せっかくだから男になって攻めてみたい

無月

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本編

17歳-3

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 何時ものたまり場事剣術棟建屋の影で事のあらましを聞いた俺は、軽く眩暈がした。
 主にこの国の将来を思って。
 
 「なあ、貴族ってお馬鹿の集まりなんかな……」

 全ての色素が抜け落ちたように脱力して遠い目をすんのも仕方あるまい。
 だって、なあ?
 誕生会の事故が俺の故意による悪質な虐めだと噂を流され……。
 モーリス男爵令嬢が昨日虐められてて、その犯人が1日中学園を休んでいたにも関わらず俺だと噂を流され……。
 しかもその虐めの内容がまた、何とも今時子供でもヤラナイ陳腐なもので……。
 朝来たら教科書が破かれてた?そもそも置き勉すんなし。俺もしてるけど。
 トイレの個室で上から水流された?男の俺が女子便入った時点で犯罪だっつの。
 その顔で男爵に取り入ったビッチで、本当は貴族の血が入っていない下賤な者。俺達のクラスも実力じゃ無く裏工作で入った。等々の噂を流した?誰だ、んな噂流した奴っ!俺?するか!んな低レベルで悪質なもん!
 そもそも女の子に酷い事しないし、する奴は金の玉もいでしまえとかなり本気で思ってる。
 相手が女の子だったら?そこは丁重にお話合いをする。タチが悪くて会心しない限り酷い事ダメ。絶対。おんにゃのこは赤ちゃんを産んで育てる奇跡な存在です☆

 「とりま噂流した奴は早急に締め上げるべし」

 ふっふっふ。と悪役の様に笑ってバン!と掌に拳を打ち付ける。

 「それですが、犯人は先日奏上された貴族達だと判明しています。
 ですがどうも先導している者がいるようです」

 キラーンと光る眼鏡をくいっと上げて真面目に報告するジェームス。目の奥が笑ってない。

 「誰かはまだ判明してねえけどよ。少なくともアレックスの目を免れる位には狸だってことだ」

 やれやれと降参のポーズで首を振るエヴァン。その目は諦める所か不敵に笑ってる。最近平和で腕がなまるってボヤいてたからな……。

 「折角念願叶って両想いになれたのに、邪魔する輩は例え神でも見つけ出して制裁を受けて貰うさ」

 王族としての威圧を纏わせて静かに怒りの感情を燻ぶらせるデイヴィッド。その目は獲物を狙うハンターだ。
 俺は最初のセリフで思わず赤面して息を詰まらせたがなっ。エヴァンとジェームスが生暖かい目を寄越すから余計居た堪れない……。

 「そうか……やっと諦めたか」

 ポンっと俺の肩に手を置くエヴァン。その手を俺は振り払う。

 「言っとくけどタチを諦めた訳じゃないぞ!?
 好きを自覚しただけだからな!?」

 思わず言い捨ててハタと気付く。
 『好き』を言えた。
 でもなんか違う。多分こんな事故みたいに言うセリフじゃない……よな?
 恐る恐るチラリとデイヴィッドを見れば……ウン。直視出来ないレベルの幸せそうに輝く王子の微笑みだ。どんな言い方でもそんなに嬉しいもんなんだな……。
 そろそろと視線を外しつつ、ちゃんとしたシチュで『好き』を言ってやろう。と決意を新たにした。
 今は殺伐とした空気が霧散しただけでも良しとしよう。でないと死人がでる。リアルで。それ位さっきの3人の目はマジだった。

 「ええっと……。真犯人だよな」

 話を戻すべく咳払い一つしてううむと考え込む。

 「少なくとも俺の目を逃れる位の知能犯で誕生会のあの場面を見ていた人物。
 早い展開を思えばそこそこ地位か社交性のある奴で俺を堕としてメリットのある奴……か」
 「ああ。それを掴む為にもアレックスにゃ悪いが噂を泳がそうかって話を」
 「駄目だ」
 「したら案の定このように殿下に止められた」

 エヴァンのセリフをぶった切ってダメ出しするデイヴィッド。それをどうにかしてくれと助けを求める様に見られても。

 「俺はそれでいいけど。そもそも信じてる奴や噂を利用してる奴って俺と関わりない奴らみたいだし。そんな奴らにどう言われようと信じてる奴等が信じてくれてれば問題ないだろ」

 当たり前の事をどう助けれって言うんだか。
 だろ?っとデイヴィッドの手を握って笑えば、頑なな拒絶をしめしたデイヴィッドも眉尻を下げた。

 「ああ、本当に……。いつからアレクは小悪魔になったんだろうね」
 「いつからデイヴは副音声すら声に出す様になったんだろうな」

 困った様に笑うデイヴィッドにニマっと笑って握った手にキスを落とす。勿論漢らしい仕草でだ。
 口を離す時にニヤリと笑って見上げてやる。
 それに息を飲んで暫く瞑目したデイヴィッドは、やがて諦めて決意したように真面目な顔をした。

 「……やるからには全力で。一切の怪我すら赦さない。
 卒業まで後半年足らず。それまでにやるぞ。大捕り物」
 「おう!」
 「承知!」
 「はい!」

 王族として発言した宣言に、エヴァンとジェームスは最敬礼で答えた。
 俺?俺はデイヴィッドと手を握ってるからな。寧ろ真面目な顔で絶対離そうとしなかったからな。デイヴィッドが。だから太鼓判を押す様にどんと胸を叩いた。

 ああ、そうだ。モーリス男爵令嬢のケアもしないとな。
 そう思っているのは俺だけだった事は遂に卒業前に行う卒業記念パーティまで知る事は無かった。
 
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