可愛いものに溺れたい

小葉石

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4、可愛い者は何をしてても可愛い

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 授業中、教員に悟られない様にどこまで食べられるかチャレンジをしていた級友は、当然教師に見つかり後始末の罰の為に階下に降りた。
  
 見つかるのは当たり前だろうに。その挑戦は面白かったが、食べ出した物がグルグルソフトキャンディで、運が悪いことにその授業の担当教師は鬼の数先と呼ばれている若手の数学科教師だった。友人は咀嚼している所を見つかって、思い切り窓の外にキャンディを放り投げたものの時すでに遅し…授業後残骸諸共全て拾ってこいとの御達しを受けていた。

「あ~あ。ばっかだなぁあいつ!」

 可哀想にと同情しているかと思いきや、片付けをしている友人を見ているクラスメイト達はもれなく皆んな楽しそうに笑っている。時には声援という野次を飛ばしながら、花壇に落ちたソフトキャンディと袋を拾っている友人を揶揄う。

「鷹、手伝わんでいいん?」

 数先にこの後お説教まで喰らうだろう級友は、鷹兵司とよく連んでいる菅野鳥戌里(かんのとり しゅり)だ。いつも一緒に行動してるし、自他共に親友に近い存在だろう。

「いや、手伝わんし…戌里ー頑張れー」

 なんとも棒読みの応援のみ投げかけてやる。戌里がこんなバカな行為をするのは何故かわざわざあの数先の授業だけなんだ。スーツにメガネのサラリーマンの方が似合ってるんじゃね?と突っ込まれそうな出立ちがトレードマークの鬼の数先こと加瀬谷先生。数先の何が気に入らないのかよくわからないが、本人わざとやっている節があるから本気で心配なんてしてやらん。


「キャアキャア…!」

 ボゥッと戌里を見つめていたら渡り廊下の方から女子の甲高い声が聞こえてきた。女子グループが何やら騒いでいるらしいのだが。
 可愛く整えた髪型に薄いリップ、整えた爪先や短くしたスカート…可愛いと思うものが塊でいる。ついつい視線で追ってしまうの位は許して欲しい。

「お?一年か?」

 隣の級友も彼女達に目が移る。

「ん、そうみたいだな。」

 ワキャワキャしている彼女達の胸元に一学年を表す緑色の校章が見える。

 なんの話をしているのか良く聞こえないが、塊ながらキャッキャッと燥ぐ姿は見ているだけで可愛らしいものだ。

 ジッと見つめていると、一人の女子と目が合った。フワフワの柔らかそうなショートヘア。大きな瞳でこっちを見上げてきていて何かに驚いたのかクルクルと表情を変えるものだから見ていてちっとも飽きない。可愛く整った顔立ちはそのグループの中でもピカイチなんではないかとさえ思うほど、こちらの目を引くものがあった。

「何睨んでるんだよ??」

 隣立つ級友には兵司の表情はまるで怒っている様に写ったのかもしれない。ギュッと力を込めて眉根を寄せ凝視しているものだからそう見えてしまっても仕方がないのだが。

「女子、可愛いんだけど、ちょっと五月蝿いかもな?」

 全く五月蝿いとは感じないのだが、戌里以外の男子にも要らぬ気を使われてしまった様だ。

「いや、大丈夫…」

 自分が可愛さを堪能したくて見つめているとは絶対に言い出せないから至って平静になんでも無い風を装って答えるしか無い。可愛い物好きがバレてクラス中の笑い者になるなんて真っ平ごめんだ。真っ平ごめんなんだが、可愛い者は可愛い。自然と目が行くのは許してほしい。

 いつも女子には酷く冷たい塩対応、怖すぎて側に寄れない、一生彼女作れないんじゃ無い…?陰でこんな風に言われている事くらいわかっている。

 でも、だから何?可愛い物好きはバレちゃいけないし、バレるくらいなら彼女なんて欲しくない。ただ遠くから愛でるくらい良いじゃないかと自分勝手な欲望が暴れてる。

「ちょいちょい、鷹君さ?」

 ジッと見つめ続けてると、隣の級友がツンツンと続いてきた。

「ん?」

 何気なく視線を送ると、なんとも言えない困ったような呆れた様な級友の顔がある。

「何?」

「や、なにじゃなくってさ…女の子達、怯えてね?」

「え?」

 もう一度視線を女子に向けてみれば何やら先程の女子グループの中の数名は寄り添って何やら話している。

「か…っ…!」

 フルフルと震えているかもしれない女子のそんな姿に、思わず可愛い、と口に出してしまいそうになって、慌てて手で口を押さえた。だって仕方がない…!可愛い者は何をしていても可愛いんだ…!

…くっそ!!……

 気を抜くと表情が緩んでしまいそうになるので、一層眉間と瞼にまで力を入れて気を引き締めた。

「うを!鷹!お前大丈夫!?」

 隣にいた級友はびっくりした様な声を上げた。

「ん……」

 本当は大丈夫じゃない…リアル女子高生が目の前でわちゃわちゃと戯れていて可愛い姿をこれでもかと晒しているんだ。自分でも可愛いと思うものに対するこの反応は異常じゃないかと思うのだが、自分という生体の反応なんだから仕方がない。

…笑うな、笑うな…!愛しそうに微笑むな!!………

「な、気分悪いのかよ!?」

 兵司が口元を押さえてしまい、尚且つ表情も先程より険しさを増したからだろう。級友は兵司が気分が悪くなったのかと勘違いしてくれた。

「や…本当に、大丈夫…」

 可愛い、と叫びたいのを必死に我慢している分、声もぎこちなくなる。

「ほ、保健室?いや、トイレに行くか?」

 意外とお節介で友達思いの級友はそのまま兵司の腕を引っ張ってトイレまで付き添ってくれた。

 トイレの個室にしばし立て篭もり、今日は何とか落ち着きを取り戻す事ができた。が、これではダメだ。何どこかでバレてしまうかもしれない……





「はい、これ!」

 今日も完璧な可愛さを誇る姉蓮音から兵司はある物を受け取った。家でもなんとか
、学校では隠しに隠してバレていないだろう可愛いもの好きの日々に限界を感じてきてしまった今日この頃…いつかついポロリと素が出て、周囲に気持ち悪がられ嫌われて、一気に暗黒の学生時代に突入するよりはある程度ガス抜きできる物があった方が安全ではないかと考えたすえだ。

 これで、今日みたいな失態は犯さない。ありがたいことに、級友は兵司の事をただの体調不良と勘違いしてくれて、その後の授業にも何かと気を遣ってくれた。それはありがたい様な申し訳ない様なくすぐったい対応であったが、があればもうあんな事が起こる前に可愛いを補充出来るだろうから。

「あ、ほら~やっぱり、ひょうちゃんはひょうちゃんじゃん!そう簡単に好きな物って変わらないよねぇ?」

 思わずニヨニヨしそうな兵司の顔を覗き込んできて、蓮音は嬉しそうに笑う。

「うるさいな……」

 兵司は大きな手で蓮音の顔面を押し戻してクルリと自分の部屋へ行こうと踵を返した。

「あ、もう!ひょうちゃん!冷たくなって!男子って難しいよね~しょうがないなぁ、それ、またあげるから言いなさいよ?」

 ブツブツ文句を言いながらも姉の蓮音はまた次をくれると言う。

…無くなるわけないだろ………

 もらっておいてなんだが、微塵も使うつもりはないのだから。

 ギュッと片手にスッポリと収まるそれを握りしめて、ドキドキと動悸がしてきそうなのに平然とした顔を保ちつつ、自室へと急いだ。










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