負けヒロイン共、謎を追う

ほがらかまつぼ

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第12話 負けヒロインは家凸する

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探偵部というよりも、桜路のお人よしにより雑用部と化し始めていた頃、入学式の裏方仕事をしてほしいという依頼があった。
桜路が「一つ下の妹が入学式で挨拶をするから、そのサポートができるなんて嬉しい」と二つ返事で依頼を引き受けたのだ。

「陽芽!かっこよかったぞ!さすがだな!」
「いえ、そんな、兄さんが練習に付き合ってくれたおかげですよ」

舞台袖で、挨拶を終えた身内に対して惜しみなく賛辞を与える桜路。そんな兄に対しても丁寧な言葉を使い、照れくさそうにはにかむ陽芽。
思えばあの兄妹はこの年頃の兄妹にしては随分と仲が良く、それでいて随分と気を使いあっている変な距離感の兄妹だった。

「学年代表挨拶なんてすごいじゃない。桜路とは大違い」
「入試成績トップだったってことだもんね~陽芽やるじゃん」

同時にひねくれものの私と林檎すら思わず素直に褒めてしまうような、清澄な雰囲気の後輩でもあった。

「身に余る言葉です」

こんな謙虚にお礼を言ったことが人生で一度もない私は素直に尊敬していた。

「改めて、いつも兄がお世話になっています。これからは私もたまにお手伝いさせてくださいね!」

いつも兄の世話を焼いていた陽芽。一つ上の兄に対しては焼きすぎだろというぐらいには。実際に探偵部に掃除に来てくれたり、依頼を手伝ったりと、陽芽は頼りない兄と比べると随分としっかりとした子だった。
まさに学級委員長になるために生まれてきたような、文武両道品行方正な桜路に負けず劣らずの良い子ちゃん。

真面目な良い子のあの子が、あんなことになるなんて。

◆◆◆

教師から依頼を受けた後、私と林檎は桜路の家に来ていた。

「……両親に挨拶する以外でこの家に来ることになるとはね~」
「そんな未来はないのよ」

一軒家。親が海外に赴任しているとかで兄妹の二人暮らしをしていたはずだ。二人でも大きいのに、一人になってしまった今は相当広く感じる家だろうなと思う。
まずは正道に、私はインターフォンを押下する。
出てこない。それどころか、人がいる音すら聞こえない。

「いないなら仕方ないわね。帰ろうか」
「いや、待って、そろそろくるはず」
「は?」

何やら悪だくみをしていそうな林檎は、目の前の扉ではなく無表情でスマホをいじっていた。現代っ子か。
しかし、「来た」と林檎が呟いた瞬間、何の偶然か、音木家の前にバイクが止まった。
デリバリーだ。林檎が一歩下がるのを見て私もとりあえず行動を真似る。
デリバリーの配達員は迷わず、音木家のインターフォンを押した。

「すみませーん!デリバリー館でーす。音木桜路さんはいらっしゃいますか?」

「……は!?」
「しー」

いるはずのない人物を呼ぶデリバリーの配達員。
ガサガサとスピーカーから物音がして、やがて、音質の悪い声が流れた。

「桜路は、兄は不在です。間違えでは」

いつもの澄んだ川のような声ではなく、底なしの沼のようなどす黒い声だった、しかし、確かにそれは陽芽の声だった。

「えー……でも確かにここの住所なんですけど……どうしよう……」

配達員さんは狼狽する。インターフォンの奥でため息が聞こえた。
私の横で、配達員さんを呼んだ張本人はニヤリと悪い笑みを浮かべている。居留守を使っていたことを察し、計算して無理に引き出したのだろう。
この女、やはり性格があまりよくないし、限りなくアウトローだ。なんて女だ。叩けば埃どころか何かしらの罪状が出てきそうだ。

「……今開けます」

少しすると、音木家の扉が、人一人通れるか通れないかぐらいの隙間を開けた。
そこから、髪が少しボサついたパジャマ姿の陽芽の姿が、おぼろげに確認できた。
陽芽はデリバリーを受け取ると、配達員が首をかしげながら去っていくのを見送り、すぐにドアをバタンと閉めた。

──が、秒針が三度進むほどの間を置いて、今度はゆっくりと開く。

今度は堂々とパジャマ姿で出てきた、陽芽は、不本意なデリバリー弁当をぶら下げたまま、ジロリとコチラをにらみつけた。

「いるんでしょう先輩。出てきてください」

怒りよりも、疲労と諦めが混じる、その声を聞いて、林檎が待ってましたとばかりに笑みを浮かべる。

「いるのに、出てきてくれなかったのはそっちもじゃーん。お互い様だねぇ」
「…………デリバリー代は払ってもらいますから」

こうして、何かしらの法に引っ掛かりそうなやり方で、好きだった男の家に、今更あがりこんだ。
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