せっかくだから男になって攻めてみたい

無月

文字の大きさ
28 / 33
本編

17歳-5

しおりを挟む
 善人ぶった歪んだ笑みを浮かべるゼルディウス公爵は、王に断りを入れてデイヴィッドの近くにやって来た。その様は自らも王であると言わんばかりの威厳を放っている。

 「さて、私も自領よりあまり出ない故聞きかじりではありますがね」
 「では何故容認出来る」
 「私もこの国を思えばこそ、不穏な空気を察し一早く密偵を走らせ最悪に備えていたのですよ」

 成程?容認はしているけど躱しもするんだな。これならもし状況がひっくり返ったとしても密偵に罪を着せて切り捨てれば上手くすればお咎めだけで済む。罰は受ける事になるだろうが爵位を捨てる程ではないだろう。
 

 「あら、お粗末な密偵も居た物ですのね。一体わたくしがそれらをして何になるというのでしょう」

 クスリと嫌味たっぷりに笑って見せれば、ゼルディウス公爵も笑みを深くしていく。

 「いやはやそう申されましても、私も密偵よりオリティス家ご令嬢が嫉妬に狂っていると聞いた時には耳を疑ったのですよ」
 「あら、その密偵さんがどなたかと見間違えられているのではなくて?」
 
 そもそも作り話だろうがよ。噂の真実は既に突き止めてある。
 悪役の様に強気で厭味ったらしく笑ってやれば、茶番劇の主役達は勝利を確信したようにニヤリと笑った。

 「証拠なら全て揃えてありますよ。おい!ここに持て!」

 ゼルディウス公爵とノートンが各々密偵と取り巻きに証人と思しき人達と、映像記録機器を寄越させた。

 「私はモーリス男爵令嬢が階段から突き落とされた瞬間を見ました!逆光でシルエットだけでしたが確かに夜会でお会いするオルティス家のご令嬢と同じでした!」
 
 ああ、そんな事もあったな。俺も丁度その場面を目撃したからビックリした。あの時はたまたま何時もの四人で階段を登っていて踊場に差し掛かった所でモーリス男爵令嬢が突き飛ばされた瞬間を見た。勿論結構な高さがあったし下手したら大怪我じゃ済まないから咄嗟に魔術を展開して怪我ひとつ負わせることなく救出しましたとも。
 その時の事を思い出したのかモーリス男爵令嬢は血の抜けた顔で震えた。と思ったら湯気を出して真っ赤になって悶えた。
 そういえばあの時咄嗟に抱きとめた時も真っ青な顔から、俺の顔を見て「最萌スチル……!」とか言って真っ赤に茹ってたっけ。流石俺。お姫様を助け出すヒーローならこうでなければな。
 俺もその時の事を思い出しウンウンと思わず頷いたら刺す様な視線で制された。ゴメンて。

 「私はモーリス男爵令嬢の頭上のテラスから鉢植えを落とす所を見ました!アレクサンドラ侯爵令嬢様とは直接お会いした事はありませんが確かに聞いていた人物像と同じでした!」

 あれなー。下手したら他の人にあたる可能性もあるし二次災害が起こる危険性もあったしで速攻魔術で止めて元の位置に戻しましたとも。んで即学園長に下に通行人がいる場所での鉢植えは即刻控える様に進言したさ。とは言ってもテラスの花はどうしても外したくないと言う学園側の意向によってテラスに融合させた花壇を作ってあげたのはどうでもいい思い出だ。因みに凝りに凝った花壇は今じゃ名物になっている、らしい。

 「俺……わたしはアレクサンドラ・オルティス侯爵令嬢を名乗る物からそこの女……令嬢さまを拐かす様に依頼されました。その時に前金で貰ったのがこれです」

 オルティス家の家紋が刻まれた金ピカの短剣を掲げるお縄についた暴漢と思しきムサイおっさん共。大金積まれても婦女暴行ダメ、絶対。という事で俺の中でアイツらの死刑宣告は決まった。たまたま捥ぎ取って娼館に売りつけてやる。
 俺が据わった目で暴漢を睨めば、何を勘違いしたのかノートンの取り巻きは勝ち誇ったように気色ばんだ。

 「私はオルティス侯爵にモーリス男爵に人身売買を持ちかける様に脅されました」

 そんな事実は無い。ていうか人身売買は違法取引に指定されてるし、そもそもあの王の膝元で成立するとは思えない。やろうと思い立った瞬間には玩具認定されて人として人生が終わるから。勿論王すら足蹴に出来るパパンがそれを知らない訳も無いし寧ろ王と一緒に喜々として嬲り倒しそうだ。

 「これだけ多くの第三者の目撃情報があるのです。そしてそれらは我が密偵がこの機器につぶさに記録していたのです」

 そして流れ出される犯行現場。それを白けた目で見やる茶番劇の主役、以外の人達。

 「あれってどう考えてもオルティス侯爵子息じゃないよな」
 「そうだとは思うけど……子息?ご令嬢でしょう?」
 「なんだ、君は知らなかったのか。公の場ではドレスを着ていらっしゃるが歴とした男性だぞ」

 周囲で起こるザワツキ。そして結構かなり勘違いしてる人いたのね。特に後輩ちゃん達や貴族当主達に。
 ふとママンを見やれば良い笑顔で王妃と一緒に小さく可愛らしくサムズアップしてらっしゃった。
 そうですか……貴女達の仕業でしたか……。通りでよっぽど仲の良い貴族家の子息令嬢及びクラスメイト以外は男の時と女装の時で俺への態度が違うと思った!
 チラリとクラスメイトを見やれば目を泳がせたり逸らしたり音の出ない口笛を吹くものまでいる。そうか、お前たちは母さん達の回し者か。

 「あら?そういえばオルティス侯爵子息様がいらっしゃらないわ」
 「何言ってるんだ。さっきから話題の中心で楽しそうにしていらっしゃるだろ」
 「「「……」」」

 そして一斉に俺を見てポカーンとしている面々。これはこれで面白いけど……そんなに女装姿の俺は男に見えないのか!?一ミリも!?一部の隙も無く!?
 若干涙目でデイヴィッドに訴える様に見やれば、ニコリと微笑まれて終わった。せめて否定か肯定して!?

 「まあ、そんなわけで?要所要所に居合わせた俺に犯行は不可能だと、図らずも君たちの証拠の品が教えてくれてるわけだけども!?」

 自棄になった俺は素の自分に戻って長いウィッグを取り払った。これなら流石に女には見えまい! 
 
 「短い御髪も素敵!」
 「女性に短髪もあり……だな(ゴクリ)」

 しかし思いの外ショートヘアは人気を博した。どうあっても俺を男として見る気ないのか!?

 「そして背格好が似て居れば誰でも変装は出来ると俺自身で証明した訳だが!勿論ワザワザ自分に罪を着せる様な阿呆かドMな思考も持ち合わせが無い!」

 俺は着ていたドレスに手を掛けて魔術で分解再構築をした。光を纏って現れたのはタキシードを着た男としての俺の姿。

 ドヤ顔で決めてみせれば周囲から「おお」という感嘆の声と生暖かい拍手が送られた。
 先程から主役を張ってくれていたノートンは焦った様に臍を噛んで狼狽えて、取り巻き立ちは訳も分からずポカーンとし、ゼルディウス公爵は一瞬顔を顰めたが直ぐに騙されたとばかりに密偵を見て悲しみに打ちひしがれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...