5 / 109
バルビス公国への旅立ち
5 バルビスの花嫁 1
しおりを挟む
「私、本当に楽しみにしているのよ?」
コトコトと揺れる馬車の中、徐々に死にそうな顔色になってくる侍女マリーンに向かって王女シャイリーは話しかける。
「しかし、でもしかし…シャイリー殿下…!」
見る見るうちにマリーンの眼は涙で一杯になって…散々他の侍女と共に王城で泣きはらしてきたというのに、まだまだマリーンの涙は枯れそうにも無い。
「泣き虫さんねぇ…」
これにはシャイリーも呆れるしか無い。侍女達は今後のシャイリーを慮ってその身の上の不遇を嘆き悲しんでくれているのであるから勿論感謝はするのだけれど、当の本人はちっとも悲しそうでは無いのだ。
「義姉上にね、沢山お聞きしたの。」
「何をでございますか?」
ただの義理の姉と妹という関係では無い二人は周囲が認めるほどに仲良しで、ルシュルー第3側妃が元気な時は勿論、体調を壊してからも足繁く見舞いに通うほどの仲であるということは周知の事実だ。
「バルビス公国の良い所をよ。」
「良い所?あんな氷漬けの土地がですか?」
永久凍土とも言える氷の領土、作物も育たず不毛の呪われた土地…嫁いだ王女達が短命であるのはあの地が呪われているからだ。これらは巷でよく聞くバルビス公国に対する悪口だ。良く知らない国民からこの様な噂が上がるのは致し方ないことだろう。だが、中には貴族であっても良く物を考えずにこの様な噂話を広めてしまう者もいて良くも悪くも今バルビス公国の全体的な印象は悪い方へと傾いてしまっている。
「ええ!それが沢山あるのよ?マリーンは氷菓を知っているでしょう?」
「それは勿論にございます!あんなに冷たくて甘くて美味しゅう物はありませんわ!とても高価で私達等にはなかなか口に入れる事もできませんけど…」
氷塊は毎日の様に常夏の国アールスト国に運ばれては来る。そのほとんどが第3側妃ルシュルーの為の物だが、危険な山脈から氷塊を取るのだから常に多めに切り出してくるのだ。その余った分は王城へそのまま収められたり、時折にだが貴族達も手に入れられたりするのだ。その代表的な使用方法が食用、氷菓として楽しまれている。
「ふふふ、そうよね?美味しいわよね?」
「ええ!勿論でございます!シャイリー殿下付きなって初めて口にできた物です!王城に務める侍女の特権の様な物で、実家に帰った時など皆この話を楽しみにしている位ですわ。」
「ええ、アールスト国では珍しいものね。でも、バルビス公国では庶民のおやつなんですって。」
「は?おやつ?氷菓がおやつ!?」
「ええ、そうよ。」
氷に閉ざされているバルビスにはそこかしこに雪や氷がある一面の銀世界。人が足を踏み入れていない所ならどこでも氷を割って口に入れてもいいらしい。割った氷にシロップをかけ、半凍りになった所を食べる。外遊びをする子供達の一般的なおやつだそうな。
「…まさか……」
アールスト国では氷と言えば献上品か、目の飛び出る様な値が付くのに…
「それだけでは無くてよ?」
外遊びをする子供達はなんと、氷の上を滑って遊ぶのだそうだ。雪と氷に閉ざされているからこその遊びだが、アールスト国では考えられないことだ。
「ね?高価なお菓子が食べ放題に、それを足元に引き詰めて踏みしめながら遊ぶのよ?考えられないでしょう?」
「め、目眩がしてきました……」
バルビス公国までは遠い。シャイリーはこの道中ずっと、マリーンに第3側妃から聞き及んでいたバルビス公国の良い所を話聞かせていた。
コトコトと揺れる馬車の中、徐々に死にそうな顔色になってくる侍女マリーンに向かって王女シャイリーは話しかける。
「しかし、でもしかし…シャイリー殿下…!」
見る見るうちにマリーンの眼は涙で一杯になって…散々他の侍女と共に王城で泣きはらしてきたというのに、まだまだマリーンの涙は枯れそうにも無い。
「泣き虫さんねぇ…」
これにはシャイリーも呆れるしか無い。侍女達は今後のシャイリーを慮ってその身の上の不遇を嘆き悲しんでくれているのであるから勿論感謝はするのだけれど、当の本人はちっとも悲しそうでは無いのだ。
「義姉上にね、沢山お聞きしたの。」
「何をでございますか?」
ただの義理の姉と妹という関係では無い二人は周囲が認めるほどに仲良しで、ルシュルー第3側妃が元気な時は勿論、体調を壊してからも足繁く見舞いに通うほどの仲であるということは周知の事実だ。
「バルビス公国の良い所をよ。」
「良い所?あんな氷漬けの土地がですか?」
永久凍土とも言える氷の領土、作物も育たず不毛の呪われた土地…嫁いだ王女達が短命であるのはあの地が呪われているからだ。これらは巷でよく聞くバルビス公国に対する悪口だ。良く知らない国民からこの様な噂が上がるのは致し方ないことだろう。だが、中には貴族であっても良く物を考えずにこの様な噂話を広めてしまう者もいて良くも悪くも今バルビス公国の全体的な印象は悪い方へと傾いてしまっている。
「ええ!それが沢山あるのよ?マリーンは氷菓を知っているでしょう?」
「それは勿論にございます!あんなに冷たくて甘くて美味しゅう物はありませんわ!とても高価で私達等にはなかなか口に入れる事もできませんけど…」
氷塊は毎日の様に常夏の国アールスト国に運ばれては来る。そのほとんどが第3側妃ルシュルーの為の物だが、危険な山脈から氷塊を取るのだから常に多めに切り出してくるのだ。その余った分は王城へそのまま収められたり、時折にだが貴族達も手に入れられたりするのだ。その代表的な使用方法が食用、氷菓として楽しまれている。
「ふふふ、そうよね?美味しいわよね?」
「ええ!勿論でございます!シャイリー殿下付きなって初めて口にできた物です!王城に務める侍女の特権の様な物で、実家に帰った時など皆この話を楽しみにしている位ですわ。」
「ええ、アールスト国では珍しいものね。でも、バルビス公国では庶民のおやつなんですって。」
「は?おやつ?氷菓がおやつ!?」
「ええ、そうよ。」
氷に閉ざされているバルビスにはそこかしこに雪や氷がある一面の銀世界。人が足を踏み入れていない所ならどこでも氷を割って口に入れてもいいらしい。割った氷にシロップをかけ、半凍りになった所を食べる。外遊びをする子供達の一般的なおやつだそうな。
「…まさか……」
アールスト国では氷と言えば献上品か、目の飛び出る様な値が付くのに…
「それだけでは無くてよ?」
外遊びをする子供達はなんと、氷の上を滑って遊ぶのだそうだ。雪と氷に閉ざされているからこその遊びだが、アールスト国では考えられないことだ。
「ね?高価なお菓子が食べ放題に、それを足元に引き詰めて踏みしめながら遊ぶのよ?考えられないでしょう?」
「め、目眩がしてきました……」
バルビス公国までは遠い。シャイリーはこの道中ずっと、マリーンに第3側妃から聞き及んでいたバルビス公国の良い所を話聞かせていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
「結婚しよう」
まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。
一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。
【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係
ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる