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66、自分の気持ち 2
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「知恵熱です。」
久しぶりに熱を出したウリートの看病の為にヒュンダルン以下エーベ公爵邸の人々は一時慌ただしくなった。だが、医官の見立ては知恵熱。精神的な疲労が熱の原因だろうという事だった。
エーベ公爵夫妻がこの本邸に滞在しているのにも拘らず、ウリートの体調面を気遣い未だに挨拶もろくにできず、ヒュンダルンの命令でウリートはまたしばらく公爵邸から外に出られない状況になりそうである。
この知恵熱にはウリートとマリエッテには心当たりがあり過ぎて、この公爵邸の騒ぎが心苦しい……
ヒュンダルンは毎夜ウリートの部屋に泊まり込んでいる様なものだし、それを知ったエーベ公爵夫妻はウリート専属のマリエッテに生暖かい労いの言葉をかけてくるし、嬉しい事ではあるのだがいい加減、居た堪れなくなってきた。
「ウリート、まだ目を開けられないほど辛いのか?」
毎朝、毎昼、毎夕、毎夜…一体ヒュンダルン様はいつ仕事をしているのだろう…?
騎士団の書類は全てエーベ公爵邸に運んでもらっている様でここで片付けているし、騎士団の訓練にはリード・サラント副騎士団長がいる。ので、有事でもない限り登城しなくても済んでしまっているらしい……
熱は、下がって来ているのだが、ヒュンダルンが近づいてくると、ウリートは条件反射の様に赤面してしまう。そして、顔が見れない……
今まで散々色々な事を致してきた筈なのに、見れない………
「ウリート辛いのか?」
毎夜額に当てられるヒュンダルンの手は気持ちが良くて、見つめ返せないけれども離さないで欲しいと我儘な欲求が出てきてなんとも言い難い……
「いえ…大丈夫ですから…」
「だが、起きられないくらいなのだろう?」
そっと髪を撫でてくる大きな暖かい手が、ヒュンダルンがどれほど心配しているのかをウリートに告げる。
優しい、優しいヒュンダルン様…王太子に赤獅子などと言われていたけれど、時々困った事をしてくるけれど、いつも寄り添おうとしてくれる、優しさの塊みたいな方…
「好きだなぁ……」
ポツリと、心の奥底に溜まっていた暖かいものがついに溢れて口から出てきてしまった。
「ん?何が好きなんだ?何が欲しい?」
低く響く声が、心地良い……
「ヒュンダルン様です……」
「ウリート?」
掛け物で顔を隠してしまっているので、ここしばらく真面にウリートの顔を見ていない。額に触ればまだ熱い様な気がして、なかなか熱が下がらない事に気を揉んでいた。
それなのに今夜のウリートは、少しだけ掛け物から顔を出し、深い青の瞳を熱を孕んだ様に潤ませて、ヒュンダルンを見つめてくる。
「ヒュンダルン様が、好きです…僕、ごめんなさい…貴方のご婚約を、喜んであげられません…」
今にも溢れそうなほど瞳に涙を溜めて、ウリートは精一杯の告白をした。もうきっとこれ以上の告白なんてできないし、もう一生他の誰にもするつもりもない。一度言葉に出してしまうと、これ以上何も要らないくらいに、ヒュンダルンで一杯だった…
もう、ヒュンダルン様以外、きっと好きになれない……
「ごめ、んなさい………友人、と言ったのに…嘘を、つきました…」
ヒュンダルン様は、嘘吐きは嫌いだろうか……軽蔑されるだろうか?
ウリートの中では時が止まってしまったかの様にも感じるこの時間…ヒュンダルンが許してくれるのか、何を言うのか検討もつかなかった、一瞬の時……ウリートのベッドから離れてドア側に控えていたマリエッテは、高速で2回程ガッツポーズを取っていた。ただ、シュッシュッと言う軽い衣擦れの音しかしなかったので、きっと誰にもわからなかっただろうけども…
「ウリート…顔を見せてくれ………」
「嫌です…見せたくありません…」
「前に、隠し事は無し、と言わなかったか?」
言われた様な…?言われなかった様な…
「ウリート…俺も顔を見て言いたい。顔を見せて…」
モソモソ、ゆっくりとウリートが掛け物を下げる。案の定顔中真っ赤に火照ったまま、瞳に涙を溜めて視線を外したウリートが出てくる。
「素直だな……」
クスリ…とヒュンダルンは低く笑って、火照った頬にそっと両手を当てて来た。
大きくて、暖かくて、ウリートが大好きな優しい手………
勇気を出してそっと視線を動かせば、これ以上ないと言うほどに真剣な色を湛えた深緑の瞳とぶつかった…
いつも、見ていたい……こっちを見ていて貰いたい……誰にも遠慮せずに、見つめる権利が欲しい……自分のものだって…
自覚をしたら恐ろしい位に、欲が頭をもたげて、暴れ回ってて…まだヒュンダルンの答えも考えも聞いてないのに、たまらなくなる…
「俺も、謝らなければいけない事がある。」
静かにゆっくりとヒュンダルンは語る。
「もう随分前から、俺はウリートを友人とは見ていない。共に生きる伴侶でありたいと思っている…受けてくれるだろうか?」
久しぶりに熱を出したウリートの看病の為にヒュンダルン以下エーベ公爵邸の人々は一時慌ただしくなった。だが、医官の見立ては知恵熱。精神的な疲労が熱の原因だろうという事だった。
エーベ公爵夫妻がこの本邸に滞在しているのにも拘らず、ウリートの体調面を気遣い未だに挨拶もろくにできず、ヒュンダルンの命令でウリートはまたしばらく公爵邸から外に出られない状況になりそうである。
この知恵熱にはウリートとマリエッテには心当たりがあり過ぎて、この公爵邸の騒ぎが心苦しい……
ヒュンダルンは毎夜ウリートの部屋に泊まり込んでいる様なものだし、それを知ったエーベ公爵夫妻はウリート専属のマリエッテに生暖かい労いの言葉をかけてくるし、嬉しい事ではあるのだがいい加減、居た堪れなくなってきた。
「ウリート、まだ目を開けられないほど辛いのか?」
毎朝、毎昼、毎夕、毎夜…一体ヒュンダルン様はいつ仕事をしているのだろう…?
騎士団の書類は全てエーベ公爵邸に運んでもらっている様でここで片付けているし、騎士団の訓練にはリード・サラント副騎士団長がいる。ので、有事でもない限り登城しなくても済んでしまっているらしい……
熱は、下がって来ているのだが、ヒュンダルンが近づいてくると、ウリートは条件反射の様に赤面してしまう。そして、顔が見れない……
今まで散々色々な事を致してきた筈なのに、見れない………
「ウリート辛いのか?」
毎夜額に当てられるヒュンダルンの手は気持ちが良くて、見つめ返せないけれども離さないで欲しいと我儘な欲求が出てきてなんとも言い難い……
「いえ…大丈夫ですから…」
「だが、起きられないくらいなのだろう?」
そっと髪を撫でてくる大きな暖かい手が、ヒュンダルンがどれほど心配しているのかをウリートに告げる。
優しい、優しいヒュンダルン様…王太子に赤獅子などと言われていたけれど、時々困った事をしてくるけれど、いつも寄り添おうとしてくれる、優しさの塊みたいな方…
「好きだなぁ……」
ポツリと、心の奥底に溜まっていた暖かいものがついに溢れて口から出てきてしまった。
「ん?何が好きなんだ?何が欲しい?」
低く響く声が、心地良い……
「ヒュンダルン様です……」
「ウリート?」
掛け物で顔を隠してしまっているので、ここしばらく真面にウリートの顔を見ていない。額に触ればまだ熱い様な気がして、なかなか熱が下がらない事に気を揉んでいた。
それなのに今夜のウリートは、少しだけ掛け物から顔を出し、深い青の瞳を熱を孕んだ様に潤ませて、ヒュンダルンを見つめてくる。
「ヒュンダルン様が、好きです…僕、ごめんなさい…貴方のご婚約を、喜んであげられません…」
今にも溢れそうなほど瞳に涙を溜めて、ウリートは精一杯の告白をした。もうきっとこれ以上の告白なんてできないし、もう一生他の誰にもするつもりもない。一度言葉に出してしまうと、これ以上何も要らないくらいに、ヒュンダルンで一杯だった…
もう、ヒュンダルン様以外、きっと好きになれない……
「ごめ、んなさい………友人、と言ったのに…嘘を、つきました…」
ヒュンダルン様は、嘘吐きは嫌いだろうか……軽蔑されるだろうか?
ウリートの中では時が止まってしまったかの様にも感じるこの時間…ヒュンダルンが許してくれるのか、何を言うのか検討もつかなかった、一瞬の時……ウリートのベッドから離れてドア側に控えていたマリエッテは、高速で2回程ガッツポーズを取っていた。ただ、シュッシュッと言う軽い衣擦れの音しかしなかったので、きっと誰にもわからなかっただろうけども…
「ウリート…顔を見せてくれ………」
「嫌です…見せたくありません…」
「前に、隠し事は無し、と言わなかったか?」
言われた様な…?言われなかった様な…
「ウリート…俺も顔を見て言いたい。顔を見せて…」
モソモソ、ゆっくりとウリートが掛け物を下げる。案の定顔中真っ赤に火照ったまま、瞳に涙を溜めて視線を外したウリートが出てくる。
「素直だな……」
クスリ…とヒュンダルンは低く笑って、火照った頬にそっと両手を当てて来た。
大きくて、暖かくて、ウリートが大好きな優しい手………
勇気を出してそっと視線を動かせば、これ以上ないと言うほどに真剣な色を湛えた深緑の瞳とぶつかった…
いつも、見ていたい……こっちを見ていて貰いたい……誰にも遠慮せずに、見つめる権利が欲しい……自分のものだって…
自覚をしたら恐ろしい位に、欲が頭をもたげて、暴れ回ってて…まだヒュンダルンの答えも考えも聞いてないのに、たまらなくなる…
「俺も、謝らなければいけない事がある。」
静かにゆっくりとヒュンダルンは語る。
「もう随分前から、俺はウリートを友人とは見ていない。共に生きる伴侶でありたいと思っている…受けてくれるだろうか?」
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