クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

第66話 高校生トレーダー、資産100万突破で鑑定スキルが進化した

七月上旬。
梅雨の湿気がまだ空気にまとわりついているが、どこかに夏の匂いが混じり始めていた。
朝のダイニング。テーブルには焼き鮭、卵焼き、味噌汁。母の几帳面さが並ぶ食卓だ。

父は新聞を広げ、眉間にしわを寄せている。
美咲はトーストを片手に、スマホをスクロールしながら「今日のコーデどうしようかな」と小声で呟いている。

「陽斗、納豆食べる？」
「うん。ありがとう」

――何気ない、いつもの朝。
けれどその日だけは違った。

「……ん？」
新聞をトンと指で叩く父。
低い声に全員が顔を上げた。

「またアメリカが利上げか」

同時にテレビのキャスターも告げる。
『FRBが追加利上げを発表。これを受け、ドル円は一時152円を突破。市場では急速な円安が進行しています――』

――カチャリ。
俺の箸が止まった。

（……これは……）

胸の奥が熱を帯び、耳の奥で風がざわつく。
スキル【相場直感】が、暴れるように反応していた。

視界の隅に、青白い残像がチカチカと瞬く。
それはただの幻覚じゃない。
まるで“未来のチャート”を切り抜いて映しているようだった。

「陽斗？」
母が怪訝そうに覗き込む。
「いや、なんでもない」

箸を置き、味噌汁を一気に飲み干す。
ごちそうさまと言い捨てて立ち上がる俺に、美咲が驚いた顔で見上げる。

「お兄ちゃん？　どうしたん？」
「ちょっと、用事」

声がわずかに震えていた。
（来る……これはただのニュースじゃない。相場が――動く！）

―

部屋に飛び込み、ノートPCを開く。
瞬間、心臓が跳ねた。

ローソク足が狂ったように暴れている。
赤と緑が上下に振れ、相場の波が牙を剥いていた。
素人が触れたら一瞬で退場。まさに命取りの乱高下。

けれど、俺の目には違って見えていた。
【ローソク足読解】がノイズを消し、【相場直感】が未来を照らす。
矢印のような光が、次にどちらへ伸びるかを示していた。

「……50万」

現在の資産以上。
普通なら、絶対にやらない。
でも今、このざわめきは“行け”と告げている。

（日本のFXは最大25倍のレバレッジ。50万なら、理論上1250万分の取引が可能……！もちろん逆に動けば即死。でも――今だけは違う！）

喉が乾く。
震える指で、俺はエントリーボタンを押した。

――カチリ。

画面が点滅し、数字が走る。
心臓が連動するように跳ねた。
背中に冷や汗が伝う。

―

最初の数分。
チャートが下に振れた瞬間、心臓が止まりそうになった。

「くそっ……！」

評価損益が真っ赤に染まる。
残高がゴッソリ削られていく。

（やっぱり無謀だったか……!?）

もしこれを失ったら――。

だがその時、【リスク管理思考】が冷静に告げる。
（まだ切るな。これは一時的な調整……押し目だ。握り続けろ）

呼吸を整え、震える指でチャートを握り締める。
時間が無限に伸びたように感じた。

そして。

緑のローソク足が――爆発的に伸び始めた。

「ッ……！」

矢印が光り輝き、未来の軌跡が一直線に走る。
画面の赤は瞬く間に消え、利益が積み重なっていく。

「まだ……まだだ……！」

さらに伸びる。
全身が熱を帯びる。
モニターに吸い込まれそうな感覚。

そして――。

「ここだッ！」

決済ボタンを叩く。

―

表示された利益額。

+1,200,000円

「…………」

時が止まった。
桁を何度も確認する。
一、十、百、千、万……百万。

「120万……！？」

息が荒く、手が震える。
頭が真っ白になった。

……100万。高校生が手にするには、桁外れの数字だ。
それを――たった数時間で超えてしまった。
【資産（現金）：1,374,500円】

桁違いの景色。
これまでの自分が踏み入れたことのない領域。

「……やった」

思わず笑いがこみ上げる。
叫びたいのに声にならない。
ただ震えながら、数字を凝視した。

―

その瞬間、視界が光に包まれた。

【特別クエスト達成】
・タイトル：「一瞬に懸けた未来」
・結果：相場の荒波を乗り越え、初めての大勝利
・報酬：耐久＋2／SP＋5

さらに続けざまに、新たな通知。

【総資産100万円突破 記念ボーナス】
――特別スキル解禁。

【特別スキル取得】
鑑定 → 慧眼
・潜在能力鑑定：人の隠された才能や伸び代を数値化
・未来適性鑑定：将来、芽が出やすい分野を簡易予測

※「慧眼」は基本スキル枠扱いのため、スキル数にはカウントされません。

「……特別スキル！鑑定が……慧眼にパワーアップした！？」

画面の光が消えた瞬間、背筋を電流が走った。
これまでの【鑑定】は、その人の“今”を知るだけ。
だが今度は――“未来”にまで踏み込める。

潜在能力。未来適正。
人の可能性そのものが、数字で浮かび上がる。

―

窓を開ける。
熱気を含んだ夏の風が吹き込み、カーテンが大きく膨らんだ。
机のノートがパラリとめくれる。

その音は、不思議と未来からの合図に聞こえた。―

「俺はもう、最底辺じゃない。……ここからもっと資金を増やして――必ず夢を掴んでみせる」

拳を握った。
熱がこもり、全身がまだ戦いの余韻で震えていた。

―

※【 】内は今回上昇分
【現在のステータス（七月上旬）】
・名前：佐久間 陽斗
・年齢：16
・身長：180.8cm
・体重：63.0kg／体脂肪率：9.0％
・筋力：27.0
・耐久：29.0【＋2】
・知力：31.2
・魅力：41.2
・資産（現金）：1,374,500円
・投資中：60,000円（評価額：160,000円／利益：＋100,000円）
・総資産：1,534,500円
・SP：24【＋5】
・スキル：25（展開可能）
・称号：注目の存在／ヒーロー／聖夜を共に／女子人気独占
・特別イベント：
　水城遥（進行中／好感度：89／恋愛条件未達）
　一ノ瀬凛（進行中／好感度：74／好意）
　星野瑠奈（進行中／好感度：72／好意）