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第13話 負けヒロインと妹
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モラルに反した方法で無理やり上げてもらった家に、こんなことを言うのは非常に厚顔無恥である。しかし、それでも正直言うと、この家は探偵部の部室並みに散らかっていた。
玄関には泥が残っているし、水に濡れた靴の匂いがする。出されていないゴミ袋がいくつか置いてあった。
そもそも音木家は両親が海外で働いており、子供と別居している。本人たちの強い希望で日本に残っているらしい。
家族仲は良さそうだが、勉強が本分である女子高生に家事を全てやらせるなんてどうなんだと、幼馴染みながらに思っていたこともあるが、どうやら陽芽はそもそも家事が好きな気質だったらしい。
さすがに妹に全て家事をやらせるのは嫌だという桜路が、説得して説得してようやく分担制になったという話を聞いたことがある。
しかし、玄関にあったゴミ袋の中身はレトルト食品がほとんどだったし、通された食卓には洗われていない皿の山。
そして、いつも音木家に来ると、笑顔で紅茶なんかを出されたわけだが、本日はペットボトルどころか空のコップを前に置かれた。
「なにこれ、嫌がらせ?」
恐らく、京都のぶぶ漬けと同じ意味なのだろう。
「いきなり押しかけておいて、随分図々しいですね。水道水なら飲み放題ですよ」
「ミネラルウォーター以外の水って飲めんの~?」
「無人島に行ったら真っ先に死にそうですね。貴方。」
陽芽は私達に聞かせるためみたいな大きなため息をついて、私達の向かい側の椅子に座ってスマホをいじりだす。特に自分から何かを話す気はないみたいだ。
家事がおろそかになってるのは別にどうでもいい。この時代レトルト商品だって栄養があれば問題ないだろう。
しかし、どう見ても食べているのは同じレトルト商品の同じ味のみ、顔色も悪いし、隈もできているし、肌も乾燥しているし、髪の毛も荒れている。恐らくセルフネグレクトに近い状態なのだろう。太陽を浴びていないだろうし、夜も寝れていないように見える。
ここまで来ると、桜路がどうとか以前にコイツの生命活動が心配になる。
早く帰れオーラを一身に感じながら私は口を開いた。
「どうしたのよ?家事なんて自分のぶんだけやればいいけど、それすらもできてないじゃない」
「兄さんがいないのに、やる意味あります?」
あぁ、なるほど、彼女は家事好きなのではなく世話焼きで、他人のためなら頑張れるが自分のためのことは頑張れないタイプなのかもしれない。
「でもおーくんがいた時は身だしなみ気をつかってたじゃん?自分のことも大事にできるタイプだと思ってたんだけどなぁ」
「……兄さんがいないのに、やる意味あります?」
前言撤回。兄のためにしか頑張れないタイプだ。
他人のために頑張ってしまう女だったらきっと目の前に出されている飲み物は紅茶だったろうから。
「落ち込んでるねぇ」
「別に。兄が家族を捨ててその辺の女と駆け落ちしたことに何に落ち込む必要があるんです?」
十中八九、原因は今の言葉だろう。なんてわかりやすいやつなんだ。
「ひーちゃんっておーくんのこと好きだったの?」
林檎は林檎で単刀直入に言い過ぎでしょ。
この”好き”がどういう意味を持つか、ただの家族愛で言っているわけではないのはすぐにわかった。
「好きですよ。普通に兄として」
「あ、普通に兄としてなのね」
陽芽も、林檎の言う”好き”の温度感を感じ取ったのか、しっかり家族愛の範疇と答えた。
「当然でしょう。正真正銘血がつながった兄ですから。なぜそう思ったのです」
兄に妹が向ける感情にしては少々重いように感じたから……なんて言うのは下世話だと思い口をつぐんだ。
「まぁ、兄貴がいきなり女と駆け落ちしたら普通はショックよね」
「……まぁ、素直に言えばショックですよ。しかも、チェック外の女から」
「チェック外?」
何やら雲行きが怪しい。やたら語尾に力が入っていたし。
「私、兄の交友関係から恋愛に発展しそうな女を全て採点してノートにまとめてたんです。その中からペット枠だと思ってた女に奪われたのが許せない、いつあんな女とそんな関係に……っ!」
「全然異常妹だったわ」
思っていたより兄への愛は重かったようだ。もしかして私達も採点されてノートにつけられていたのだろうか。あんまり聞きたくないわね。
「えー私何点?」
恥ずかしげもなくよく聞けるな、この女。素直にドン引いたわ。
「過去に振られてるから10点です」
妹にバレてたのかよ。
その言葉に、表情のわかりにくい林檎が、地味にダメージ食らっているのがわかった。ならするんじゃないわよそんな質問。馬鹿なの?
「今更そんな点数何になるっていうのよ」
「はい。もう兄はいないんだから、こんな信憑性のないノートは貴方たちは無関係ですよ。もちろん、貴方達自体ももう兄とは無関係です。言っておきますが兄の情報はこれ以上一切出しませんよ。」
陽芽はまるで私達の質問を予測してたかのように先回りをして牽制をしてくる。
なるほど、そのスタンスなのか。兄の駆け落ちを応援しているようには見えないが、それでも兄に美女を近づけたくないのか、それとも、
「これが目的でしょう? 諦めて帰ったらどうです?」
「え~私達正義の探偵部なのにおーくんの情報のためだけに来てる悪い奴と思われてんの~? 陽芽ちんを心配して来たのになー」
「泡歌さんは知りませんが、少なくとも貴方たちは正義とか人助けとか興味ないでしょ」
「正義とか人助けに興味がなくても、心配はするよ」
「心配される筋合いはありません。今更私に優しくしたって兄の心は射止められませんよ」
林檎はここまで言っても信じられないらしい。
林檎の日頃の行いが悪かったのか、陽芽が人の善意を素直に受け入れられる精神状態ではないのか。そのどちらもか。
「あのねぇ!知り合いがそんな状態になってたら心配するに決まってんでしょ。このまま私達が帰った後に死なれでもしたら夢見も悪いわ」
極端に善意に鈍くなっているらしい陽芽の脳みそに刻み付けるため、私はより大きな声でハキハキと話した。
陽芽はうるせ~という気持ちを隠さずに顔をしかめていた。残念ながら、声は届かずいたずらに陽芽の鼓膜にダメージを与えただけらしい。
「死ぬって大げさですね。夏休みには親も帰ってくるし心配ご無用ですので、ハッキリ言いますが迷惑です」
本当にハッキリ言うし、前とは違う意味で”しっかり”している。この妹は手強いわね。
玄関には泥が残っているし、水に濡れた靴の匂いがする。出されていないゴミ袋がいくつか置いてあった。
そもそも音木家は両親が海外で働いており、子供と別居している。本人たちの強い希望で日本に残っているらしい。
家族仲は良さそうだが、勉強が本分である女子高生に家事を全てやらせるなんてどうなんだと、幼馴染みながらに思っていたこともあるが、どうやら陽芽はそもそも家事が好きな気質だったらしい。
さすがに妹に全て家事をやらせるのは嫌だという桜路が、説得して説得してようやく分担制になったという話を聞いたことがある。
しかし、玄関にあったゴミ袋の中身はレトルト食品がほとんどだったし、通された食卓には洗われていない皿の山。
そして、いつも音木家に来ると、笑顔で紅茶なんかを出されたわけだが、本日はペットボトルどころか空のコップを前に置かれた。
「なにこれ、嫌がらせ?」
恐らく、京都のぶぶ漬けと同じ意味なのだろう。
「いきなり押しかけておいて、随分図々しいですね。水道水なら飲み放題ですよ」
「ミネラルウォーター以外の水って飲めんの~?」
「無人島に行ったら真っ先に死にそうですね。貴方。」
陽芽は私達に聞かせるためみたいな大きなため息をついて、私達の向かい側の椅子に座ってスマホをいじりだす。特に自分から何かを話す気はないみたいだ。
家事がおろそかになってるのは別にどうでもいい。この時代レトルト商品だって栄養があれば問題ないだろう。
しかし、どう見ても食べているのは同じレトルト商品の同じ味のみ、顔色も悪いし、隈もできているし、肌も乾燥しているし、髪の毛も荒れている。恐らくセルフネグレクトに近い状態なのだろう。太陽を浴びていないだろうし、夜も寝れていないように見える。
ここまで来ると、桜路がどうとか以前にコイツの生命活動が心配になる。
早く帰れオーラを一身に感じながら私は口を開いた。
「どうしたのよ?家事なんて自分のぶんだけやればいいけど、それすらもできてないじゃない」
「兄さんがいないのに、やる意味あります?」
あぁ、なるほど、彼女は家事好きなのではなく世話焼きで、他人のためなら頑張れるが自分のためのことは頑張れないタイプなのかもしれない。
「でもおーくんがいた時は身だしなみ気をつかってたじゃん?自分のことも大事にできるタイプだと思ってたんだけどなぁ」
「……兄さんがいないのに、やる意味あります?」
前言撤回。兄のためにしか頑張れないタイプだ。
他人のために頑張ってしまう女だったらきっと目の前に出されている飲み物は紅茶だったろうから。
「落ち込んでるねぇ」
「別に。兄が家族を捨ててその辺の女と駆け落ちしたことに何に落ち込む必要があるんです?」
十中八九、原因は今の言葉だろう。なんてわかりやすいやつなんだ。
「ひーちゃんっておーくんのこと好きだったの?」
林檎は林檎で単刀直入に言い過ぎでしょ。
この”好き”がどういう意味を持つか、ただの家族愛で言っているわけではないのはすぐにわかった。
「好きですよ。普通に兄として」
「あ、普通に兄としてなのね」
陽芽も、林檎の言う”好き”の温度感を感じ取ったのか、しっかり家族愛の範疇と答えた。
「当然でしょう。正真正銘血がつながった兄ですから。なぜそう思ったのです」
兄に妹が向ける感情にしては少々重いように感じたから……なんて言うのは下世話だと思い口をつぐんだ。
「まぁ、兄貴がいきなり女と駆け落ちしたら普通はショックよね」
「……まぁ、素直に言えばショックですよ。しかも、チェック外の女から」
「チェック外?」
何やら雲行きが怪しい。やたら語尾に力が入っていたし。
「私、兄の交友関係から恋愛に発展しそうな女を全て採点してノートにまとめてたんです。その中からペット枠だと思ってた女に奪われたのが許せない、いつあんな女とそんな関係に……っ!」
「全然異常妹だったわ」
思っていたより兄への愛は重かったようだ。もしかして私達も採点されてノートにつけられていたのだろうか。あんまり聞きたくないわね。
「えー私何点?」
恥ずかしげもなくよく聞けるな、この女。素直にドン引いたわ。
「過去に振られてるから10点です」
妹にバレてたのかよ。
その言葉に、表情のわかりにくい林檎が、地味にダメージ食らっているのがわかった。ならするんじゃないわよそんな質問。馬鹿なの?
「今更そんな点数何になるっていうのよ」
「はい。もう兄はいないんだから、こんな信憑性のないノートは貴方たちは無関係ですよ。もちろん、貴方達自体ももう兄とは無関係です。言っておきますが兄の情報はこれ以上一切出しませんよ。」
陽芽はまるで私達の質問を予測してたかのように先回りをして牽制をしてくる。
なるほど、そのスタンスなのか。兄の駆け落ちを応援しているようには見えないが、それでも兄に美女を近づけたくないのか、それとも、
「これが目的でしょう? 諦めて帰ったらどうです?」
「え~私達正義の探偵部なのにおーくんの情報のためだけに来てる悪い奴と思われてんの~? 陽芽ちんを心配して来たのになー」
「泡歌さんは知りませんが、少なくとも貴方たちは正義とか人助けとか興味ないでしょ」
「正義とか人助けに興味がなくても、心配はするよ」
「心配される筋合いはありません。今更私に優しくしたって兄の心は射止められませんよ」
林檎はここまで言っても信じられないらしい。
林檎の日頃の行いが悪かったのか、陽芽が人の善意を素直に受け入れられる精神状態ではないのか。そのどちらもか。
「あのねぇ!知り合いがそんな状態になってたら心配するに決まってんでしょ。このまま私達が帰った後に死なれでもしたら夢見も悪いわ」
極端に善意に鈍くなっているらしい陽芽の脳みそに刻み付けるため、私はより大きな声でハキハキと話した。
陽芽はうるせ~という気持ちを隠さずに顔をしかめていた。残念ながら、声は届かずいたずらに陽芽の鼓膜にダメージを与えただけらしい。
「死ぬって大げさですね。夏休みには親も帰ってくるし心配ご無用ですので、ハッキリ言いますが迷惑です」
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