せっかくだから男になって攻めてみたい

無月

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本編

17歳-4

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 学園に不穏な空気が流れてからおよそ半年間。怒涛の様に月日が流れた。
 噂に真実味を持たせ、煽り、調子に乗らせ、隙を作り、ボロを出させる為に動いたお陰でチェックメイトまで後少しとなった。お陰で俺達はこの半年自由に遊べなかった事だけが悔やまれる。
 ちくせう!俺の青春の1ページ!これはこれで卒業制作っぽくて面白かったから良いけどな!
 良い様に踊ってくれた脳内お花畑達には感謝の印に熱いベーゼをプレゼントしたい位だ。

 現在は卒業記念パーティ当日。
 愚図り断固として拒絶の意を示したデイヴィッドを何とか宥めすかし、今日はモーリス男爵令嬢のエスコートをして貰っている。
 俺はというとセクシーなドレスを着こなし、父さんにエスコートして貰った。
 卒業生の親は参加OKで助かったぜ。
 頼んだ時の父さんの喜びようは今回の事を起こした貴族達に御礼状を用意するレベルだった。流石に嫌味にしかならないから断罪劇が終わってからならいくらでも出してくれ。

 さて、ここまで御膳立てしたんだ。情報通り事を起こしてくれないと困る。
 何より視線を合わさない様に必ず視界に入れてくるデイヴィッドが怖いから今すぐ早急に可及的速やかに出て来てくれさい。お願いします。
 学園長の話、在校生の送辞が終わり、そして卒業生代表のデイヴィッドの答辞が終わった時。情報通りの動きが起きた。

 「貴様は殿下に相応しくない!婚約破棄を進言する!」

 そう言ったのは勿論デイヴィッドじゃない。
 あれは調査で真っ先に上がった名目上の噂の先導者だ。
 あれでも一応俺と同じ侯爵子息っていうんだから、貴族子息の教育を一から見直すべきだと俺の方が進言したい。

 「このような目出度い場で穏やかではありませんわね。
 事と次第によってはただでは済みません事よ」

 一触即発の事態を演出すべく、侮蔑の目を向け弛む口は扇で隠した。
 俺の目が怖かったのか一瞬怯んだ侯爵子息、名前はたしかノートン君だったか。ノートンは一瞬は怯んだもののモーリス男爵令嬢を侍らすデイヴィッドを見て持ち直した。
 そんな彼の周りには賛同するように子息、令嬢が集まっている。
 んー、十数人か。割と集まったなー。まあ下位の爵位の子は無理やり従わされてる子もいるようだけど。

 「ただで済まないのは貴様の方だ!
 殿下!この者は殿下と仲の良いモーリス男爵令嬢を嫉妬し殺害を企てたのです!」
 「ほう、詳しく申してみよ」

 斜に構えて舞台の役者の様に大げさな身振りで断言するノートンに、デイヴィッドは底冷えのする瞳の奥を隠す様に目を細めて発言を促す。
 その横でデイヴィッドに腕を絡めるモーリス男爵令嬢はキョトンと目をパチクリさせて、不思議そうにデイヴィッドとノートンを交互に見ている。 
 
 「そもそも事の発端はこの者の誕生パーティにて、モーリス男爵令嬢の大切にしていたドレスにワザとワインを掛けた事から始まります」

 ノートンが断罪劇という茶番劇を始めれば、モーリス男爵令嬢はその時を思い出したのか俺を見るなり怯えて涙目でデイヴィッドの腕に顔を隠した。
 そうだよな、俺達が席を離した隙に何があったか遂に教えて貰えんかったけど怖い目には合ったんだろうし。

 「その翌日に学園へ行くと無残に破り捨てられた教科書と机に口にするのも憚れる言葉が書かれていたのです。それだけでは飽き足らず学園中にモーリス男爵令嬢の謂れ無い醜聞まで流し孤立を図ったのです。なんとお可哀想な事でしょう!」
 
 大げさな仕草で嘆く様は見せ場でスポットライトを浴びた悲劇のヒーローの様だ。
 モーリス男爵令嬢の大根役者振りも面白かったがこれは単なる道化にしか見えない。
 
 「さらに紳士が入れない場所での狼藉の数々に最終的には悪漢に襲わせて男爵家諸共闇に葬ろうとする始末です」

 凄いなー。息継ぎなしで言い切ったよ。拍手を送りたいが場の空気が壊れちゃ折角の舞台が台無しだ。笑いと共に堪え……られるうちに終わって欲しい。
 モーリス男爵令嬢もさっきから涙目で震えてるし……ん?あれ?口元歪んでないか?気の所為かな。
 チラリとデイヴィッドを見れば既に何人か殺してきたような凄みのある笑みで睨んでる。位置的には俺を睨んでると思われそうだけど、あれ絶対ノートン氏を敵視してるぜ?
 いざという時にはストッパー役になって貰うエヴァンとジェームスを見れば、ふいと目を逸らされた。おいこら止める気ないだろ!?

 「それで?それが何故アレクサンダーと関係があるのだ」

 低い声で問うデイヴィッドに、利は自分達に有ると勘違いしたのかノートン一味は気色ばみ口角を上げた。

 「ドレスの一見は周知の元で行われています。言い逃れは出来ますまい」
 「他の事はなんとする」
 「全ての噂は目撃情報を元に広まっています。何よりモーリス男爵令嬢本人がオルティス侯爵令嬢に意地悪されていると申しているのです」

 それなー。俺もずっと不可解だったんだよ。何せ最近は学園じゃ俺への辺りが甘くなったのに何故かその俺に対して、「アレックス様に酷い事を言われたの」とか言って来るし。え?本人前にして本人に訴える、にしては言葉尻可笑しくない?とか思って曖昧な笑みで首を傾げれば、「あ、アレックス様って言ってもアレックス侯爵令嬢の事でアレクの事じゃないよ!?だってアレクは最強の魔術師枠だったんでしょ!?」とか言われるし。同一人物って知らないのは察していたけどあの時程困ったことは無かった。
 作戦上その時に教える事も憚られて笑って誤魔化したっけか。っといかんいかん、大事な場面で遠い目してる場合じゃねーのよ俺。

 「そうは申されましてもわたくしに行う事は不可能な事ばかりでしてよ」

 目を眇めてノートンを睨むと、ノートン他オトモダチさん達が息を飲んでたじろいだ。
 この程度で……そんな心弱くちゃ社会じゃやってけないぜ?よし、鼻で笑ってやろう。ふんっ(笑)。

 「そうやって爵位を笠に着ていられるのも貴様が侯爵家だからだろう!しかし私も侯爵家の者だ!そして何より私にはゼルディウス公爵閣下という後ろ盾があるのだ!何より閣下自ら我らの言が正しい事を容認して下さっている!」

 はーいビンゴ☆ごくろーさん。
 ゼルディウス公爵は公を配しているが王家の血筋の者では無い。数代前にこの国に吸収合併された国の元王族ではあるが。そして公爵家には最近まで他国へ遊学に出ていた年の近い令嬢がいる。彼女は俺の誕生パーティー前にゼルクへ戻って来ていた為、そこで初めてゼルクでの社交界デビューをした。そしてどうやらデイヴィッドに一目惚れをしたらしい。ここまで調べるのは中々骨がいった。何せ公爵がなかなか隙を見せなかったからな。

 「ほう、ゼルディウス公事実かね」

 デイヴィッドがこれ見よがしにモーリス男爵令嬢の腰を抱き寄せてみせながら、王の近くに控えていたゼルディウス公爵を仰ぎ見た。
 ゼルディウス公爵は今回の大捕り物の本当の主役だ。王に協力を仰いだら案の定愉しそうに笑って連れて来てくれた。今もニマニマと隠しもせず愉しんでいる。
 その横のゼルディウス公爵はこの茶番劇を目にし、歪んだ笑みを浮かべた。
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