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バルビス公国への旅立ち
5 バルビスの花嫁 1
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「私、本当に楽しみにしているのよ?」
コトコトと揺れる馬車の中、徐々に死にそうな顔色になってくる侍女マリーンに向かって王女シャイリーは話しかける。
「しかし、でもしかし…シャイリー殿下…!」
見る見るうちにマリーンの眼は涙で一杯になって…散々他の侍女と共に王城で泣きはらしてきたというのに、まだまだマリーンの涙は枯れそうにも無い。
「泣き虫さんねぇ…」
これにはシャイリーも呆れるしか無い。侍女達は今後のシャイリーを慮ってその身の上の不遇を嘆き悲しんでくれているのであるから勿論感謝はするのだけれど、当の本人はちっとも悲しそうでは無いのだ。
「義姉上にね、沢山お聞きしたの。」
「何をでございますか?」
ただの義理の姉と妹という関係では無い二人は周囲が認めるほどに仲良しで、ルシュルー第3側妃が元気な時は勿論、体調を壊してからも足繁く見舞いに通うほどの仲であるということは周知の事実だ。
「バルビス公国の良い所をよ。」
「良い所?あんな氷漬けの土地がですか?」
永久凍土とも言える氷の領土、作物も育たず不毛の呪われた土地…嫁いだ王女達が短命であるのはあの地が呪われているからだ。これらは巷でよく聞くバルビス公国に対する悪口だ。良く知らない国民からこの様な噂が上がるのは致し方ないことだろう。だが、中には貴族であっても良く物を考えずにこの様な噂話を広めてしまう者もいて良くも悪くも今バルビス公国の全体的な印象は悪い方へと傾いてしまっている。
「ええ!それが沢山あるのよ?マリーンは氷菓を知っているでしょう?」
「それは勿論にございます!あんなに冷たくて甘くて美味しゅう物はありませんわ!とても高価で私達等にはなかなか口に入れる事もできませんけど…」
氷塊は毎日の様に常夏の国アールスト国に運ばれては来る。そのほとんどが第3側妃ルシュルーの為の物だが、危険な山脈から氷塊を取るのだから常に多めに切り出してくるのだ。その余った分は王城へそのまま収められたり、時折にだが貴族達も手に入れられたりするのだ。その代表的な使用方法が食用、氷菓として楽しまれている。
「ふふふ、そうよね?美味しいわよね?」
「ええ!勿論でございます!シャイリー殿下付きなって初めて口にできた物です!王城に務める侍女の特権の様な物で、実家に帰った時など皆この話を楽しみにしている位ですわ。」
「ええ、アールスト国では珍しいものね。でも、バルビス公国では庶民のおやつなんですって。」
「は?おやつ?氷菓がおやつ!?」
「ええ、そうよ。」
氷に閉ざされているバルビスにはそこかしこに雪や氷がある一面の銀世界。人が足を踏み入れていない所ならどこでも氷を割って口に入れてもいいらしい。割った氷にシロップをかけ、半凍りになった所を食べる。外遊びをする子供達の一般的なおやつだそうな。
「…まさか……」
アールスト国では氷と言えば献上品か、目の飛び出る様な値が付くのに…
「それだけでは無くてよ?」
外遊びをする子供達はなんと、氷の上を滑って遊ぶのだそうだ。雪と氷に閉ざされているからこその遊びだが、アールスト国では考えられないことだ。
「ね?高価なお菓子が食べ放題に、それを足元に引き詰めて踏みしめながら遊ぶのよ?考えられないでしょう?」
「め、目眩がしてきました……」
バルビス公国までは遠い。シャイリーはこの道中ずっと、マリーンに第3側妃から聞き及んでいたバルビス公国の良い所を話聞かせていた。
コトコトと揺れる馬車の中、徐々に死にそうな顔色になってくる侍女マリーンに向かって王女シャイリーは話しかける。
「しかし、でもしかし…シャイリー殿下…!」
見る見るうちにマリーンの眼は涙で一杯になって…散々他の侍女と共に王城で泣きはらしてきたというのに、まだまだマリーンの涙は枯れそうにも無い。
「泣き虫さんねぇ…」
これにはシャイリーも呆れるしか無い。侍女達は今後のシャイリーを慮ってその身の上の不遇を嘆き悲しんでくれているのであるから勿論感謝はするのだけれど、当の本人はちっとも悲しそうでは無いのだ。
「義姉上にね、沢山お聞きしたの。」
「何をでございますか?」
ただの義理の姉と妹という関係では無い二人は周囲が認めるほどに仲良しで、ルシュルー第3側妃が元気な時は勿論、体調を壊してからも足繁く見舞いに通うほどの仲であるということは周知の事実だ。
「バルビス公国の良い所をよ。」
「良い所?あんな氷漬けの土地がですか?」
永久凍土とも言える氷の領土、作物も育たず不毛の呪われた土地…嫁いだ王女達が短命であるのはあの地が呪われているからだ。これらは巷でよく聞くバルビス公国に対する悪口だ。良く知らない国民からこの様な噂が上がるのは致し方ないことだろう。だが、中には貴族であっても良く物を考えずにこの様な噂話を広めてしまう者もいて良くも悪くも今バルビス公国の全体的な印象は悪い方へと傾いてしまっている。
「ええ!それが沢山あるのよ?マリーンは氷菓を知っているでしょう?」
「それは勿論にございます!あんなに冷たくて甘くて美味しゅう物はありませんわ!とても高価で私達等にはなかなか口に入れる事もできませんけど…」
氷塊は毎日の様に常夏の国アールスト国に運ばれては来る。そのほとんどが第3側妃ルシュルーの為の物だが、危険な山脈から氷塊を取るのだから常に多めに切り出してくるのだ。その余った分は王城へそのまま収められたり、時折にだが貴族達も手に入れられたりするのだ。その代表的な使用方法が食用、氷菓として楽しまれている。
「ふふふ、そうよね?美味しいわよね?」
「ええ!勿論でございます!シャイリー殿下付きなって初めて口にできた物です!王城に務める侍女の特権の様な物で、実家に帰った時など皆この話を楽しみにしている位ですわ。」
「ええ、アールスト国では珍しいものね。でも、バルビス公国では庶民のおやつなんですって。」
「は?おやつ?氷菓がおやつ!?」
「ええ、そうよ。」
氷に閉ざされているバルビスにはそこかしこに雪や氷がある一面の銀世界。人が足を踏み入れていない所ならどこでも氷を割って口に入れてもいいらしい。割った氷にシロップをかけ、半凍りになった所を食べる。外遊びをする子供達の一般的なおやつだそうな。
「…まさか……」
アールスト国では氷と言えば献上品か、目の飛び出る様な値が付くのに…
「それだけでは無くてよ?」
外遊びをする子供達はなんと、氷の上を滑って遊ぶのだそうだ。雪と氷に閉ざされているからこその遊びだが、アールスト国では考えられないことだ。
「ね?高価なお菓子が食べ放題に、それを足元に引き詰めて踏みしめながら遊ぶのよ?考えられないでしょう?」
「め、目眩がしてきました……」
バルビス公国までは遠い。シャイリーはこの道中ずっと、マリーンに第3側妃から聞き及んでいたバルビス公国の良い所を話聞かせていた。
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