[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

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3 北へ向かって

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「龍に関する書物の全てを古書、禁書に関わらず全て集めよ。」

 官僚が一度に会する大会議室に、城にある龍という言葉が入っている書物の全てが集められた。非常に価値の高い古書から王の許可を必要とする禁書に至るまで余すところなくレギル王子が指示した通りの物が所狭しとテーブルに並べられた。

「さて、手掛かりはここにあるのみ…他国の物を含めれば更に増えるだろうが、今は時間が惜しい。」

「左様です。友好国に使者を立てました。他国にある情報はいずれこちらに届きましょう…」

「ふむ。苦労をかけるが、もう暫く付き合ってくれ…」
 
 タイムリミットは近付いている。ここで何も得ることができなければ、ゆっくりと滅びていく自国の様を見届けるしか無くなるのだから。この会議室に集まった大臣、官僚は、レギル王子が幼い頃から側で支え後継者となる王子へ協力を惜しまなかった忠臣達だ。

 なにを言われても、どの様な状況でも最後まで諦めようとしないレギル王子の姿勢に甚く共感しここに居てくれている。

「私の最後の我儘だ…皆には心から感謝する。」

 レギル王子は一冊の本を手に取りパラパラと捲りながら感謝の言葉を口にした。

「何を仰います…王子。それに、まだ時間は残されております。貴方様があきらめぬ限りは…!」

「…そうだな。では、手分けして龍の住う住処を探ろう!」

「はい!」

 それぞれ、別れて本を手にし黙々と作業に取り掛かった。

「まぁ、凄いことになっているのね?」

 しんと静まり返った会議室に本を捲る音だけが響いてどれくらい経っただろうか?

 品の良いドレスを纏った貴婦人を始め数人の供を連れた一行が会議室に入って来た。

「母上!」

「王妃!この様な場所に…御自ら……」

「良いのです。作業はお続けなさい…暫くぶりに…会えなかった息子の顔を見に来ただけですから…レギル……少し、痩せたのではなくて?」

 王妃はそっとレギル王子の頬に手を添えた。

「母上こそ…!…少し、おやつれになられましたね……それに…」

 相次ぐ天災に見舞われてこの数年不作続きだ。いくら王族と言っても贅沢は出来ない状況で、食べられる量も限られてくる。溢れるばかりの食べ物があるのなら、市中の民に回したいのだ。そして、レギル王子は母の姿にまた胸を痛める…今回の窮状を打開すべくただ睡眠を取るためだけにしか自室に戻らなくなったレギル王子は、両親である王、王妃ともに暫く顔を合わせてもいなかった。その母の姿を見るたび会うたびに身に付ける宝飾品が減っている…今日など一つも宝石類をつけてはいない…
 視線だけ首元に落とすレギル王子の視線に気がついたのか、王妃はふんわりと笑うのだった。

「ふふ。宝石一つでいくつかの村の家畜を数ヶ月養えるのですってね?もう少し早く知っていればもっと早く処分していたのに…」

「………」

 王妃はレギル王子とよく似ていた。
綺麗にアップにしてスッキリとまとめ上げている髪は焦茶よりもやや明るい色。着ているドレスは上質の物だが、無駄な飾りは一切なく、先ほどの通り宝飾品も身に付けてはいない。ハニーゴールドの瞳はいつも優しさに満ちていた。愛しそうに、短めに揃えてあるレギル王子の焦茶の髪を何度も優しく撫でていた。見つめられているレギル王子の瞳の色だけは両親と違う。産まれた瞬間に祝福をもらったレギル王子の瞳は輝く虹色で、今日も不思議な色を心配気な瞳に湛えていた。

「レギル…無理はいけませんよ?ちゃんと食べて…眠らなくては……お父様の様に…」

 父王は今病床で療養中。数年にも渡るこの天災に対し休まず公務を続けた結果倒れてしまったのだ。

「分かっています…私はまだ大丈夫ですよ。気遣ってくれる家臣にも恵まれていますし…」

「そう。なら良いのです。ところで、これらは一体何をしていたのです?」

 王妃は広い会議室を見渡して首を傾げる。

「はい。手掛かりを探し出しているところでした。」

 王妃は一冊の本を取る。

「龍……?」

「そうです。シェルツェインから龍を探せ、と。」

「……精霊が……龍を………」
 
「母上……?」

 手を口元に当てて考え込んでしまった王妃に何事かとレギル王子は母を覗き込む。

「……北です……レギル。北へお行きなさい!」

「母上?!」

 顔を上げた王妃の瞳の光は確信ある力強いものだった。

「何故に?」

「…貴方が産まれた時、光が舞い降りた…私の胎に入った瞬間、"探し物は北にある"と声がしたの…シェルツェインが何かを伝えようとしたのかとも思ったのだけど、声が違ったわ……けれど、確かに精霊語でそう言われたわ。」

 カシュクール国の王族は皆精霊後を話すことが出来るくらい精霊との関係は深い。お産中の大事な時でも王妃が聞き間違うことは無いだろう。

「北…へ?」

「はて、そのまま北上しますと、数国挟んで迷い森にぶつかりますな……」
 
 官僚の一人が言う。瞬時その場にいる皆の顔色が変わった。カシュクール国の北には大国、小国合わせて数国あり、友好国もあれば迷い森と言われている様な人を寄せ付けない未開地もある。未開地…人が入らず開拓されていない地だが、資源なく人が入らないわけでは無い。中には人を寄せ付けない様な意思が働いているとしか思えない様な現象がおこる地もある。なので踏み込んでいけない所が多いのだ。その中でも迷い森は悪評高い地の一つで入った者は必ず呪われ、彷徨い、出てからも自分が何者なのか分からなくなるくらいに混乱する者が多いと言う謂く付きの森。

「…迷い森……」

「レギル…何を恐れるのです?貴方は精霊の愛子…祝福を貰ったのも何かの縁でしょう…迷い森や未開の地が精霊に守られている地ならば、きっと貴方には何か分かるはず…シェルツェインは貴方ならば龍を見つけられると確信しているのでしょう…精霊は嘘は言わないわ…」
 
「母上……」 

 流石に呪われた王子を産んだと非難する者達からの風当たりを強く受けて来たのを耐えて今日まで立派に王妃を勤め上げて来ただけはある人だ。しっかりと現実を見る力も、覚悟を決める意思もまだまだこの母の足元にも及ばないとレギル王子は思った。

「お言葉通りに……私もしっかりとこの目で現地を見て参りましょう。」

 もう、それしか道はないのだから…
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