[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

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22 復興の兆し

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 雨が降った。カシュクールに…西の山脈メリル山においては半年以上も一滴の水も降らなかったのに…山の水源を並々と満たすほどの量の雨が降り続いた。同時に東のレガナ山でも降雨が確認された…

「おお!何という……何という……」

 その知らせを聞いた大臣達は朝から泣かん勢いで情況報告に走り回っている。メリル山からもレガナ山からも川の水量も増え、下流を満たしてきていると報告も入って来た。シトシトと降る雨を城内の窓から見つめつつ、ホッと安堵のため息をつくのは国王、王妃両陛下もだ。

「精霊の愛子……今度こそ、この名が国中で轟いて欲しいものだ。」

 大きめのベッドの上で背にクッションをたくさん当てて支えにして座り、王妃と共に窓を見ている王からも憂の色が消えている。色濃く出ていた疲れの色も薄くなりつつあってそれにも王妃は胸を撫で下ろした。

「シェルツェインから伝えられた龍に、あの子は会えたのでしょうか?」

「それは…本人のみぞ知る所だろう。レギルはその後どうだい?」
  
「ええ、旅先で魔力切れを起こし魔術士マーレンを冷や冷やさせたようですけど、帰国後の体調はまずまずとのことですわ。」

 蝶の谷で気を失ってしまったレギル王子であったが、モールの補助もあり無事にランダーン国境沿いにまでマーレンと共に戻ることが出来た。そこでやっと意識を取り戻した王子はマーレンの補助を受け、体調を整えながら国へと帰還した。蝶の谷で別れ、飛んで行ってしまった龍リレランの事をレギル王子はずっと気にかけている様子ではあったが、先ずは王子の身が第一とマーレンは帰国を決意した。レギル王子帰国と共にカシュクール国上空に雨雲が発生し、雨が降り出したのだ。
 王子が雨雲を連れてきた、とレギル王子の帰還を知る国境警備兵の間ではこの慶事に湧き上がってもいる。

「少しでも、あの子の支えが増えますように……」

 王妃は祈るように胸の前で手を組む。今まで何度祈ってきただろうか…幼いうちから周囲に辛辣な言葉も浴びせられたであろうに、王も王妃もレギル王子の前に立って常に庇えていたわけではない。グッと堪えて言い返さず悔しい思いもしてきた。当の本人はどれ程我慢して忍耐してきた事だろう。一国の王子でありながら辛い立場に立たせてしまう事への負い目が王妃には常にあった。

「王妃…苦労をかけて…すまない…」

 ここは、国王夫妻のプライベートルーム。無粋にも二人の会話を聞き耳立てて聞いている者はいない。素直に国王は王妃に頭を下げた。自分が守り幸せにしてやらなければならない相手に、自分と結婚したばかりに要らぬ苦労を強いてしまっているから。国王であっても負い目はある。

「まぁ、こんな事くらい苦労などとは思いませんわ。私には素晴らしい夫と可愛くて真っ直ぐに育ってくれた息子が与えられましたもの。だから、貴方も早くお元気になってくださらなければ嫌ですよ?まだまだこれからこの国はもっと豊になるのですから。ね?」

 今正に滅びようとしていた国だ。雨が降るだけでも復興の希望となる。雨が上がれば各地を視察し、各地の被害状況と疫病の正確な範囲を把握しなければならない。レギル王子達が迷い森から持って帰った物は雨雲だけでは無い。先に帰国したコアットとヨシットが迷い森で採ってきた薬草は疫病に非常に効力を示していると報告に上がっている。

 何に対して感謝をしたら良いのか…国王はしばし目を閉じる。カシュクールは滅びない……再生し、生き続けていける事へ最大限の感謝を捧げたかった。




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「種が!種が撒ける!!」

 雨が降れば大地が濡れ湿り固かった土も柔らかくなる。水が無く、雨も降らない所に種は撒けず、枯れ果てるだけだった畑地が潤い、蘇った。
 雨が上がれば待ってましたとばかりに、夜も明けぬ前から賑わいを見せ始めた農村。手に手に農機具と種を持ちそれぞれの畑に走る勢いで向かって行った。水も、食料もほぼ尽きかけてただ死を待つ者も多かった村にも一気に活気が戻ってきた。ぐったりとしていた老婆は起き出し、溜まり始めた井戸に水を汲みに行き、後を頼むと子供達に言い置いた老いた老夫は重い鍬を担いでいつもの朝のように黙々と畑に向かう。今すぐに食べれる物が取れるわけでは無いが、まだここで生きていけると言う希望は、絶望に打ちひしがれていた国民にとって何にも勝る力になったようだ。

「ほぁ~~大変だったようですなぁ…」

 国が落ち着いたと知るや他国との交流もまた盛り返してくるわけで、カシュクール国にも今まで避けられていた周辺国から商人が行商に来ていた。その目で見るまでは噂にしか聞いてはいなかったがやはり実際に目で見ると長らく続いた天変地異に疫病の爪痕は酷い物であったと偲ばれた。この町の人々がいくらか生きる希望に瞳を輝かせているのが救いだろうか。

「さ、お代はあとで結構!今必要なのは食料かね?まだまだ北の国から運んできますからね、先ずは食べ物の確保をしてくださいよ?」

 馴染みの農家や町の店に行商人は回って行く。そんな姿ややり取りが村や町の其処ここで見られるようになった。

「なぁ、もう大丈夫そうだな?」

 少し小高い丘の上からはヨシットが操る馬が辺りを行き来しながらウロウロとしている。その隣には馬の上に凛と騎乗しているレギル王子の姿が見える。ここにはレギル王子とヨシットの他、他の共の姿はない。だからだろうか?ヨシットは砕けた口調でレギル王子と言葉を交わす。

「あぁ…やっと天候も元に戻っただろうか?」

 見上げた空は本日は晴天。絶好の種まき日和だ…

「なぁ、ヨシット…」
 
「ん?」

「もう少し、貸しておいてくれないか?」

 これ、とは今レギル王子の胸にある迷い森で別れた時のヨシットの妹がヨシットに送ったネックレス…

「…あぁ、別に構わないが?そんなのどうするんだ?」

 スザンカとは幼い時の交流のみでそれ以降は会っていないはず。レギル王子がそんな妹の物を欲しがるとは…?まさか、密かに想いを寄せていたり…?いや、そんな事一言も今まで匂わせたこともないのに?兄であるヨシットの胸中はやや複雑…
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