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揺蕩い行く公主の妻

14 ルシュルー妃の決意 4

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「陛下…それは到底お聞き入れできないものです。」

 自分の妃の身体のことを考えればこれが1番良い方法。誰が聞いてもそう答える様な提案をバルビス公主トライトスはバッサリと切り捨てた。その表情は確固たる決意にも似た強い意志を表していて、アールスト国王も溜息をつくしかなさそうな返答であった。

「其方の言いたい事も、重々承知だ…」

 元々供物姫は人質の様なもの。お互いの国の掛け替えの無い王族がいるからこそお互いを侵略し得ない様にしているのだから。
 
 それなのに、今晩のアールスト国王はそんな禁忌を自ら破ろうとしている。まだ国力のあるアールスト王国ならばバルビス公国に攻め入られようとも十分立ち向かえるだろうが、資源も物資も事欠くバルビス公国はそうはいかない。戦など仕掛けられてはひとたまりもないのである。

 だから、いくらそうしたいと思っていても、トライトスは決して受け入れはしないだろう。

(当然ですわ…やはり、殿下はご立派なお方です。義姉上がご心配でしょうに…)

 アールスト国王のこの提案を蹴ることは体調を崩して久しいルシュルー妃を見捨てる事にも等しくなる。短い命の火が消えるまでルシュルー妃にはここ、アールスト王国に留まる様にと死刑宣告をしている様なものである事も重々承知しているはず…

「陛下…シャイリー妃殿下を妃にとお望みになられたのはバルビス公主ご本人とか?」

 それまで一言も口を挟まず黙して食事を進めていたアールスト王国王妃ミレジューが口を挟んだ。

(ま、殿下が…?それほどまでに、義姉上のお身体がお悪いと思ってらしたんですね?それなのに…里帰りを断って………)

 どれだけ、心苦しいだろうか…

「左様にございます。王妃殿下。」

「でしたら、シャイリー妃殿下を手元から手放したくないのも当然というものでしょう?」

「ん?ミレジューしかしだな…」

「小国のバルビス公がどうしても譲り受けたいと声をあげたのですもの。決してシャイリー様を無碍にはなさいますまい?違いまして?公主殿下?」

「……御意にございます、王妃殿下…」

「ミレジュー、それでは公主が悋気深く狭量の狭い者と同じ事。」

(お、王妃殿下?殿下は…良くは知りませんが決して心の狭いお方ではないと存じます…!)

「ですが、ご自分達はこちらアールストまで来られますのに、シャイリー様はお連れできないなんて…軽い風邪と怪我なれば尚更、氷で閉ざされた地よりは我が国の方が休まると言うものでは?」

(王妃殿下…!)

 そういえば…アールスト国王妃ミレジューとの面会回数は多くはなかったが、王妃は呪われた地と言われているバルビス公国にあまり良い感情は持っていない発言を繰り返している人であった……










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