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7 迷い森

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 各々馬を引き、一歩門へ踏み込む。先頭はレギル王子だ。次にマラール、コアット、しんがりにヨシットという順に門に入っていく…側から見たらそれはそれは異様な光景だろう。馬を率いる身なりの良い男達が、石の壁に吸い込まれていく様に見えるのだから……そしてまたその姿は壁の向こうに見つけることができなかったから……

 門は不思議なものだった…開いた時には優しい光が満ちていた様な空間が目の前にある様に見えた。そのまま進めば石の壁のはずだったのだが、一歩踏み込んでも足は壁にあたらなかった。光を抜ければ目の前は鬱蒼とした森が迫っている。全員が門から出たところで森を見渡している間に門は消えてしまっていた。振り返れば国境の石壁が連なっていると思われていたのだが…?あの門は石をも通り抜けさせ、どこまでとも言えぬ距離をも詰めてしまう事ができる様だ。

「…消えた……」

 ヨシットの呟きが全員の気持ちを表している…今まで門があった場所は、レギル王子達が通って来ていない見た事もない風景を映し出す。

「一体どこまで移動して来たのやら…」

 コアットは地図を片手に首を傾げた。迷い森の正確な位置は隠されているために地図上には大まかにしか記されていない。国境を出て、どこを通ってここまで来たのか……不思議が尽きなかった。
 
 目指して来た迷い森…一見には人手が入っていない鬱蒼とした森にしか見えない。手入れもされず、道もなく、一体何処から入ろうか?切り口を見つけるため、しばし周囲を見渡していた。

 馬を引き、ゆっくり森へ近づくレギル王子一行に一陣の風が吹き付ける。

「っわっぷ…!」

 ザワザワと木々が揺れる…少し離れた上空からはゴゥッという風の音が聞こえて来た…

"愚かな人間……ここは、我らの地…人間は立ち去れ…"

 風に乗って微かだがしっかりとした発音の精霊語が聞こえて来た…

「成る程、確かに迷い森…精霊の守護する地でありましたか…!」

 風に煽られまいとして顔の前に手を出しながらマラールは言う…魔術士の端くれとして、マラールもそこそこ精霊語にも精通はしている。レギル王子が使った様な精霊魔法までは程遠いが…

「精霊ですって?マラール!何処です?」

 すっかり臨戦態勢のヨシットだ。腰の剣に手をかけて、いつ何時の奇襲にも備えようというもの。

「静かに!ヨシット!」

 レギル王子がヨシットを止める。

「大丈夫だ。ただ、人間に向かって警告をしている。立ち去れ、と。」

「ここで、立ち去って良いものなら是非とも立ち去りたい気分ではありましょうな。」

 マラールの言葉も最もだ。それが叶わないから皆ここにいる…

 精霊の言葉は自然界に満ちている。精霊と自然は一心同体だから。しかし、人にはその言葉を聞き取る事は難しい。今のも精霊語が分からない者達にとっては、ただの葉音や風音にしか聞こえない。

"驚かせてすまない。しかし、我らも避けて通れぬ事情がありここまで参った!出来る事なら其方達の知恵を借り、ここを通らせてもらいたい!"

 強風にも負けじと大きな声で、レギル王子は精霊に話しかける。

"精霊語……?"

"そうだ!私はカシュクール国第一王子レギル!精霊の導きによってここまで来た!どうしてもこの森に求めるものがある!"

 レギル王子は一歩一歩進みながら必死に精霊に語りかける。まだ姿を現さない、どこにいるかも分からない精霊に…

"なるほど…其方が……"

 声と共に、ザザザザ、ザザザと葉擦れの音が響き渡った。森から植物の蔓の様なものが無数に出てきてそれらは人の形を取った……

「おお!」

「……こ、これは!」

「!?」

 皆それぞれに感嘆の声をあげた。目で精霊を拝める時が来ようとは……!レギル王子以外に精霊を見ることが出来た者は、ここには居なかったからだ。人型が女性なのか男性なのか人間の目には性別は分からない。シェルツェインは女性型を取ってはいたが……

"其方が、愛子、か?"

 精霊はレギル王子に問う。

"そうも呼ばれている。貴方は?"

"私は、森の精霊モール……"

"!?…名を?私に明かしても良いのか?"

 精霊は自らの名をそうそう明かしたりはしない。人間の事を下に見ていると言うこともあるが、名を明かす事で自らを支配される事を恐れているからだ。だからレギル王子は驚いた……シェルツェインの他に精霊の伝は無いのに、精霊自らまさか名を明かして貰えるとは………

"愛子の事ならば知らない精霊はないだろう…どれ?やはりそうか、その輝きは間違い無いようだ。"

 輝きとは…レギル王子の瞳を覗き込む様にしてモールは肯く。

"モール殿!私達は龍を探してここまで来た!導きはこの森で止まっている……きっとこの森に求めるものがあるのだろう!探索する許可をもらいたい!"

"許可も何も……其方は自らここに来た…いつもなら、ここに来るまでもなく追い返している所だ。ここまで来れた者には入る権利はあるだろう"

"え?いいのか?"

 なんとも呆気なく許可が下りた……常であったらこのまでもたどり着かないのだとモールは言った。国境を越えて入ってくる者達はいるにはいるが、この森では無くここに来るまでに、精霊が仕掛けたトラップなるものがあるようで、それにほぼ屈してしまうらしい…実にここまで来れた人間は数百年ぶりと言うから驚きだった。
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