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1 兆し

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"あなたに、とっておきのプレゼントを用意して行くわ…大好きな、ラン……"

大切で大好きだったマリー、僕のマリー……
彼女はそう言って笑顔でこの世を去っていった…
また会えるけど、それはもう彼女じゃない。

君と同じ色でも、君の記憶はない…
僕が好きになった、君達じゃ無い…

だから、僕も眠ることにした。

もう二度と大切な者達を無くす悲しみに、心を痛めたく無かったから…

大切な思い出はここにある。
沢山沢山ここにあるから。

 
やっと孵化した若き龍は自分の心を守るために、自ら再び殻に閉じこもる。
その卵を護るのは、宙に舞う無数の蝶達。蝶の谷と呼ばれた深い深い森のその奥で……






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「まあ!!!何と言うことでしょう!!」

 緊迫していた室内がざわめき立ち、医師や立ち会う者達の目は驚きに見開かれる。

今正に新しい一つの命が産まれようとしている瞬間だった。子供を産み出そうと最後の力を振り絞る母の胎の上にキラキラと眩しく輝く物が舞い降り吸い込まれていく…その瞬間子供は産まれ、産声を上げた。

 産まれた男の子の瞳は、その眩く虹色に輝く光を灯していた。母の胎にひらひらと蝶の様に舞い降りた、あの不思議な輝きと同じ色で………




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  呪われた王子
  精霊の愛子いとしご

 幼い頃から幾度となく言われきた。誰が言い出したかなんて今はもう覚えていないほどに。それは時と場合により呼ばれる名が変わってくるので滑稽だった。現に今は"呪われた王子"の名の方が国中に知れ渡っているからだ。

 この国、サクシュール国第一王子レギル・サクシュールには幼い頃からの確執がいつも付いて回った。それは出産の折、母の胎に何某かのを受けた事から起因している。口さがない者達からは何をするにもこれを持ち出され批判される。成功を収めた時もなのだから失敗した時など特に酷い言われ様で、幼いながらに何度も傷付いては諦めることを覚えて成長してきた。
 しかしレギル王子が言われっぱなしでは酌に触ると文武両道を心がけて努力を惜しまず、立派な後継者となってもなおこの評価は付いて回り、そしてここ数年この悪名は益々大きく広がりつつあるのだ。

 サクシュール国は山も海も有し国土もそこそこに広い国だ。しかしここ数年の悪天候と天災に見舞われ、山は枯れ地は腐り、国中で疫病が流行ると言う何とも目も当てられない様なあり様で、他国には避けて通らなければいけない国として知れ渡っている。  
 それもみんな、この第一王子レギルが産まれてから立て続けに起こった前代未聞な変動故に、呪われた王子の名が信憑性を増してしまっているのだ。

 だが、出産時その場にいた者や母・王妃は違っていた。
 出産の折、降り注いだ光は清く輝き、胎に宿った際には暖かさと慈愛とに満ち、母である王妃を力付けたと証言しているのである。決して禍々しい呪いの類ではないと。

 レギル王子が真っ直ぐに健やかに育ったのも、この母や直近の側仕えが王子を支えていたからに他ならなかっただろう。しかして王子は国を窮地から救うべく、昼夜を問わず尽力する。

 レギル王子は国中の持てる限りの人材、人脈、財力、魔術に妖術、使える物は全て使ってこの窮状の原因を探った。

「王子!!王子!ダメです…レガナ山頂の水脈も水が腐り、枯れる一方で………」

「川や井戸はどうか?」

「はい、井戸にはまだ影響は出ていませんが、山頂があれですと川にも数日で影響が出ましょう。」

「……そうか…あと、数日…」

 東の山脈の水脈も枯死寸前……既に西の山脈の水源は断たれて、山が死に始めている……

「王子、西領の井戸もそう長くは……」

 報告する方の官僚の表情も実に苦しそうだ。
 サクシュールには東と西に山脈を抱えており、豊かな水源がある美しい山々として周辺国にも名を轟かせていた。が、ここ数年の間に西領域の洪水量が減った…減ったと言うより急激に激減した。かつて見ない程の干魃にあっという間に水源が腐り枯れ始めてしまう。幾度となく現地を見、対策を試したがどれもうまくいかず、出来る事と言えば水源が保たれている所からひたすら干魃地へ水を輸送するくらいの事だった。その水も東の山脈の水脈から補充している。その東の水脈も枯れだしたとは……

「東はどれくらい降っていないのだ…」

「はい、今日で21日目になります……」

 もう直ぐ1ヶ月……そしてその後は徐々に枯れて行くだけだ…  

「魔術も、妖術も、怪しげな雨乞いまでどれも効きませぬ…!」

 当初は否定的な雨乞いにまで、国の高官達は手を出した…それだけ自体は逼迫している証拠だ……

「……はぁ、大臣騒ぐな。まだ手はある。友好国には兼ねてより窮状を伝えてある。我が国の知識とを引き換えに毎月水の供給を約束してくれている。」

「それは、存じております王子。しかし、それは民の物。家畜や作物の分にまで回りませぬ!」

「……カリス……それも十分に分かっている。」

 民の喉を潤せても、広大な畑地の作物や、民の足と又糧となる家畜にまでは回せないだろう………民を生かせても、甚大な被害が出ると予想できる。そして、問題はこれだけでは無い。

「王子…また、範囲が広がりました……」

 疫病だ………
 一つでも出ると、あっという間に広がって村や町を壊滅状態にまで追い込むこともある…それがサクシュールの国のあちこちで報告されている。

「……そうか……」
 
 レギル王子は重く息を吐く。

「医師は足りているか?薬剤は?薬草も輸入は出来るのだ。それを取り扱える者の感染を回避しろ!何としてもこれ以上の蔓延を防止する!!」
 
 言い終えたレギル王子は踵を返してその場を後にする。

「王子!どちらへ?」

「シュルツェインに会う……」

「!?…どうか、願いが叶います様に!!」
 
 大臣たちの礼に片手を振って答え、レギル王子はこの場を後にした。
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