負けヒロイン共、謎を追う

ほがらかまつぼ

文字の大きさ
2 / 19

第1話 負けヒロイン、見送る

しおりを挟む
あれから半年後、空港。

「ネム、林檎。また会おう」

あの日の空のような晴れやかな笑顔で、桜路は別れを告げた。
その目尻には涙が浮かんでいる。なんで置いていく方が泣いてるのよ。
美しき友情の涙とでも言うつもり?
私たちとの日々を自分勝手に過去に埋没させ、隣に立つあの女との輝かしい未来だけを両手で掬い上げた男が。そんな薄情者が、今さら何を泣いている。

「……ふんっ、泡歌のこと泣かせたらただじゃおかないんだから」

私が辛うじて言えた言葉は、テンプレートみたいな強がりだった。
本当はもっと言いたいことがあるのに、言わなくちゃいけないことがあるのに!
これ以上なにかを喋ると、感情が爆発して罵詈雑言を浴びせてしまいそうな気がして、濁流のように流れ出る感情を唇を噛み締めることで、なんとか堰き止めることしかできなかった。

「おーくん、お手紙、送るからね」

そんな私をよそに、桜路の手を握って、こんな時までかわいげのある言葉を吐く林檎。
もう、別の女を選び取った男にそんな媚を売る必要ないだろうに。

桜路にも、泡歌にも、友人はいたはずだ。
しかし、桜路の妹をはじめとした、周辺人物は誰一人いなかった。いや、いれなかったのだろう。
気持ちはわかる。
恥ずかしげもなくここに立っている私たち二人の方がきっと異常なのだ。

だってこれは楽しい旅行でも、新たなる旅立ちでもなんでもない。

「……泡歌。元気でやりなさいよ」
「……あの、ごめんね。ネムちゃんも元気で」

──泡歌と桜路による駆け落ちなのだから。

「じゃあ行こうか泡歌」
「うん。じゃあねネムちゃん、林檎ちゃん」

小さくなっていく二人の後ろ姿が、震える泡歌の手をにぎる桜路の姿が、静かに一筋の涙を流す隣の女が、嫌になるほど目に焼き付いた。
なんとなく、私達は二人の後ろ姿が消えた後もその場から立ち去ることができず、立ち尽くしたままでいた。

「行ったわね」
「行っちゃったね」

様々な心境が渦巻く中、かろうじて交わせた会話は、再確認するように、ただ起こった事実をなぞるだけのものだった。
林檎は長いまつ毛を伏せる。

いつもソリが合わず気に食わない女ではあったが、どれだけ桜路のことを好んでいたかはよく知っている。いつも連んでいた連中の中でも、林檎は桜路に対して、恥ずかし気もなく積極的なアピールを行なっていたし、友達が多くはないからこれで友達を完全に無くしたと言えるだろう。

「……まぁ、元気出しなさいよ」

自分でも驚くほど同情的な言葉が口から出ていた。
いつもなじりあうような言葉しか交わしていない私達には似合わない言葉だ。
なんとなく気恥ずかしくて林檎の顔を見られずに、次々と飛び立っていく飛行機達に目を移す。

林檎は、この私がライバルと認めるだけあって、器用な女だ。周りに期待されすぎず、高得点であり、それでいてバカだとは思われない。そんなテストの点数を狙って出せるような、癪に障る器用さを持った女なのだ。
だからきっとこの恋も乗り越えられるのだろう。
か弱いお嬢様ぶっているが、案外へこたれない不屈の精神を持っている女だ。それはいつも喧嘩をしていた私が一番知っている。だからこのエールを送ったのだ。

「そうだね……」

ぐすん、と鼻をすする音が聞こえた。
そして、林檎は言った。

「ここからどうやって略奪するか、考えないと」

「……は?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...