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第1話 負けヒロイン、見送る
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あれから半年後、空港。
「ネム、林檎。また会おう」
あの日の空のような晴れやかな笑顔で、桜路は別れを告げた。
その目尻には涙が浮かんでいる。なんで置いていく方が泣いてるのよ。
美しき友情の涙とでも言うつもり?
私たちとの日々を自分勝手に過去に埋没させ、隣に立つあの女との輝かしい未来だけを両手で掬い上げた男が。そんな薄情者が、今さら何を泣いている。
「……ふんっ、泡歌のこと泣かせたらただじゃおかないんだから」
私が辛うじて言えた言葉は、テンプレートみたいな強がりだった。
本当はもっと言いたいことがあるのに、言わなくちゃいけないことがあるのに!
これ以上なにかを喋ると、感情が爆発して罵詈雑言を浴びせてしまいそうな気がして、濁流のように流れ出る感情を唇を噛み締めることで、なんとか堰き止めることしかできなかった。
「おーくん、お手紙、送るからね」
そんな私をよそに、桜路の手を握って、こんな時までかわいげのある言葉を吐く林檎。
もう、別の女を選び取った男にそんな媚を売る必要ないだろうに。
桜路にも、泡歌にも、友人はいたはずだ。
しかし、桜路の妹をはじめとした、周辺人物は誰一人いなかった。いや、いれなかったのだろう。
気持ちはわかる。
恥ずかしげもなくここに立っている私たち二人の方がきっと異常なのだ。
だってこれは楽しい旅行でも、新たなる旅立ちでもなんでもない。
「……泡歌。元気でやりなさいよ」
「……あの、ごめんね。ネムちゃんも元気で」
──泡歌と桜路による駆け落ちなのだから。
「じゃあ行こうか泡歌」
「うん。じゃあねネムちゃん、林檎ちゃん」
小さくなっていく二人の後ろ姿が、震える泡歌の手をにぎる桜路の姿が、静かに一筋の涙を流す隣の女が、嫌になるほど目に焼き付いた。
なんとなく、私達は二人の後ろ姿が消えた後もその場から立ち去ることができず、立ち尽くしたままでいた。
「行ったわね」
「行っちゃったね」
様々な心境が渦巻く中、かろうじて交わせた会話は、再確認するように、ただ起こった事実をなぞるだけのものだった。
林檎は長いまつ毛を伏せる。
いつもソリが合わず気に食わない女ではあったが、どれだけ桜路のことを好んでいたかはよく知っている。いつも連んでいた連中の中でも、林檎は桜路に対して、恥ずかし気もなく積極的なアピールを行なっていたし、友達が多くはないからこれで友達を完全に無くしたと言えるだろう。
「……まぁ、元気出しなさいよ」
自分でも驚くほど同情的な言葉が口から出ていた。
いつもなじりあうような言葉しか交わしていない私達には似合わない言葉だ。
なんとなく気恥ずかしくて林檎の顔を見られずに、次々と飛び立っていく飛行機達に目を移す。
林檎は、この私がライバルと認めるだけあって、器用な女だ。周りに期待されすぎず、高得点であり、それでいてバカだとは思われない。そんなテストの点数を狙って出せるような、癪に障る器用さを持った女なのだ。
だからきっとこの恋も乗り越えられるのだろう。
か弱いお嬢様ぶっているが、案外へこたれない不屈の精神を持っている女だ。それはいつも喧嘩をしていた私が一番知っている。だからこのエールを送ったのだ。
「そうだね……」
ぐすん、と鼻をすする音が聞こえた。
そして、林檎は言った。
「ここからどうやって略奪するか、考えないと」
「……は?」
「ネム、林檎。また会おう」
あの日の空のような晴れやかな笑顔で、桜路は別れを告げた。
その目尻には涙が浮かんでいる。なんで置いていく方が泣いてるのよ。
美しき友情の涙とでも言うつもり?
私たちとの日々を自分勝手に過去に埋没させ、隣に立つあの女との輝かしい未来だけを両手で掬い上げた男が。そんな薄情者が、今さら何を泣いている。
「……ふんっ、泡歌のこと泣かせたらただじゃおかないんだから」
私が辛うじて言えた言葉は、テンプレートみたいな強がりだった。
本当はもっと言いたいことがあるのに、言わなくちゃいけないことがあるのに!
これ以上なにかを喋ると、感情が爆発して罵詈雑言を浴びせてしまいそうな気がして、濁流のように流れ出る感情を唇を噛み締めることで、なんとか堰き止めることしかできなかった。
「おーくん、お手紙、送るからね」
そんな私をよそに、桜路の手を握って、こんな時までかわいげのある言葉を吐く林檎。
もう、別の女を選び取った男にそんな媚を売る必要ないだろうに。
桜路にも、泡歌にも、友人はいたはずだ。
しかし、桜路の妹をはじめとした、周辺人物は誰一人いなかった。いや、いれなかったのだろう。
気持ちはわかる。
恥ずかしげもなくここに立っている私たち二人の方がきっと異常なのだ。
だってこれは楽しい旅行でも、新たなる旅立ちでもなんでもない。
「……泡歌。元気でやりなさいよ」
「……あの、ごめんね。ネムちゃんも元気で」
──泡歌と桜路による駆け落ちなのだから。
「じゃあ行こうか泡歌」
「うん。じゃあねネムちゃん、林檎ちゃん」
小さくなっていく二人の後ろ姿が、震える泡歌の手をにぎる桜路の姿が、静かに一筋の涙を流す隣の女が、嫌になるほど目に焼き付いた。
なんとなく、私達は二人の後ろ姿が消えた後もその場から立ち去ることができず、立ち尽くしたままでいた。
「行ったわね」
「行っちゃったね」
様々な心境が渦巻く中、かろうじて交わせた会話は、再確認するように、ただ起こった事実をなぞるだけのものだった。
林檎は長いまつ毛を伏せる。
いつもソリが合わず気に食わない女ではあったが、どれだけ桜路のことを好んでいたかはよく知っている。いつも連んでいた連中の中でも、林檎は桜路に対して、恥ずかし気もなく積極的なアピールを行なっていたし、友達が多くはないからこれで友達を完全に無くしたと言えるだろう。
「……まぁ、元気出しなさいよ」
自分でも驚くほど同情的な言葉が口から出ていた。
いつもなじりあうような言葉しか交わしていない私達には似合わない言葉だ。
なんとなく気恥ずかしくて林檎の顔を見られずに、次々と飛び立っていく飛行機達に目を移す。
林檎は、この私がライバルと認めるだけあって、器用な女だ。周りに期待されすぎず、高得点であり、それでいてバカだとは思われない。そんなテストの点数を狙って出せるような、癪に障る器用さを持った女なのだ。
だからきっとこの恋も乗り越えられるのだろう。
か弱いお嬢様ぶっているが、案外へこたれない不屈の精神を持っている女だ。それはいつも喧嘩をしていた私が一番知っている。だからこのエールを送ったのだ。
「そうだね……」
ぐすん、と鼻をすする音が聞こえた。
そして、林檎は言った。
「ここからどうやって略奪するか、考えないと」
「……は?」
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