[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

文字の大きさ
115 / 135

116、ゴーリッシュ侯爵領 3

しおりを挟む
 ゴーリッシュ侯爵領は、何というか、領民がというか、領民も、というかかなりエネルギッシュな気質を持つものだと思わさざるをえない………





 すっかりとヒュンダルンの逞しい肩に身を預けて深い眠りについていたウリートではあるが、時折聞こえてくる外の喧騒で目が覚める。

「なに……?」

 屋敷にいては聞くことのできない大勢の人々の声…叫び声?……争う声……?…喧嘩…?叫び声は叫び声でも争う声ではなさそう…?

「起きたか?」

 低いヒュンダルンの優しい声が直ぐ横で聞こえて来てウリートはホッと息をつく。

「ヒュン…この騒ぎは?」

「ん?」

 かなりの喧騒なのにヒュンダルンは全くと言って良いほど気にしていないらしい。それよりも、ウリートが寒くない様にと肩に掛け物をかけ直している。

「ああ、領民達が騒いでいるのだ。」

「騒いでいる?」

 何か問題でも?

 状況がわからないウリートは短いヒュンダルンの説明に納得はできなかった様だ。

「ご安心くださいませウリート様。外にいる人々は若様とウリート様のお迎えをしているのです。」

 寝起きのウリートの為に休憩地で仕入れて置いた新鮮な果物を差し出しながらマリエッテが説明を付け加えてくれた。

「そうだ。ここの連中はお祭り騒ぎが好きでな…静かに帰って来たかったんだが、見つかってしまったな…」

 やれやれと顔を顰めるヒュンダルンではあるが、領主となる身であるならばここに集まっている民は護るべき民で……

「良いのですか?あの歓声に答えてなくて?」

 喧嘩の様な喧騒にも聞こえている外の声が、歓声なのかどうかいまいちウリートには自信がないのだが、次期領主としたならば顔くらいは見せてやるものでは?

「ああ、やめておいた方がいいぞウリー。奴らつけあがるからな。俺が顔を出したらここぞとばかりに腕に自信がある者が襲いかかってこんとも限らない。」

「……え………?」

 領地民が領主それも次期領主に襲いかかることなんてあって良い事?そんな事をしたら不敬罪か何かで………

「フ…違うよウリー…」

 ククク……

 寝起きで寝ぼけた顔が驚きでなお呆けている…そんなウリートの表情が面白かったのか、ヒュンダルンは肩を震わせながら笑いを堪える。

「ここの者達は、腕に自信を持つものが多い。」

「ウリート様もお聴きになったことがございましょう?ゴーリッシュ領からの騎士の出が多いと。」

「うん…」

 ゴーリッシュ侯爵領は優秀な騎士を多く出す領地で有名だ。国境の肥沃なゴーリッシュ領は他国からの略奪者が領民と争おうする事も多く、領民の若者達は王国や領地の騎士に立候補しこの地を守ろうとする者が多いのだそう。
 日々研鑽を怠る事なからず、がこの地の教育の基礎でもある。これのためか上を目指そうとする向上心ある若者が多く、名のある騎士と聞くや飛び掛からん勢いで手合わせを求めてくる。そしてヒュンダルンはオークツ国でも最強と謳われる第一騎士団の団長を務めているのだ。合間みえられる機会があるのならば我先にと手合わせをという突撃を仕掛けられることくらい火を見るよりは明らかだ。

「……愛されて、おいでですね?」

 何というか、他にピッタリな言葉が見つからない。身分の差を物ともせずに貴族に、そして領主と嬉々として渡り合おうとする領民達からは、これでもかと慕われているのだろうヒュンダルンの姿が浮かんできてはウリートの心を擽る。領民に慕われる頼もしい次期領主が自分の伴侶なのだから自分の事の様に嬉しくも感じる。

「…だからウリー?俺を甘やかすなと言っているだろう?俺の有り様を全て受け止めて認めてしまったら、俺は国1番の勝手気ままなお気軽亭主になってしまう…」

 呆れてた様な、けれども優しさ満載の笑顔をウリートに向けて、ヒュンダルンはウリートに小さく呟く。

「良いですよ?」

 ニッコリとウリートは満足そうに微笑んで満面の笑顔を向けてきた。

「……ウリー…」

「僕はヒュンがヒュンであればいいんです。お心のままにいてください。」

 どんな時でも、ヒュンの思うままに…

「……ここが……馬車じゃなかったらな………」

「ヒュン、何です?」

 口元を押さえてボソリと呟いたヒュンダルンが何と言ったのか聞き返そうとしたのだが、グイッと引き寄せられてウリートはそれもできなくなる。スッポリとヒュンダルンの腕の中に包まれてその熱と香りに満たされれば、これ以上無い安心感とフワフワ高揚してくる気持ちでウリートは一杯になってしまう。

 ニコニコ、ニコニコ言葉は無いけれども笑顔を絶やさないマリエッテに見守られ、領民の歓声を浴びつつゴーリッシュ侯爵邸へと馬車は進んでいった。



 





















しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...