[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

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2 塔の精霊

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 コツコツコツ…高い塔に靴の音が高く低く響いていく。城内の端の端、一塔高く高くそびえ立っている塔がある。
 
 風の塔。建国間際の王様が世にいる精霊と契約を結んだために建てられたとか…この塔に住むのは風の精霊シェルツェイン…レギル王子が会おうとしている精霊だ。

 風の塔は高くそびえ立ち、頂上に出るといくつかの支柱に支えられた雨除けにもならぬ天蓋が今も強風に煽られはためいている。ここは上空の風を大いに受け、全世界の風とつながる場所で、風を統べるのお気に入りの場所だ。

「シェルツェイン!!シェル!!」

 精霊を愛称で呼ぶ事を許されている者は多くは無い。カシュクール国王族で次期継承者であるレギル王子だから許されている。

"ここよ…レギル…"

 不思議な声…肉声ではない声だがいつ聞いても耳に心地いい。

「話せるか?」

"ええ…いいわ…今戻るから…"

 レギル王子の前に小さな竜巻が現れる…ギュウッと凝縮していくその中に、一人の女性の形を取った精霊シェルツェインが現れた。

精霊語で話しましょう"

 肉体を持っていないシェルツェインには人の言葉は難しい。

"分かった、呼び立ててすまない"

"いいの。何かあった?……あぁ、あれね?"

 風はどこまでも制約がない。国境も言葉の区別も彼等には関係ないものだ。シェルツェインも世界を渡り歩き、カシュクールの現場も理解しているのだろう。シェルツェインはカシュクール国の情報網であり、精霊についてレギル王子に手解きをする良い教師だ。

"現状を回復したい、出来たら全ての解決を"
 しばしの間………目を瞑ったような彼女の所作は何かを考えあぐねている様に見える。
精霊は人間にはほとんど干渉してこない。地上に何が起ころうとも、自分達が守るべき領域を侵されない限り他者に干渉もして来ないのが通常だ。

"ギル………"

 静かにシェルツェインの瞳が開く。彼女の一つ一つの動作にも音はない…

"……それは、無理ね…"

 キッパリと、何の感慨もなくシェルツェインは言い切った。

"無理?何故に?解決策は無いのか!!"

 レギル王子は焦っていた。いかに自分に憎まれ口を囁く様な国民でも、幼い子供達や弱い者たちがボロボロと犠牲になって行くのは見ていられなかった。解決策の糸口でも、と思いここまで来たのだ。

"落ち着きなさい。ギル。焦りは全てを狂わせるわ。無理なのは、私がするという事が無理なの。"

"シェルでも干渉できないのか?"

 レギル王子はしばし茫然とする。何にも縛られる事がない精霊が?

"ギル…何事も理があるの…良く話し聞かせていたでしょう?私達を縛る物もあるのよ。"

"シェル?何と契約をしているんだ?"

 精霊の契約。精霊自身が結んだものに精霊は縛られる。ここカシュクールにシェルツェインが止まっているのも過去の契約故にだ。
そして、契約内容は契約者のみと共有するもの。他者の介入を許さない。それをシェルツェインから学んできたにもかかわらず、思わず、レギル王子は聞いてしまう。これに答えるのも契約に反することになるのにだ……

"……………龍とよ……"

 シェルツェインの言葉にレギル王子が驚愕し、目を開く…瞬間、シェルツェインの体が音も無く歪み始める…

"シェル!!"

"……理は私達の存在を縛るものよ。ギル、覚えておいて…"

"だが、龍など…!最早既にいない種族では無いのか?"

 過去数百年龍の目撃情報は無い。最早御伽噺の架空の生物になっている。

"知性も…力も無い龍は確かにほぼ滅び去ったわね…でも、古の龍達はまだ息づいているわ…"

"龍等どこに……"

 この地に干渉している龍を探し出し干渉を解いてもらう…これがシェルツェインの出した解決案…

"私の消滅が見たいのなら、この先を話すけど?"

 竜巻が乱れ、シェルツェインの体が歪む…

"シェル!!そんな事、望むものか!"

"ギル…私の可愛い子…貴方なら龍を見つけることが出来るはず…精霊の愛子の貴方なら…
貴方のその目…確かに龍をものよ…"

 言い終わると、パッとシェルツェインの姿は消えた。

「シェル!!!」

"大丈夫…姿が保てなくなっただけ…これ位では消滅しない…"

 レギル王子はシェルツェインの返答に大きく安堵した。シェルツェインは幼き頃からのレギル王子の良き理解者の一人で、精霊語の教師…世界の理に至るまでレギル王子の見聞を大きく広げてくれた存在でレギル王子にとっては大切な人の中の一人だった。

「シェル!!感謝する!!」

"精霊の愛子…私は約束を守ったわ…"

 シェルツェインはそう言い置いて、その場を去った…




「何と!龍ですと?」

「そうだカリス。シェルツェインははっきりとそう言っていた……」

「しかし、目撃証言など……」

 そう、無い。今、この時代に竜を見て生き残っている者が居ない…御伽噺か夢を追っていく様な物。国の崩壊は刻一刻と迫っているこの時にそんな眉唾な物に縋るべきかどうか………

 大臣達は揃いも揃って頭を抱え込んだ。
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