[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

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8 森の中

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"あれは、まだ龍がいた頃…"

 と精霊に取っては少し昔の、遠い遠い話を聞いた後にモールはスルッと森に入る事を許可してくれた。

「なんとも、呆気ないと言うか……」

 臨戦態勢に入っていたヨシットは気が抜けたような声を出す。

「何を言う…魔法も、精霊との契約も得られない我らには闘う術などなかったろうに…例え正面から向かって行っても勝ち目はなかろう。」

 マラール程の魔術士が本気を出せばまだ分からなくも無いが、精霊使いなど現世にはとうにいない。戦おうとすること自体が間違っている。無駄な犠牲が出なくて良かったと思う方が現実的だ。

 そしてこの森、当初道などなかった筈なのだが、モールからの許可が下りれば薄らとだが、道らしき道が見えている。森の中は人が通れる程の道しか開かれておらず、レギル王子達は馬を森の外に置いて行くことにする。モールが保護してくれるそうで、獣に襲われることは無いそうだ…

「王子?なぜ、迷い森の精霊はこんなにも協力的なのでしょう?」

 細い道を進みつつコアットは首を捻る。

「それは私にも分からない。愛子と言うだけしか彼らと接点は無いのだが……」

 ここに来たのは愛子たる云々を享受するためでは無くて、国を救う為の手立てとなるを探す為。道標がこの森を指しているのならこの森に龍はいる。どこまで続くと知らぬ道を四人はガサガサと進んでいく。

「あ!お待ち下さい王子!!」

 途中道端で何やら発見したのだろうか?コアットはその場でしゃがみ込み手には数枚の葉を持っていた。

「それは…?」

 覗き込んでみたものの、コアットが持っているのはただの葉にしか見えないものだ。

「なんと…!王子!これは貴重な薬草ですよ?どんな病気の熱冷ましにも使えるのです。えぇ、老若男女区別なく…!」

 レギル王子よりも五つばかり年上のコアットは若くして薬師と治療師の資格を得る程、勤勉で博識だった。普段は大人しそうな印象しか受けないが、珍しい貴重な薬草を見てかなりテンションが上がっている。
 
「そんなに珍しい物なのか?これが?」

「ええ!そうです!すでにカシュクールでは流行り出した熱病によって薬がたりない状態ですから…これだけあれば、どれだけの人々に行き渡るでしょうか…」

 そうなのだ。カシュクール国に広がりつつある疫病の為に、薬師も、治療士も、薬も足りていない……足りない物があるだけで取りこぼされて行く命がボロボロと出てきているのがカシュクール……それを不甲斐無し!と今までの日夜の努力も虚しく感じさせる程に打ちのめされているのが薬師に治療士……

"モール殿!!"

 レギル王子は森の精霊を呼ぶ。

"どうしたのだ…愛子よ?望みの者はまだ奥ぞ?"

 きっとそれは龍のことを言っているのだろう?龍は奥にいると……嘘をつかない精霊がそう言ったなら確かに望みは奥にある!しかし…その為にモールを呼んだのではなかった。

"貴方の森を煩わせて申し訳ないが、この森に生えている薬草を持ち帰ってもいいだろうか?"

"薬草……?あぁ。人間は脆弱であったな…その様な葉で良いのなら好きなだけ持ち帰るがいい…少し失われたとて、我らは気にせぬ。年月が経てば元に戻る。"

"かたじけない!!"

「コアット!必要な薬草はそれだけか?」

「え?確かにこのサマールと、慈養強壮に物凄く効くツヨナルは是非とも頂きたいですが、良いのですか?」

 サマールは解熱剤、国の中に蔓延している熱病の解熱に。ツヨナルは体力の落ちてしまった者達の体力増強と抵抗力を上げる為に感染防止に役立つとされている。この薬がカシュクール国では最早底をついてしまいそうなのだった。

「モール殿は好きなだけ持って行けと言ってくれた!今からでも間に合うか?」

「王子!!間に合いますとも!国を離れまだ数日です。急いでこれを持ち帰れば!ああ!!どれだけの人を助けられるでしょうね?」

 コアットの赤茶の瞳に一杯の涙が溜まっている。ここから国まで後何日かかるとかコアットの中ではもうどうでも良いことの様に喜んでいた。彼は本当に治療士としての誇りと情熱を持っているのだ。

「摘めるだけ摘もう。そして、お前は国へ帰るんだ!」

「!?…何を言われます!!」

 一瞬フリーズしたコアットが勢いよく王子へ向き直る。

「私は貴方様のサポート役でここにいます。何もせず、出来ずに国に帰るなど…」

 それこそ臣下の名が泣くと言うもの。

「コアット、よく聞け。国を守る事も今の私のサポートになる。何も心配せずに龍を追える………もし………」

「…王子…?」

 いつもハキハキとしている王子が言葉に詰まる。

「もし、私の命が代償と求められても、国が大丈夫と分かっていたら、安心して逝けるからな…」

 清々しいまでの笑顔でレギル王子は言う…

「…何を!」

 これには幼き頃から共に学んできたヨシットが声を上げる。

「王子!何を馬鹿なことを!!」

「……マラール先生…契約には代償が必要なのでしょう?」

 契約、自分とは違う者と約束事を結ぶ事だが、結ぶ種族や内容によっては代償が求められる事もある。相手が望むもの…時と場合によっては自分の命だ……

「……良く、勉強しておられた様ですな。王子。その通り…契約を結ぶのであれば代償は不可欠です。」

 カシュクール国は国を傾けるほどの災害に疫病。この一つをとっても王子の命一つくらい求められても安いくらいだろう……………

「は?なんだって!じゃあ、何か?俺は騎士として友であるレギルを守り、精霊だか、龍だかにお前を食わせてやれって言うのか!!!」

 ヨシットは騎士の仮面が取れるほどこの状況に憤慨した…

「ヨシット……」

「俺は、お前を守る!!その為にここに居るんだ!コアット先生が病人を守る様に、俺にも護る者がある!」

 騎士としての言い分は至極もっともだ。

「コアット、ヨシット、それに王子もですな…国を出る時には、最早帰れぬ覚悟もしてきたはず…違いますかな?」

 年長者マラールの言葉は、今深く突き刺さってくる。

「……約束、していただけますか?王子!絶対に、カシュクール国に帰還すると!」

 コアットは痛いほどレギル王子の気持ちが分かったのだろう。薬草を持つ手はブルブルと震え、感情を押し殺している様に見えた。
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