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10、王妃とは 2
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「朝からなんだというのだ?ノレッタ。」
「おはようございます、王。衣類を纏ってください。」
タガードが現れただけで勢いよくフリージアは後ろを向いた。帝国では異性が裸になる事など少ないのだろうと、目の前の女の反応を見て分かっても良さそうではある。
はぁ…と溜息を吐きながらノレッタはタガードに羽織れる布を手渡す。
「それでどうした?」
全く悪びれもなくタガードは布を肩にかけると再度同じことを問う。
「王妃様がマルクスと言う者を探しておいでです。」
知ってます?ノレッタの視線は遠慮なくタガードにそう聞いている。
「………………」
その問いにタガードは表情を崩さぬまま無言だ。
「ご一緒に帝国からきた神官だと言う事です。」
チロリ、と王を見つめるノレッタの瞳がやや攻める様な色をしている。
「あの天幕に私と共にいた者です…!寒さに震えておりました。どこにおります?」
ちゃんと寝る所や食べる物を与えられているのだろうか…心配は尽きない。
「あの者が大切か?」
感情の読めない声でタガードが聞いてくる。
「大切…?私の幼い頃から知っている者ですわ!」
大切と言ったら大切だろう。奴隷であるフリージアやその仲間達を優しく導いてくれていたのはマルクスなのだから。
「自分の身分よりもか?」
「私の身分…?」
この国ではフリージアは王妃である。だが、それがなんだと言うのだろう。婚姻当日から説明もなく無視され、砂漠の中に放置されたかと思ったら凍死しかけた。気がつけばここは王城であるらしいが、仕える者の礼儀はなっていないし、たった一人の従者まで奪われる始末…
王妃とは名ばかりで捕虜に近い…ええ、分かっておりますとも…
「身分の事ならば心得ております。無闇にゲルテンの国政には口を出さず、城の中でも大人しく過ごし、貴方様の言う事には逆らわずに、己の為すべき事のみを忠実に行う事、でございましょう?」
どうですか?違いませんよね?
「人形ですか?」
口を切ったのは他でもない侍女のノレッタである。
信じられない光景だ。王と王妃の会話に侍女が横槍を入れるなど…フリージアは冷や汗が出る思いであった。いくら歓迎されていないとは言え年頃の女性の無残な姿など見たくはないものだ。どうか、タガードが怒りを現し、腰に刺したる大剣で持って侍女を切り捨てません様に…!
知らない内にギュッと握り併せていた両手を祈る様に胸元に引き寄せた。
「人形ではない、王妃だ!ノレッタも誠意を持って仕えろ。はぁ………あの奴隷の事は考えて置いてやる。待ってろ。」
ノレッタが切り捨てられる事はなかった…規律と秩序に重きを置く帝国ならば下の者が上へ楯突いただけで投獄される事しばしばであったのに。
「良かったですね?奴隷でしょうけど、上級奴隷としてここに連れて来られますよ、その人。」
何事もなかったかの様にノレッタはその場の食事を片付け始めた。タガードも来た時と同じ様にのっそりと部屋から出て行った。
また、取り残される…ポツンと一人、ここで何をしていれば良いと言うの?フリージアはただ呆然と立ち尽くす。
その後、連れて来られたマルクスの姿にフリージアは絶句した…神官の衣類は取り上げられてボロキレを少し綺麗にした様な衣類を纏い、首には太い首輪に長い鎖が下がっている状態で連れて来られたからである。
「マルクス!!」
「下がって下さい!!」
奴隷を連れてきた屈強な男がフリージアを止める。
「何故です!同郷の者なのに!」
「帝国ではね?ここじゃあ、これは奴隷ですよ?それも貴方が望んだから上級奴隷としてここに献上されるわけだ。」
男の言い分には何故か棘がある。まるでフリージアがマルクスと会いたいと、一緒に居たいと言う事に対して真っ向から非難している様である。
「………」
奴隷なんていらない。奴隷を望んだわけじゃない…!
言い返したかったが、自分だって奴隷の身であったフリージアだ。本当の身分を隠しているだけあって言葉にするのが躊躇われた。
「…わかりました。近寄らなければ良いのですか?」
伸ばしかけた手を胸元に引き寄せて、ギュッと握る。
男は何やら部屋の隅で鎖をいじりながらフリージアに聞こえるように説明しだす。
「良いですか?これに近付くのはノレッタや他の侍女です。貴方はダメですからね?鑑賞やらおしゃべりなんかはここで十分でしょう?あ、これがいる時はもう一人侍女を増やしますから!」
ガチャン、ガチガチ…
金属が触れる音が幾つか続いた後、男も必要な事を言い終えた様で立ち上がる。
「わかりましたね?」
ちゃんと話す言葉は聞こえている。理解もした。マルクスに触れる事はできない事。猛獣か何かの様に離れて楽しめと言う…そして監視のおまけ付き…
「おはようございます、王。衣類を纏ってください。」
タガードが現れただけで勢いよくフリージアは後ろを向いた。帝国では異性が裸になる事など少ないのだろうと、目の前の女の反応を見て分かっても良さそうではある。
はぁ…と溜息を吐きながらノレッタはタガードに羽織れる布を手渡す。
「それでどうした?」
全く悪びれもなくタガードは布を肩にかけると再度同じことを問う。
「王妃様がマルクスと言う者を探しておいでです。」
知ってます?ノレッタの視線は遠慮なくタガードにそう聞いている。
「………………」
その問いにタガードは表情を崩さぬまま無言だ。
「ご一緒に帝国からきた神官だと言う事です。」
チロリ、と王を見つめるノレッタの瞳がやや攻める様な色をしている。
「あの天幕に私と共にいた者です…!寒さに震えておりました。どこにおります?」
ちゃんと寝る所や食べる物を与えられているのだろうか…心配は尽きない。
「あの者が大切か?」
感情の読めない声でタガードが聞いてくる。
「大切…?私の幼い頃から知っている者ですわ!」
大切と言ったら大切だろう。奴隷であるフリージアやその仲間達を優しく導いてくれていたのはマルクスなのだから。
「自分の身分よりもか?」
「私の身分…?」
この国ではフリージアは王妃である。だが、それがなんだと言うのだろう。婚姻当日から説明もなく無視され、砂漠の中に放置されたかと思ったら凍死しかけた。気がつけばここは王城であるらしいが、仕える者の礼儀はなっていないし、たった一人の従者まで奪われる始末…
王妃とは名ばかりで捕虜に近い…ええ、分かっておりますとも…
「身分の事ならば心得ております。無闇にゲルテンの国政には口を出さず、城の中でも大人しく過ごし、貴方様の言う事には逆らわずに、己の為すべき事のみを忠実に行う事、でございましょう?」
どうですか?違いませんよね?
「人形ですか?」
口を切ったのは他でもない侍女のノレッタである。
信じられない光景だ。王と王妃の会話に侍女が横槍を入れるなど…フリージアは冷や汗が出る思いであった。いくら歓迎されていないとは言え年頃の女性の無残な姿など見たくはないものだ。どうか、タガードが怒りを現し、腰に刺したる大剣で持って侍女を切り捨てません様に…!
知らない内にギュッと握り併せていた両手を祈る様に胸元に引き寄せた。
「人形ではない、王妃だ!ノレッタも誠意を持って仕えろ。はぁ………あの奴隷の事は考えて置いてやる。待ってろ。」
ノレッタが切り捨てられる事はなかった…規律と秩序に重きを置く帝国ならば下の者が上へ楯突いただけで投獄される事しばしばであったのに。
「良かったですね?奴隷でしょうけど、上級奴隷としてここに連れて来られますよ、その人。」
何事もなかったかの様にノレッタはその場の食事を片付け始めた。タガードも来た時と同じ様にのっそりと部屋から出て行った。
また、取り残される…ポツンと一人、ここで何をしていれば良いと言うの?フリージアはただ呆然と立ち尽くす。
その後、連れて来られたマルクスの姿にフリージアは絶句した…神官の衣類は取り上げられてボロキレを少し綺麗にした様な衣類を纏い、首には太い首輪に長い鎖が下がっている状態で連れて来られたからである。
「マルクス!!」
「下がって下さい!!」
奴隷を連れてきた屈強な男がフリージアを止める。
「何故です!同郷の者なのに!」
「帝国ではね?ここじゃあ、これは奴隷ですよ?それも貴方が望んだから上級奴隷としてここに献上されるわけだ。」
男の言い分には何故か棘がある。まるでフリージアがマルクスと会いたいと、一緒に居たいと言う事に対して真っ向から非難している様である。
「………」
奴隷なんていらない。奴隷を望んだわけじゃない…!
言い返したかったが、自分だって奴隷の身であったフリージアだ。本当の身分を隠しているだけあって言葉にするのが躊躇われた。
「…わかりました。近寄らなければ良いのですか?」
伸ばしかけた手を胸元に引き寄せて、ギュッと握る。
男は何やら部屋の隅で鎖をいじりながらフリージアに聞こえるように説明しだす。
「良いですか?これに近付くのはノレッタや他の侍女です。貴方はダメですからね?鑑賞やらおしゃべりなんかはここで十分でしょう?あ、これがいる時はもう一人侍女を増やしますから!」
ガチャン、ガチガチ…
金属が触れる音が幾つか続いた後、男も必要な事を言い終えた様で立ち上がる。
「わかりましたね?」
ちゃんと話す言葉は聞こえている。理解もした。マルクスに触れる事はできない事。猛獣か何かの様に離れて楽しめと言う…そして監視のおまけ付き…
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