クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

第7話 期末テストと知力ポイント

夏休み前。教室の空気は、普段よりもざわついていた。
「期末テストまで、あと二週間だ」
担任が黒板を叩くと、教室中に嘆きとため息が広がる。
「やっべー、赤点だわ」「補習とかマジ無理」
クラスメイトの声を聞きながら、俺はノートを閉じて窓の外に目をやった。風で雲が流れ、グラウンドの白線が陽に光っている。

（今の俺なら……数字で結果を変えられるかもしれない）

体を鍛え、脂肪を削り、少しずつ自信を取り戻してきた。次は頭で証明する番だ。俺は席を立ち、チャイムが鳴るより早く教室を出た。

―

その日の放課後、横断歩道の手前で画面が光った。

【クエスト発生】
・内容：期末テストで学年平均＋10点を取れ
・報酬：知力＋2　SP＋5

【サブクエスト】
・一時間集中勉強：知力＋0.2／SP＋0.5
・問題集一冊制覇：知力＋0.5／SP＋1
・三日連続5時間勉強：知力＋1／SP＋2

「……やっぱり来たか」
思わず笑ってしまう。数字で伸びるなら、努力を続ける理由になる。

何か役立つものがないかとスキルショップを見てみる。

【スキルショップ】
・知力＋1：SP5
・暗記力＋10％：SP5
・計算速度上昇：SP10

俺は即決した。

【スキル購入：知力＋1】
【スキル購入：暗記力＋10％】

SPを10消費した瞬間、頭が冴え渡る。曇ったガラスを拭き取ったみたいに、教科書の内容が整理されて見える。記号も数字も、まるで脳に自動で収納されていく。

―

家に帰ると、母が夕飯の準備をしていた。食後すぐに自室へ向かう。
「陽斗、勉強するの？珍しいじゃない」
「ま、ちょっとな」
笑ってごまかしつつ、机に積み上げた問題集を片っ端から解く。鉛筆の芯が削れる速度が、いつもより速い。

サブクエストを意識して勉強した。
・一時間ぶっ通しでノートをまとめ、知力＋0.2。
・問題集を一冊終え、知力＋0.5。
・三日連続で五時間机に向かい、知力＋1。
タイマーをセットして、集中と休憩を刻む。ページをめくるたび数字が増える。眠気が来ても「あと0.2」と思えば、さらに一問解ける。

父は新聞をめくりながらぼそっと言った。
「……珍しいな、あいつが勉強してるなんて」
妹の美咲は鼻で笑う。
「どうせすぐ飽きるでしょ」
でも俺は画面の数字を思い出して、机にかじりついた。飽きるわけがない。今の俺は“伸びてる”。

―

二週間は、長いようで短い。学校では相変わらず目立たないまま、昼休みに一人で単語帳をめくる。放課後は図書室の隅の席を固定席にした。ページの端が汗で少しふやけ、シャープペンの跡が指に残る。図書室の時計が午後六時を指すころ、外の空は朱に染まっていた。

理解できなかった公式が、ある瞬間すっと「腑に落ちる」。その瞬間に小さく拳を握る。誰も見ていないから、好きなだけ達成感に浸っていい。画面は淡く光り、数字は冷静に加算されていく。

【サブクエスト達成】
・知力＋1.7（端数扱いを含め学習効果合算）
・SP＋3.5

積み上がるログは、俺の背中を押し続けた。

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そして、期末テスト当日。教室は緊張に包まれ、プリントの束が配られる音が乾いた。俺は深呼吸し、名前を書き、問題に目を走らせた。

英語の長文。以前なら途中で諦めて空欄を並べていた箇所に、ペンが止まらない。段落の主旨が視界の中で線のようにつながっていく。設問に戻ると、答えが浮かび上がるように見えた。
数学の応用問題。条件を読んだ瞬間、解法の筋道が“地図”みたいに展開する。必要な公式が、棚から取り出すみたいに手元に現れる。

「……解ける」
心の奥で呟き、ひたすらペンを走らせた。最後の問題の余白に小さくチェックを付けて、見直しに戻る余裕まであった。

―

一週間後、答案返却。教室の空気が再びざわつく。
「佐久間、英語82、数学79。平均よりだいぶ上だな。なかなかやるじゃないか」
担任の声と同時に、周囲の視線が集まった。
「え、陽斗そんな点？」「マジ？ 前は真ん中より下くらいじゃなかった？」
驚きの声を背に、俺は机の下で画面を呼び出した。

【クエスト達成】
・知力＋2
・SP＋5

数字が跳ね上がる。俺は心の奥でガッツポーズをした。机の中で握った拳は、誰にも見えない。見えなくていい。俺には数字が見えている。

帰り道、夕立ち上がりのアスファルトがまだ湿っていた。匂いが夏の始まりを告げている。自販機の水を一気に飲み干し、空を見上げる。雲の切れ間から覗く青が、やけに澄んでいた。

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【現在のステータス】
・名前：佐久間 陽斗
・年齢：15
・身長：163.1cm（＋3cm）
・体重：67.5kg
・体脂肪率：22％
・筋力：10.0
・耐久：11.0
・知力：10（＋1）
・魅力：4.2
・資産：￥86,400（＋2000／日）
・SP：22.0
・スキル：早食いLv1／資産ブースト（＋2000／日）／暗記力＋10％

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体だけじゃない。頭でも俺は数字で証明できた。まだ完璧じゃないし、いじめだって続いている。けれど、確かに前に進んでいる。母は「最近、顔が凛としてきたね」と笑い、妹は「ふーん」と素っ気なく目をそらした。いい。気づくのは、いつだって遅れてやって来る。

夏休みの蝉の声が、いつもより鮮やかに響いていた。次は、俺の方から世界を変えにいく番だ。