36 / 135
37、家庭教師の練習 2
しおりを挟む
朝食後にヒュンダルンは城へと出仕する。それからウリートは軽く散歩をし、勉強、昼食、午睡にそしてまた勉強。アクロース侯爵家にいた頃とあまり変わらない生活が送れている様になってやっとこの状況のおかしさに気がつき始めた。
「マリエッテ…」
「はい、なんでございましょう。」
エーベ公爵家なのに当たり前のようにマリエッテもいてくれて…
「僕、いつまでここにいて良いのだろうか?」
ウリートは貴族と言えども他家の者だ。来訪当初は緊急性のある治療目的ということで周囲も納得するだろう。が、今は?ここで産まれたヒュンダルンの友人と言うこと以外にはエーベ公爵家に接点はない。長らくお世話になった身で今更こんな事を言っても遅いのではないかとも思うのだが、エーベ公爵家の使用人達が変に受け取ってはいないかとても心配になってきてしまう。
「その事でしたらヒュンダルン様の方にお聞きになった方がお早いと思いますよ?」
エーベ公爵家の使用人達には非常に好意的で親切にしてもらっている。それが表だけのものだとしても感謝しきれないほど良くしてもらった。だから変な噂を立てられるのも嫌だし、誤解はされたくはない。何しろ大切な友人ヒュンダルンの実家なのだから。
「ああ、言ってなかったな?」
ウリートは出仕帰りのヒュンダルンを出迎える。ヒュンダルンの髪は少しだけ乱れていて、今日の任務はそんなにも激務だったのか…疲れているだろうにこんな質問をして申し訳なくてウリートは小さくなる。
「ウリートが言っていただろう?自立したいと。」
「ええ、そうです。」
「だからこれもその一環のつもりだ。実家に帰っては社会も何もないだろう?ここならば療養もできるが実家ではない。少しだけ狭い社会だが公爵家でも学べるものもあるだろう。」
ヒュンダルンは社交界に出るのと同じくこのエーベ公爵家をも利用してよし、と言いたいらしい。
「そこまで、ご厄介になるのは…」
どうしても気が引けてしまう…
「俺がやりたくてやっているのだ、だから気にするな。ところでウリート先生?」
「せ、先生?」
「なんだ?違うのか?家庭教師になりたいんだろう?」
「え、えぇ…そうですけれど…僕はヒュンダルン様の家庭教師ではありませんよ?」
友人ですけど………
「どうかな?俺の知らない事をウリートは知っているかもしれん。」
「…?…何でしょうか?それは…」
「さてね?まずは食事だ。話は俺の部屋でいいか?」
「はい……?」
ヒュンダルンの希望で今日の晩餐はヒュンダルンの部屋となる。濃紺に統一された色彩の部屋、所々朱と金が差し色に使われた非常に落ち着いた部屋だった。甘くないシトラスの香りで胸がスッとする。
いつもと違う雰囲気になんだか落ち着かない気もするが、ヒュンダルンの笑顔は変わらずいつもの様に優しい。
「さて、ウリート。」
食後のお茶を片していたウリートを、ヒュンダルンは自分が座っているソファーから手招きをする。
「何でしょう?」
いつもの様に勉強の為の本を持ちウリートはヒュンダルンの隣に腰掛けた。先程ヒュンダルンは何かについて教えを請いたいと言う雰囲気であった。
「博識のウリートならばきっと知っているのだろうな?」
「はい、知っているものならばお教えできます。」
その為に勉強に励んできたのだから…でも何だか今日のヒュンダルンは少しだけ雰囲気が違う?優しい笑顔は変わらないのに、なんだろう……?
視線が逃げるなと言っているみたいに感じる…
「では聞こうか。ウリートは閨教育はできるか?」
「…………?」
はい…?一瞬聞き間違えかとも思った…
「分からなかったか?単刀直入に言えば子作りだ。」
「…………!?」
聞き違いではなかった。
「ね…や、教育?」
「何を驚いている?貴族の子息、子女に教育を施すんだ。当然それは避けられないだろう?」
「は…い………」
ウリートは徐々に顔が熱くなるのがわかる…
「知っている、事はあります……」
「ふむ。流石だな…!アクロース侯爵家は教育に手抜かりはないのだな。」
「…………いえ…直接、享受されたわけではありません…」
「教えてもらったのだろう?」
赤みを増していく頬を左右にフルフルと振ってウリートは否定を示す。
「身体の関係で、僕に子を残せる可能性はなかったのでしょうね。だから閨教育は受けてません。けれど、どんな事でも知ろうとしてましたから、アクロース侯爵家にあった指南書は読みました。」
だから、知識としては知っている。
「なるほど…だが、それでは不十分だ。貴族の子息、子女は結婚適齢期前には指南を受ける。これは確実に子孫を残す為の手引きで重要な勤めだからだ。」
「心得ております。」
「と、なるとだな…その指南役、指導役なんかを務める側に、ウリートがなると言う事だろう…?」
「……!?」
これには流石に驚きが隠せない。つい、手に持つ本をギュッと抱え込んでしまった。
「マリエッテ…」
「はい、なんでございましょう。」
エーベ公爵家なのに当たり前のようにマリエッテもいてくれて…
「僕、いつまでここにいて良いのだろうか?」
ウリートは貴族と言えども他家の者だ。来訪当初は緊急性のある治療目的ということで周囲も納得するだろう。が、今は?ここで産まれたヒュンダルンの友人と言うこと以外にはエーベ公爵家に接点はない。長らくお世話になった身で今更こんな事を言っても遅いのではないかとも思うのだが、エーベ公爵家の使用人達が変に受け取ってはいないかとても心配になってきてしまう。
「その事でしたらヒュンダルン様の方にお聞きになった方がお早いと思いますよ?」
エーベ公爵家の使用人達には非常に好意的で親切にしてもらっている。それが表だけのものだとしても感謝しきれないほど良くしてもらった。だから変な噂を立てられるのも嫌だし、誤解はされたくはない。何しろ大切な友人ヒュンダルンの実家なのだから。
「ああ、言ってなかったな?」
ウリートは出仕帰りのヒュンダルンを出迎える。ヒュンダルンの髪は少しだけ乱れていて、今日の任務はそんなにも激務だったのか…疲れているだろうにこんな質問をして申し訳なくてウリートは小さくなる。
「ウリートが言っていただろう?自立したいと。」
「ええ、そうです。」
「だからこれもその一環のつもりだ。実家に帰っては社会も何もないだろう?ここならば療養もできるが実家ではない。少しだけ狭い社会だが公爵家でも学べるものもあるだろう。」
ヒュンダルンは社交界に出るのと同じくこのエーベ公爵家をも利用してよし、と言いたいらしい。
「そこまで、ご厄介になるのは…」
どうしても気が引けてしまう…
「俺がやりたくてやっているのだ、だから気にするな。ところでウリート先生?」
「せ、先生?」
「なんだ?違うのか?家庭教師になりたいんだろう?」
「え、えぇ…そうですけれど…僕はヒュンダルン様の家庭教師ではありませんよ?」
友人ですけど………
「どうかな?俺の知らない事をウリートは知っているかもしれん。」
「…?…何でしょうか?それは…」
「さてね?まずは食事だ。話は俺の部屋でいいか?」
「はい……?」
ヒュンダルンの希望で今日の晩餐はヒュンダルンの部屋となる。濃紺に統一された色彩の部屋、所々朱と金が差し色に使われた非常に落ち着いた部屋だった。甘くないシトラスの香りで胸がスッとする。
いつもと違う雰囲気になんだか落ち着かない気もするが、ヒュンダルンの笑顔は変わらずいつもの様に優しい。
「さて、ウリート。」
食後のお茶を片していたウリートを、ヒュンダルンは自分が座っているソファーから手招きをする。
「何でしょう?」
いつもの様に勉強の為の本を持ちウリートはヒュンダルンの隣に腰掛けた。先程ヒュンダルンは何かについて教えを請いたいと言う雰囲気であった。
「博識のウリートならばきっと知っているのだろうな?」
「はい、知っているものならばお教えできます。」
その為に勉強に励んできたのだから…でも何だか今日のヒュンダルンは少しだけ雰囲気が違う?優しい笑顔は変わらないのに、なんだろう……?
視線が逃げるなと言っているみたいに感じる…
「では聞こうか。ウリートは閨教育はできるか?」
「…………?」
はい…?一瞬聞き間違えかとも思った…
「分からなかったか?単刀直入に言えば子作りだ。」
「…………!?」
聞き違いではなかった。
「ね…や、教育?」
「何を驚いている?貴族の子息、子女に教育を施すんだ。当然それは避けられないだろう?」
「は…い………」
ウリートは徐々に顔が熱くなるのがわかる…
「知っている、事はあります……」
「ふむ。流石だな…!アクロース侯爵家は教育に手抜かりはないのだな。」
「…………いえ…直接、享受されたわけではありません…」
「教えてもらったのだろう?」
赤みを増していく頬を左右にフルフルと振ってウリートは否定を示す。
「身体の関係で、僕に子を残せる可能性はなかったのでしょうね。だから閨教育は受けてません。けれど、どんな事でも知ろうとしてましたから、アクロース侯爵家にあった指南書は読みました。」
だから、知識としては知っている。
「なるほど…だが、それでは不十分だ。貴族の子息、子女は結婚適齢期前には指南を受ける。これは確実に子孫を残す為の手引きで重要な勤めだからだ。」
「心得ております。」
「と、なるとだな…その指南役、指導役なんかを務める側に、ウリートがなると言う事だろう…?」
「……!?」
これには流石に驚きが隠せない。つい、手に持つ本をギュッと抱え込んでしまった。
1,944
あなたにおすすめの小説
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる