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バルビス公国への旅立ち

10 バルビスの公主 2

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「お目にかかれて光栄です。アールスト王国第6王女殿下。私は御身の護衛を務めさせていただきます、騎士団団長ナトル・ベン・フレイリーと申します。どうぞナトルとお呼びください。」

「出迎え感謝いたします。フレイリー卿。本日よりよろしくお願いいたします。」

 フレイリー卿は30代ほどに見える体躯の良い騎士だった。ざっと見渡しても分かることだが、やはり皆薄着である。

「遠路はるばるお疲れでしょう?我が主人バルビス殿下が首を長くして待っております故、早速ではありますがご案内したいのですが?」

 痩せ我慢をしていてもやはり外は寒くて…ガタガタと震えない様に去勢を張っていたところを見透かされた様でシャイリーは少しばかりバツが悪い。が、平然としている騎士達が信じられないほど外の冷気には耐え難いものがあった。

「さ、フレイリー卿。王女殿下が冷え切ってしまわれますわ。」

 挨拶を交わす騎士とシャイリーの間にバルビス国側の馬車の横に控えていた侍女が声をかけてくる。

「さ、王女殿下。」

 彼女は直ぐに両手に抱えていた上質の毛皮のコートをシャイリーにかける。毛皮は非常に温かく、息が詰まるほどに厳しいと感じる冷気から一瞬にして身体が守られた事にシャイリーはホッと息をついた。

「これは、失礼をいたしました。さ、馬車までエスコートいたします。」

「感謝しますわ。」

 今はただ掛けられた毛皮のコートがありがたく、できれば早く馬車に乗りたかったのだ。フレイリー卿のエスコートを受けながら、シャイリーは一度だけアールスト国の騎士達、馬車へと目を向ける。皆一様に礼を取ってシャイリーを見送っていた。

「……」

 もう会うことはないだろうとシャイリーはしっかりと目に焼き付ける様に瞬きせずに見つめた後、意を決したようにバルビス公国の馬車へと向かう。
 そのシャイリーの視線の端に一瞬白いものが動いた様に見えた。が、ここは一面雪の色。真白なのだ。風で何かが動いたとしても、また白い動物が動いたとしてもちっとも見分けがつかない。

「王女殿下?どうかいたしましたか?」

 一瞬足を止めたシャイリーに、フレイリー卿は声をかけた。

「今、何かが動いた様に見えたのですが……」

 どこにもいない……

「あぁ、今の時期ですとウサギでしょうか?たまに人里までチョロチョロと降りてきますから。」

「まあ、ウサギですの?」

 それは可愛いだろう。ぜひマリーンにも見せてやりたい。

「ええ。邸周辺にもよく出ます故、またお目にかける事もありますよ。さ、どうぞ。」

 もう一度見てみたいと、名残惜しくその方に目を向けたシャイリーだが、その場では二度と動くものは見当たらなかった。





 
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