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第64話 株で稼いだ俺、高二の夏にFXへ挑戦する
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美咲の誕生日会が終わってから数日。
にぎやかだったリビングの余韻も消え、俺は自分の部屋の机に腰を下ろしていた。
「……俺も、もう高二か」
窓の外では蝉が鳴き始めている。
梅雨明け間近の湿った空気は肌にまとわりつくのに、胸の奥は妙に軽くて落ち着かない。
(ステータス成長とスキルのおかげで、外見も身体能力も成績も変われた。
資金まで……気づけば、ただ自分を上げることに夢中で――もう二年。そろそろ進路も考えないと、か)
進学か、就職か――それともまったく別の道か。
鍛えた身体を活かして、スポーツのプロを目指す?
いい大学に入って、一流企業に就職する?
……モデルだって、雑誌の編集者から「いつでも事務所に来てよ」なんて声をかけられたし、狙えなくはない。
「……違うな」
俺はステータスウィンドウを開いた。
―
【現在のステータス(七月上旬)】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:16
・身長:180.8cm
・体重:63.0kg/体脂肪率:9.0%
・筋力:27.0
・耐久:27.0
・知力:31.2
・魅力:41.2
・資産(現金):194,000円
・投資中:60,000円(評価額:160,000円/利益:+100,000円)
・総資産:354,000円
・SP:23
・スキル:22(展開可能)
・称号:注目の存在/ヒーロー/聖夜を共に/女子人気独占
・特別イベント:
水城遥(進行中/好感度:89/恋愛条件未達)
一ノ瀬凛(進行中/好感度:74/好意)
星野瑠奈(進行中/好感度:72/好意)
―
……この「力」があったから、俺は変われた。
中学のときの俺じゃ、絶対に無理だった。
努力を続けられたのも、積み重ねが形になったのも、このウィンドウがあったからだ。
だけど――。
「俺だけ、なんだよな」
どうして俺にだけ、この能力が発現したのかはわからない。
でも、おそらく他にはいない。
なら――この力を使って、俺が「きっかけ」になればいい。
いじめられているやつ。
家庭の事情で進学を諦めるやつ。
夢を追いたいのに、どうしても環境が許さないやつ。
「……今度は、俺が助ける側になりたい」
その言葉は、意外と自分の中でしっくりきた。
けど同時に現実も突きつけられる。
それをやるには――莫大な資金が必要だ。
―
机の横に積まれた投資の本に目をやる。
去年買った入門書。すでに内容はほとんど頭に入っている。
株式投資はもう経験済みだ。
試しに入れた6万円が、気づけば評価額16万円。――利益は10万円。
「財務感覚Lv1」のおかげで、本に載っていた分析手法がまるで自分のものみたいに染み込んで、自然に使いこなせた。
普通ならビギナーズラックって言われるのかもしれない。でも俺には、確かな裏付けがあった。
「でも、株だけじゃ限界がある……か」
ページをめくりながら、頭の中で整理する。
株式投資。
企業の一部を持つ権利であり、株価が上がれば資産も増える。配当金だってもらえる。
けど――それは基本的に“長期戦”だ。
数カ月、数年、あるいは十年単位でじわじわ増やしていくスタイル。
例えるなら、株は“長距離マラソン”。
体力を温存しながら走り続け、最後にゴールしたときに大きな成果を得る。
けど逆に、短期間で一気に増やすのは難しい。
俺がやってきたのはそのマラソンの“スタート地点”をちょっと進んだだけ。
正直、夢を救うだけの資金にはまだまだ遠い。
「投資信託」「債券」「不動産」――ページに並ぶ言葉も目に入る。
どれも「安全」だとか「安定」だとか書かれているけど、同時に「リターンが少ない」とも書かれている。
そんな悠長なことをしていたら、俺の時間は無限にあるわけじゃない。
そして、ひときわ大きな見出しが目に飛び込んできた。
【FX(外国為替証拠金取引)】
「……これは」
本を持つ手に自然と力が入った。
為替レート――つまり国と国のお金の値段が変わる、その差を利用して利益を得る。
円が安くなればドルが高くなる。ドルが下がればユーロが動く。
世界の通貨を売り買いして利益を狙うのが、FX。
違いは明確だ。
株は“企業”を相手にする。業績、景気、需要と供給。
だから基本的に「企業の成長スピード」に資産が左右される。
そのぶん、安定感はある。大崩れしにくい。
一方でFXは、“世界”を相手にする。
政治、経済、戦争、災害。ちょっとしたニュースひとつで一気に相場が動く。
一秒ごとに価格が上下し、1日で何十回もチャンスとリスクが訪れる。
株が“年10~20%”の利益を狙う「長距離マラソン」なら、
FXは“一晩で資産が倍にもゼロにもなる”「短距離ダッシュ」。
「……ギャンブルって言われるわけだ」
けどページに載っていたグラフを見た瞬間、心臓が跳ねた。
株の緩やかな上昇曲線とは違う、まるでジェットコースターみたいに急上昇している曲線。
桁が違う。伸び率が、スピードが、株とはまったく別物。
「でかいな……」
呟いた声は、自分でも驚くくらい熱を帯びていた。
でも同時に、冷静な自分もいる。
株のときは「財務感覚Lv1」で上手くいった。
けどFXは違う。失敗すれば一瞬で資金が吹き飛ぶ。
“スキルで補正すれば大丈夫”なんて甘い考えをしたら、間違いなく痛い目を見る。
だけど――。
「……俺には、やれる」
この力を正しく使えば、リスクを抑え、確率を少しずつ自分の側に寄せられる。
その瞬間、視界に青白いウィンドウが浮かんだ。
【特別クエスト発生】
・タイトル:「次なる挑戦」
・内容:FXを学び、初めての取引に挑め
・報酬:SP+5/新スキル解放
「……やっぱり来たか」
思わず口角が上がった。
――“新スキル”。
次の扉を開く鍵が、確かにここにある。
「絶対に手に入れる……逃すわけにはいかない」
思わず笑った。
あの日からずっとそうだ。俺が一歩踏み出すたび、必ずクエストが現れる。
なら、これは逃げる理由じゃない。俺に用意された「次の道」だ。
「よし……やってやる」
本を閉じ、スマホで専門書を検索する。
“FX入門”“リスク管理”“テクニカル分析”。
ページをスクロールしながら、レビューの多い数冊を迷わず購入。
(俺が稼ぐ。でかい金を、桁外れの資金を。……それで、誰も夢を諦めなくていい世界を作る)
窓の外では、遠くで夏祭りの花火が上がっていた。
夜空に咲く一瞬の光。
それはまるで、新しい挑戦の合図のように見えた。
にぎやかだったリビングの余韻も消え、俺は自分の部屋の机に腰を下ろしていた。
「……俺も、もう高二か」
窓の外では蝉が鳴き始めている。
梅雨明け間近の湿った空気は肌にまとわりつくのに、胸の奥は妙に軽くて落ち着かない。
(ステータス成長とスキルのおかげで、外見も身体能力も成績も変われた。
資金まで……気づけば、ただ自分を上げることに夢中で――もう二年。そろそろ進路も考えないと、か)
進学か、就職か――それともまったく別の道か。
鍛えた身体を活かして、スポーツのプロを目指す?
いい大学に入って、一流企業に就職する?
……モデルだって、雑誌の編集者から「いつでも事務所に来てよ」なんて声をかけられたし、狙えなくはない。
「……違うな」
俺はステータスウィンドウを開いた。
―
【現在のステータス(七月上旬)】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:16
・身長:180.8cm
・体重:63.0kg/体脂肪率:9.0%
・筋力:27.0
・耐久:27.0
・知力:31.2
・魅力:41.2
・資産(現金):194,000円
・投資中:60,000円(評価額:160,000円/利益:+100,000円)
・総資産:354,000円
・SP:23
・スキル:22(展開可能)
・称号:注目の存在/ヒーロー/聖夜を共に/女子人気独占
・特別イベント:
水城遥(進行中/好感度:89/恋愛条件未達)
一ノ瀬凛(進行中/好感度:74/好意)
星野瑠奈(進行中/好感度:72/好意)
―
……この「力」があったから、俺は変われた。
中学のときの俺じゃ、絶対に無理だった。
努力を続けられたのも、積み重ねが形になったのも、このウィンドウがあったからだ。
だけど――。
「俺だけ、なんだよな」
どうして俺にだけ、この能力が発現したのかはわからない。
でも、おそらく他にはいない。
なら――この力を使って、俺が「きっかけ」になればいい。
いじめられているやつ。
家庭の事情で進学を諦めるやつ。
夢を追いたいのに、どうしても環境が許さないやつ。
「……今度は、俺が助ける側になりたい」
その言葉は、意外と自分の中でしっくりきた。
けど同時に現実も突きつけられる。
それをやるには――莫大な資金が必要だ。
―
机の横に積まれた投資の本に目をやる。
去年買った入門書。すでに内容はほとんど頭に入っている。
株式投資はもう経験済みだ。
試しに入れた6万円が、気づけば評価額16万円。――利益は10万円。
「財務感覚Lv1」のおかげで、本に載っていた分析手法がまるで自分のものみたいに染み込んで、自然に使いこなせた。
普通ならビギナーズラックって言われるのかもしれない。でも俺には、確かな裏付けがあった。
「でも、株だけじゃ限界がある……か」
ページをめくりながら、頭の中で整理する。
株式投資。
企業の一部を持つ権利であり、株価が上がれば資産も増える。配当金だってもらえる。
けど――それは基本的に“長期戦”だ。
数カ月、数年、あるいは十年単位でじわじわ増やしていくスタイル。
例えるなら、株は“長距離マラソン”。
体力を温存しながら走り続け、最後にゴールしたときに大きな成果を得る。
けど逆に、短期間で一気に増やすのは難しい。
俺がやってきたのはそのマラソンの“スタート地点”をちょっと進んだだけ。
正直、夢を救うだけの資金にはまだまだ遠い。
「投資信託」「債券」「不動産」――ページに並ぶ言葉も目に入る。
どれも「安全」だとか「安定」だとか書かれているけど、同時に「リターンが少ない」とも書かれている。
そんな悠長なことをしていたら、俺の時間は無限にあるわけじゃない。
そして、ひときわ大きな見出しが目に飛び込んできた。
【FX(外国為替証拠金取引)】
「……これは」
本を持つ手に自然と力が入った。
為替レート――つまり国と国のお金の値段が変わる、その差を利用して利益を得る。
円が安くなればドルが高くなる。ドルが下がればユーロが動く。
世界の通貨を売り買いして利益を狙うのが、FX。
違いは明確だ。
株は“企業”を相手にする。業績、景気、需要と供給。
だから基本的に「企業の成長スピード」に資産が左右される。
そのぶん、安定感はある。大崩れしにくい。
一方でFXは、“世界”を相手にする。
政治、経済、戦争、災害。ちょっとしたニュースひとつで一気に相場が動く。
一秒ごとに価格が上下し、1日で何十回もチャンスとリスクが訪れる。
株が“年10~20%”の利益を狙う「長距離マラソン」なら、
FXは“一晩で資産が倍にもゼロにもなる”「短距離ダッシュ」。
「……ギャンブルって言われるわけだ」
けどページに載っていたグラフを見た瞬間、心臓が跳ねた。
株の緩やかな上昇曲線とは違う、まるでジェットコースターみたいに急上昇している曲線。
桁が違う。伸び率が、スピードが、株とはまったく別物。
「でかいな……」
呟いた声は、自分でも驚くくらい熱を帯びていた。
でも同時に、冷静な自分もいる。
株のときは「財務感覚Lv1」で上手くいった。
けどFXは違う。失敗すれば一瞬で資金が吹き飛ぶ。
“スキルで補正すれば大丈夫”なんて甘い考えをしたら、間違いなく痛い目を見る。
だけど――。
「……俺には、やれる」
この力を正しく使えば、リスクを抑え、確率を少しずつ自分の側に寄せられる。
その瞬間、視界に青白いウィンドウが浮かんだ。
【特別クエスト発生】
・タイトル:「次なる挑戦」
・内容:FXを学び、初めての取引に挑め
・報酬:SP+5/新スキル解放
「……やっぱり来たか」
思わず口角が上がった。
――“新スキル”。
次の扉を開く鍵が、確かにここにある。
「絶対に手に入れる……逃すわけにはいかない」
思わず笑った。
あの日からずっとそうだ。俺が一歩踏み出すたび、必ずクエストが現れる。
なら、これは逃げる理由じゃない。俺に用意された「次の道」だ。
「よし……やってやる」
本を閉じ、スマホで専門書を検索する。
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ページをスクロールしながら、レビューの多い数冊を迷わず購入。
(俺が稼ぐ。でかい金を、桁外れの資金を。……それで、誰も夢を諦めなくていい世界を作る)
窓の外では、遠くで夏祭りの花火が上がっていた。
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