。くちゅくちゅと前後の最も敏感な場所を撫でられ、逃げ場も無い。

「ひあ、あ、あああっ、レオーネ、ッ、ア⁉ ……っだめ、ダメ、何か、何かくる、……っうぅう!」

 苦しい程の快感の波が襲い、腰が勝手に戦慄く。びくびくと身体が震え、頭が真っ白になって何も考えられず、呼吸さえまともにできない。そんな胎内でグリと張り型が動いて、リゼロンは甲高い悲鳴を上げた。

「い、あ、ああぁああ……っ! ……、は、……あ……っ」

 びくん、と身体が大きく跳ねて、高まった快楽は弾ける。何も聞こえない、何もわからなくなるような感覚に満たされ、ぶるぶると震えて堪えた。

 これは、いったい、なんだ。何が起こって……。まるで絶頂したようなのに、何か、違うような――。

 リゼロンの困惑は、レオーネの手の動きが止まらなかったことで猶更強いものになった。

「ひっ、いや、いやだ、なんで……っ」 

 達したハズなのに、全く楽になっていない。敏感になった身体は更なる快感を受けて震えるばかりで、解放される気配が無かった。こんなのは嫌だ、知らない、ダメだ。リゼロンは子供のように首を振って、レオーネから逃れようと身を捩る。

「出さずにイったのか? すごいな……」

「……っ、そ、そんなこと、できるわけ……っ」

 レオーネの声が響くようで、囁かれるだけでどうにかなりそうだ。なんとか否定を口にしたものの、自分でも何がどうなっているのかわからないし、状況から考えるにレオーネの言うことが事実のような気もして。しかしそんなこと、認められない。

 こんなのは知らない。怖い。嫌だ。

 リゼロンはもう殆ど泣きながら、そう口にした。するとレオーネの手が止まる。それでようやっと身体から力を抜くことができて、リゼロンはベッドのシーツに顔を埋めてすすり泣く。

 全て自分が悪いのはわかっている。レオーネに真実を明かせないのは、自分の弱さのせいだ。

 勇気が出ない。それを理由に森から出ず、彼の母親を見殺しにしてしまったのは事実だし、突き放すように森から追い出してしまったのも事実だ。彼が怒り、憎むのも無理はない。復讐を果たそうと考えるのも仕方の無いことだと思う。

 そう頭ではわかっているけれど。だからといって、このような責め苦を甘んじて受け入れられるほど、リゼロンは「エルフらしいエルフ」ではなかった。

「……リゼロン」

 レオーネの声が名を囁く。その声音が優しく感じられたのは何故だろう。視界を遮られた身では何もわからない。ただ、レオーネの手がリゼロンの頬に触れる。それにさえビクリと怯えながら、彼の名を呼ぶと、優しく唇が重ねられた。

 それは先程までのリゼロンを責めるものとは違う、触れるだけの口付けで。リゼロンはその甘さに一瞬状況がわからなくなる。そのままぎゅうと抱きしめられ、その温かさに疲れ果てた身体が溶けていきそうだ。もうこのまま彼の腕の中で眠ってしまいたいとさえ思う。

 なのに、胎内が。性器が疼いて、仕方ない。

「……れおー、ね……っ」

「…………」

「レオー、ネ、もう、許し……っ、あ、あぁああっ!」

 レオーネが顔に優しい口づけを落としてくれていたから、油断していた。唐突に身体に入れられていた張り型が引き抜かれ、リゼロンは仰け反って悲鳴を上げる。そして身体を抱き起こされ、レオーネの太腿の上へと導かれた。

 脚の間に熱いものが触れる。それでレオーネが何をしようとしているのか理解して、リゼロンは弱々しく首を振った。

「やめ、やめてくれ、たのむ、おねがいだから……っうあ、あぁあ、あ……っ!」

 懇願も虚しく、胎内にレオーネの熱い雄が侵入する。向かい合って座り抱かれるような姿勢だから、自重でズルズルと受け入れてしまい、リゼロンは嬌声を抑えられず涙をこぼした。深く受け入れるのは苦しいほどだろうに、薬のせいか快楽に呑まれていくようだ。

 最奥まで受け入れると、レオーネが動かずに待ってくれた。それをありがたいと思う余裕も無い。リゼロンはレオーネの胸に顔を埋め、深い呼吸を繰り返す。その髪を撫で、額に口づけられるのは優しいのに、解放されることのない苦しみも与えられ、頭がどうにかなりそうだ。

 いっそ痛めつけ、憎んでくれたほうがまだマシかもしれない。そう思うほどに、リゼロンの思考も身体もぐちゃぐちゃになってしまっている。辛さをどうにか逸らそうと、無意味だとわかっていてレオーネの胸に顔を摺り寄せる。まるで、幼子が甘えるように。

 その時、小さくレオーネが息を呑むのが聞こえた気がする。

「……っ?」

 レオーネがゆっくりとリゼロンの背に手を回し、拘束を解いた。長い間自由を奪われていた腕は力無く下がり、解放されたからといって何ができるわけでもない。

「ぅ、あ、ア……っ、レオーネ……っ」

 そして前に手をかけられる。またいたぶられるのかと身構えたけれど、その指はどうやら性器を縛る何かを解いてくれたようだ。するり、とそれが取られただけで、解放への期待に身体が震える。思わずレオーネの顔を見上げたけれど、その視界を覆う目隠しだけは取られることがなかった。

「レオーネ、そなた、っ、アア!」

 力の入らない手を伸ばそうとした時、レオーネがリゼロンの身体を揺さぶった。油断していた身体は深くまでレオーネを受け入れ、その衝撃に目の前が真っ白になる。もしかしたら、また達したのかもしれない。震える喉に唇が寄せられ、背を撫でられる。その手は優しいのに、それでも、この行為自体を止めてくれそうにはない。

「……っ、すまぬ、レオーネ……っ」

 リゼロンは静かに、口を開く。

「どうしても、どうしても……そなたにだけは、知られたくないのだ……許してくれとは、言わぬ……。ただ、……わかってくれ……」

「……俺だって同じだ。話してくれれば、最初から……最初からこんなこと、しなくて良かったんだ」

 もう何もかも遅いんだよ、リゼロン。

 吐き捨てるような言葉は、それでもどこか悲しげで。リゼロンはレオーネの顔を見たいと思った。そなたをそんなに追い詰めたのかと、確かめたかった。

「……ッ、あ、ああっあ、ひぃ……っ!」

 しかしそんなリゼロンの思いも、再び動き始めたことによりかき消されてしまう。

 夜は長く、長く、リゼロンが意識を手放すまで続いた。
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