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第117話 サッカーを諦めたエースが、俺たちの仲間になるまで
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「三橋……どうした?」
三橋の顔は、いつもの気楽そうな笑みだけど、どこか真剣さが混じっている。
「お前のアプリ、すげぇな」
軽い口調なのに、言葉の端にちゃんとした熱があった。
「クラファンのページ、ちゃんと見たよ。
“努力を、社会が支える世界をつくる”ってやつ。
……なんか、お前らしいなって思った」
予想外にまっすぐな言葉で、少しだけ呼吸が止まる。
「見てくれたのか」
自然と、そう返していた。
三橋はポケットからスマホを取り出し、無言で画面を向けてきた。
【支援済みプロジェクト一覧】
一番上に――TRY-LOG。
「俺も、一口だけど支援した。
……金額は聞くなよ。マジで安いから」
「……ありがとう」
それだけで十分だった。
けれど三橋は、少しだけ肩をすくめて言う。
「当たり前だろ。
同じクラスのやつが、こんなふうに本気でやってんのにさ。
応援しねぇほうがダサいって」
笑いながら言うその横顔を見て――
俺は、意識をそっと《慧眼》に向けた。
――【慧眼】発動。対象:三橋 隼人。
―
【ステータス:三橋 隼人】
・年齢:17
・身長:179.2cm
・体重:71.2kg/体脂肪率:13%
・筋力:23.2
・耐久:26.0
・知力:15.5
・魅力:34.2
・スキル:サッカーLv3/スタミナ持久力+1 /ムードメーカーLv2/発信センスLv1/会話術Lv1 /フォトジェニック/カリスマ性Lv1
【未来適性】
・広報:突出
・リーダーシップ:高
・対話力:安定
・交渉支援:中
―
(……前に見たときより、数値も“方向性”も伸びてる。
課題を読み取る理解力、空気を一瞬で変える明るさ、
人を惹きつける画面映え――どれも、広報向きの資質だ)
(“CMO(広報責任者)”――適任すぎる)
ウインドウが淡く脈打つ。
―
【特別イベント発生】
タイトル:「“フィールド変更”のエース、三橋隼人」
内容:三橋を“広報担当(CMO)”として仲間に誘え
報酬:共感力(魅力)+2/SP+2
―
(イベント……いや、ダメだ。
三橋を引き込むなんて、軽く考えちゃいけない。
広報担当としては、これ以上ないほど適任だけど――)
体育祭のとき、俺が感じていたのは
“サッカー部のエース”という圧倒的な存在感だった。
けれど今の三橋は、それだけじゃない。
クラスでは自然と空気を和ませて、
部活では後輩に声をかけて支えている。
人前に立つ力も、場を動かす力もある。
(未来適性……“広報・PR”。
これ、完全に一致してるよな)
相川の家で話した“広報に必要な条件”が、
三橋のステータスと綺麗に重なっていく。
(……でも。
こいつにはサッカーがある)
“奪っちゃいけないもの”が、ちゃんとある。
その線を踏み越えることだけはしたくなかった。
その瞬間、三橋がほんの少しだけ視線を落とした。
「なぁ、佐久間」
「ん?」
「……この前、言ったよな。もう一回サッカーやるって」
体育祭のあと。
夕陽のグラウンドで交わした言葉。
忘れるわけがない。
「ああ」
三橋は窓の外をちらりと見た。
曇りかけの空に、体育館の屋根がにじんでいる。
「体育祭のあとさ……顧問に謝りに行ったんだよ。
“もう一度やらせてください”って。
プライドとか、全部置いていってさ」
声に、かすかな悔しさが混じる。
「それで、許してもらって。
練習も前よりちゃんと出て……。
やっと試合ってときだったんだよ」
そこで一度、言葉が止まる。
「久しぶりの実戦でさ……舞い上がったんだよな。
気持ちばっか先走って、体がついて来なくて」
三橋の右手が、そっと自分の膝に触れた。
制服のズボン越しに、その部分を押さえる。
「スライディングのあと、着地に失敗してさ。
その瞬間、膝の中で……“ブチッ”って音がしたんだよ」
言葉の端が、少しだけ震えていた。
「漫画だけだと思ってたけど……ほんとに鳴るんだな、あれ」
空気がひりつく。
俺は何も言えず、ただ聞き続けた。
「診断は――前十字靭帯損傷。
手術すれば治るらしいけど……完全に戻るまで一年はかかるってよ。
リハビリ含めて、一年」
……一年。
今は高二の冬。
「つまり……高三の終わりまで、全力で走れない。
公式戦? ほぼ無理だって」
そこで三橋は、口元だけで小さく笑った。
強がりみたいな、悔しさをごまかすみたいな笑み。
「だから――サッカーは諦めた」
「……そう、か」
「心配すんなよ」
先回りするみたいに言われる。
「落ち込んでねぇんだ、本気で」
「いや、でも三橋――」
「お前が言ったんだろ」
三橋は、まっすぐ俺を見た。
「『人と比べるなら相手は自分自身だ』って」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
「俺、ちゃんと考えたんだよ。
小学校からずっとサッカーやってきて、
部活の時間なんて“全部無駄だった”って思いたくねぇって」
右手が、膝からそっと離れる。
代わりに、胸の前で握りしめられた拳が震えていた。
「走れなくなってもさ……
今までやってきたことって、絶対どっかに残るだろ」
言葉はゆっくりだけど、芯があった。
「チームで動く感覚とか、
状況見て声出すとか、
みんなの前で“空気つくる”とか……」
それはまるで
――昨日、篠宮が“広報に必要な能力”として挙げた内容そのものだった。
「だから俺は、サッカーそのものにしがみつくんじゃなくて……」
三橋は少し息を整えた。
「“サッカーをやってきた自分”を、別の場所で使いたい」
笑う。
でもその笑いは、痛みをごまかすためじゃない。
「顧問にも言われたんだよ。
『お前はプレーヤーだけじゃなく、チームを盛り上げる力がある』って。
……まぁ、慰め半分かもしれねぇけどさ」
(慰めじゃない。
ステータスにも、ちゃんとそう出てる)
視界の端に浮いた《未来適性》の文字を見ながら、
俺は、ぐっと唇を噛んだ。
(だったら……)
頭の奥で、カチッと何かが噛み合う。
TRY-LOG。
“比べる相手は、過去の自分”。
サッカーを離れざるをえなくなっても、
「積み上げた時間を無駄にしたくない」と笑う三橋。
(だったら――こいつと一緒に作りたい)
気づいたら、胸の奥の迷いがすっと消えていた。
「……だったらさ」
「ん?」
自分でも驚くほど、声が自然に口をついて出た。
「――俺たちと、一緒にやってみないか」
教室のざわめきが、まるでガラス越しになったみたいに遠のく。
三橋は黙ったまま俺を見つめ、ゆっくりと息を吸った。
「……佐久間」
その一言に、もう“答え”の気配があった。
―
【Project Re:Try:“資金集め”/第四段階レポート】
※【 】内は今回上昇分
◆日時:1月19日
◆最終目標:300万円の調達
(※うち200万円をクラウドファンディングで集める計画)
◆進行状況:Phase.04 進行中
◆目的
「“努力の記録”を、“社会に届く形”へ昇華させる」
――“伝わる努力”から、“広がる努力”へ。
◆メンバー構成
・佐久間 陽斗(CEO/代表・企画)
行動指数(筋力):48.5
継続性(耐久力):42.0
構想力(知力) :43.2
共感力(魅力) :51.2
SP:39/スキル保持数:32
・佐藤 大輝(COO/営業統括)/信頼度:91
・相川 蓮(CTO/開発・解析)/信頼度:74
・篠宮 智也(CFO/財務)/信頼度:60
◆資産状況
資金:715,000円
協賛金:500,000円
クラファン支援:690,000円
総資産:1,905,000円
(※開発・機材・広告の初期投資に充当予定)
◆進行状況
・三社協定を締結 → 協賛金50万円獲得/設備協力1社
・資金計画の試算完了(必要金額:300万円)
・クラウドファンディング進行中(目標金額:200万円)
◆次段階予定(Phase.04:資金調達・組織拡張)
・TRY-LOGアプリ版制作準備
・クラウドファンディング目標金額の達成
・広報担当候補「三橋隼人」へのスカウト
――これは報告書でもあり、“未来へ進むためのログ”でもある。
(記録者:佐久間 陽斗)
三橋の顔は、いつもの気楽そうな笑みだけど、どこか真剣さが混じっている。
「お前のアプリ、すげぇな」
軽い口調なのに、言葉の端にちゃんとした熱があった。
「クラファンのページ、ちゃんと見たよ。
“努力を、社会が支える世界をつくる”ってやつ。
……なんか、お前らしいなって思った」
予想外にまっすぐな言葉で、少しだけ呼吸が止まる。
「見てくれたのか」
自然と、そう返していた。
三橋はポケットからスマホを取り出し、無言で画面を向けてきた。
【支援済みプロジェクト一覧】
一番上に――TRY-LOG。
「俺も、一口だけど支援した。
……金額は聞くなよ。マジで安いから」
「……ありがとう」
それだけで十分だった。
けれど三橋は、少しだけ肩をすくめて言う。
「当たり前だろ。
同じクラスのやつが、こんなふうに本気でやってんのにさ。
応援しねぇほうがダサいって」
笑いながら言うその横顔を見て――
俺は、意識をそっと《慧眼》に向けた。
――【慧眼】発動。対象:三橋 隼人。
―
【ステータス:三橋 隼人】
・年齢:17
・身長:179.2cm
・体重:71.2kg/体脂肪率:13%
・筋力:23.2
・耐久:26.0
・知力:15.5
・魅力:34.2
・スキル:サッカーLv3/スタミナ持久力+1 /ムードメーカーLv2/発信センスLv1/会話術Lv1 /フォトジェニック/カリスマ性Lv1
【未来適性】
・広報:突出
・リーダーシップ:高
・対話力:安定
・交渉支援:中
―
(……前に見たときより、数値も“方向性”も伸びてる。
課題を読み取る理解力、空気を一瞬で変える明るさ、
人を惹きつける画面映え――どれも、広報向きの資質だ)
(“CMO(広報責任者)”――適任すぎる)
ウインドウが淡く脈打つ。
―
【特別イベント発生】
タイトル:「“フィールド変更”のエース、三橋隼人」
内容:三橋を“広報担当(CMO)”として仲間に誘え
報酬:共感力(魅力)+2/SP+2
―
(イベント……いや、ダメだ。
三橋を引き込むなんて、軽く考えちゃいけない。
広報担当としては、これ以上ないほど適任だけど――)
体育祭のとき、俺が感じていたのは
“サッカー部のエース”という圧倒的な存在感だった。
けれど今の三橋は、それだけじゃない。
クラスでは自然と空気を和ませて、
部活では後輩に声をかけて支えている。
人前に立つ力も、場を動かす力もある。
(未来適性……“広報・PR”。
これ、完全に一致してるよな)
相川の家で話した“広報に必要な条件”が、
三橋のステータスと綺麗に重なっていく。
(……でも。
こいつにはサッカーがある)
“奪っちゃいけないもの”が、ちゃんとある。
その線を踏み越えることだけはしたくなかった。
その瞬間、三橋がほんの少しだけ視線を落とした。
「なぁ、佐久間」
「ん?」
「……この前、言ったよな。もう一回サッカーやるって」
体育祭のあと。
夕陽のグラウンドで交わした言葉。
忘れるわけがない。
「ああ」
三橋は窓の外をちらりと見た。
曇りかけの空に、体育館の屋根がにじんでいる。
「体育祭のあとさ……顧問に謝りに行ったんだよ。
“もう一度やらせてください”って。
プライドとか、全部置いていってさ」
声に、かすかな悔しさが混じる。
「それで、許してもらって。
練習も前よりちゃんと出て……。
やっと試合ってときだったんだよ」
そこで一度、言葉が止まる。
「久しぶりの実戦でさ……舞い上がったんだよな。
気持ちばっか先走って、体がついて来なくて」
三橋の右手が、そっと自分の膝に触れた。
制服のズボン越しに、その部分を押さえる。
「スライディングのあと、着地に失敗してさ。
その瞬間、膝の中で……“ブチッ”って音がしたんだよ」
言葉の端が、少しだけ震えていた。
「漫画だけだと思ってたけど……ほんとに鳴るんだな、あれ」
空気がひりつく。
俺は何も言えず、ただ聞き続けた。
「診断は――前十字靭帯損傷。
手術すれば治るらしいけど……完全に戻るまで一年はかかるってよ。
リハビリ含めて、一年」
……一年。
今は高二の冬。
「つまり……高三の終わりまで、全力で走れない。
公式戦? ほぼ無理だって」
そこで三橋は、口元だけで小さく笑った。
強がりみたいな、悔しさをごまかすみたいな笑み。
「だから――サッカーは諦めた」
「……そう、か」
「心配すんなよ」
先回りするみたいに言われる。
「落ち込んでねぇんだ、本気で」
「いや、でも三橋――」
「お前が言ったんだろ」
三橋は、まっすぐ俺を見た。
「『人と比べるなら相手は自分自身だ』って」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
「俺、ちゃんと考えたんだよ。
小学校からずっとサッカーやってきて、
部活の時間なんて“全部無駄だった”って思いたくねぇって」
右手が、膝からそっと離れる。
代わりに、胸の前で握りしめられた拳が震えていた。
「走れなくなってもさ……
今までやってきたことって、絶対どっかに残るだろ」
言葉はゆっくりだけど、芯があった。
「チームで動く感覚とか、
状況見て声出すとか、
みんなの前で“空気つくる”とか……」
それはまるで
――昨日、篠宮が“広報に必要な能力”として挙げた内容そのものだった。
「だから俺は、サッカーそのものにしがみつくんじゃなくて……」
三橋は少し息を整えた。
「“サッカーをやってきた自分”を、別の場所で使いたい」
笑う。
でもその笑いは、痛みをごまかすためじゃない。
「顧問にも言われたんだよ。
『お前はプレーヤーだけじゃなく、チームを盛り上げる力がある』って。
……まぁ、慰め半分かもしれねぇけどさ」
(慰めじゃない。
ステータスにも、ちゃんとそう出てる)
視界の端に浮いた《未来適性》の文字を見ながら、
俺は、ぐっと唇を噛んだ。
(だったら……)
頭の奥で、カチッと何かが噛み合う。
TRY-LOG。
“比べる相手は、過去の自分”。
サッカーを離れざるをえなくなっても、
「積み上げた時間を無駄にしたくない」と笑う三橋。
(だったら――こいつと一緒に作りたい)
気づいたら、胸の奥の迷いがすっと消えていた。
「……だったらさ」
「ん?」
自分でも驚くほど、声が自然に口をついて出た。
「――俺たちと、一緒にやってみないか」
教室のざわめきが、まるでガラス越しになったみたいに遠のく。
三橋は黙ったまま俺を見つめ、ゆっくりと息を吸った。
「……佐久間」
その一言に、もう“答え”の気配があった。
―
【Project Re:Try:“資金集め”/第四段階レポート】
※【 】内は今回上昇分
◆日時:1月19日
◆最終目標:300万円の調達
(※うち200万円をクラウドファンディングで集める計画)
◆進行状況:Phase.04 進行中
◆目的
「“努力の記録”を、“社会に届く形”へ昇華させる」
――“伝わる努力”から、“広がる努力”へ。
◆メンバー構成
・佐久間 陽斗(CEO/代表・企画)
行動指数(筋力):48.5
継続性(耐久力):42.0
構想力(知力) :43.2
共感力(魅力) :51.2
SP:39/スキル保持数:32
・佐藤 大輝(COO/営業統括)/信頼度:91
・相川 蓮(CTO/開発・解析)/信頼度:74
・篠宮 智也(CFO/財務)/信頼度:60
◆資産状況
資金:715,000円
協賛金:500,000円
クラファン支援:690,000円
総資産:1,905,000円
(※開発・機材・広告の初期投資に充当予定)
◆進行状況
・三社協定を締結 → 協賛金50万円獲得/設備協力1社
・資金計画の試算完了(必要金額:300万円)
・クラウドファンディング進行中(目標金額:200万円)
◆次段階予定(Phase.04:資金調達・組織拡張)
・TRY-LOGアプリ版制作準備
・クラウドファンディング目標金額の達成
・広報担当候補「三橋隼人」へのスカウト
――これは報告書でもあり、“未来へ進むためのログ”でもある。
(記録者:佐久間 陽斗)
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しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
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