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16.コンタクト

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 結賀崎実莉の部屋、机の引き出しに隠されているピンクのスマホは週に一度ぐらいの頻度でSNSの通知がくる。彼女は毎回「◯(既読)」がつかないように、内容を確認していた。

 送信相手はハンドルネームになっていた。送信者がつけたハンドルネームだから、誰だかは分からなかった。ハンドルネームは「SOMO」だった。ひねりのないハンドルネーム。だいたいアタリはつけていたが、つい先日、送信者が判明した。

 本人とSNSの交換をしたわけで、そこに出たハンドルネームが同じだから、推測は確証に変わった。不定期ではあったが、送信者は「このピンクのスマホの持ち主」に対して、何度か連絡を試みている。そして、今日も通知が来ていた。

 自分と連絡先を交換したスマホには、数日後に初送信した内容に◯(既読)がついたぐらいで、向こうからの返信はない。複雑な気持ちにはなったが、それは本来の目的とは関係がないので、あまり気にしない事にした。

 既読をつけないように、内容だけ確認する。笑えるぐらい毎回同じ内容だ。私が持っている時点で相手には届いていない。いや、仮に相手が自身の端末を紛失している事に気づいていて、同一アカウントで別端末でログインして使用しているならば、既読がつく。

 予想としては「元使用者は既に死んでいるか、それに近い状況で回線の解約自体がされていない」「全く別の番号で再度携帯を取得した」「別端末でログインしているが、私みたいに既読をつけずにいる」だ。まあ、紛失に気づいているならば、回線を不正利用されないために停止するなり、機種変更などして、このスマホはWi-Fi以外では使えない。

 だがどういうつもりかは知らないが、モバイル通信はできるままだ。3ヶ月も経っているのに。使用者が死んでいる可能性、または本当に無知で新規回線をつくり、紛失したものを放置しているのも可能性としてなくはない。

 どちらにしても不気味だが、可哀想に送信者にとっては同じ事。私は、ピンクのスマホを引き出しにしまい、自分のスマホで連絡をしてみた。私の送信内容など、確認しないかも知れないが。

 ――お久しぶりです。また、お話できたら嬉しいな。そういえば、最近思い出したんだけど、私、君が例の事件でアパートから搬送されたのを見たの。ごめんね、前に会った時に話さなくて。その時に、蛭子悠希絵さんもその場にいたんだよね。彼女とは、連絡してる?――

 うん、我ながら思いきった内容を送信したものだ。少し心臓がバクバクしている。あいつに気付かれたりしないだろうか。変に勘繰られるのも、危険があるのも承知だ。でも私は、躊躇せず、送信ボタンを押した。

 きっと、数日間放置されるだろうと思っていたが、案外、すぐに既読がついて、返信が来た。

 ――会って話が聞きたい――

 呆れるのを通り越して、笑いが込み上げる。どんだけ食いつきがいいんだよ。最初のスルーは何だったわけ?そんなに魅力ないかな、私。……どうでもいいか。
 

 *

「はあっ!はあっ!」

 繁華街の路地裏から、慌てて走り去る少女。息も絶え絶え、全力疾走で人が沢山いる通りまでたどり着いた。

「じょ、冗談じゃないわよ……!何なのあれ」

 少女はあたりを必死に見回して、目を白黒させていた。そして、目的のものを見つけると慌てて、そこに駆け込んだ。

「あ、あの!ひ、人が倒れてます!」
「どうしたの、落ち着いて!」
「早く、行ってください……。薬局の横の路地をまっすぐ、いっ、……おっ、オエッ」

 少女は交番内で嘔吐した。「大丈夫か!?」一人の女性警官を残し、2人の男性警官が伝えた場所に向かって行く。

「大丈夫……?あなたの名前は?言える?」
「ひ、蛭子、蛭子悠希絵です」

 蛭子が落ち着きを取り戻すのに10数分かかった。その間に、2人の男性警官が戻ってきた。

「君、大丈夫?顔色悪いけど。家帰れる?」
「いや、あの!そうじゃなくて!……大丈夫でしたか!?さっきの人、ち、血だらけで……」

 警官は2人、こまったように顔を見合わせる。その後、優しく蛭子に諭すように、話しかけた。

「ああ、かなり酷い状態だったね。可哀想に。最近多くてね、猫とか、犬の死体が。さっきのは猫だったけど」
「は!?猫……?そんなはずは……!」
「……大丈夫?もし、あれなら親御さんに連絡するけど」

「そんな、ウソよ!」蛭子は交番を飛び出して行く。「ちょっと待って!」と女性警官は追いかけようとしたが、男性警官に静止された。

「この辺には、沢山子がいるんだ。もしかすると、幻覚とか……」
「だったら、余計に……」
「……可能性の話だ。一人一人対応してたら拉致があかない」
「……そんな」


 
 
 
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