[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

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24 父の思い

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「父上に、お話があります。」

 その日の夜、城に帰ってきたレギル王子は、就寝前の父の寝室に赴いた。

「息災か!レギル。」

 なんとも張りの良い声が返ってきて、内心レギル王子は安堵する。

「レギル…お帰りなさい。農村部はどうでした?」

 母上も同席している。何ともこれから言わんとすることを思えば、少々胸のつまる思いがする。
 レギル王子は両親に優しく迎え入れられて、つくづくこの両親の元に産まれたことを感謝した。それと共に最大限の心からの懺悔を……

「はい。種蒔きが始まっていました。疫病による死者も収まっている様ですし、北の国からは商人の出入りも始まっています。」

「そう…それは良かった…」

 ホッとした母の顔…心から安堵している様を見るのはいつぶりだろうか?

「それで…お前の話というのは?」

 久々の親子の時間を堪能する間も無く父王がレギル王子に声をかけた。

 カシュクール王は簡潔明瞭を常としている。有限である時間を国の全てに割かなければならないのだから逆にそうでなくてはならない立場にいる。

 意を決し、姿勢を改めて父王の前にレギル王子は進み出た。

「行くのか…?」

 ピクッとレギル王子の肩が揺れた。

「……なぜ?知っているのです?」

「シェルに聞いたよ?」

「父上!そのお体で塔に登ったのですか?」

 塔とは、シェルツェインが住う風の塔の事。上空高くまで続く階段を登って行かなければならないのに…

「ふふ…シェルツェインの引き継がれた現契約者は私だよ?」

 そうであった。父は現カシュクールの国王。シェルツェインと契約をしている立場に当たる方………

「龍に、出会ったのだね…レギル…」

「はい…素晴らしく美しい龍でございました。」

「それを、追うか……」

「……許して、下さいますか…」

 ここで、レギル王子は王子の役を捨てると言っていると言っても過言では無い。

「レギル…もし、レイチェルが逃げてしまったら私は何処までも追いかけて行くだろうね。」

「母上……?」

「まぁ、私は逃げましたっけ?」

 父は、何の話をしているのだろう?今は母の話では無くて私と、龍リレランの話を……

 国王の話を聞きながらも王妃もレギル王子もキョトンとした顔で見つめ返している。

「レギル…お前の気持ちが痛いほど分かると言うことだよ…」

「…父上……酷い、我儘を……申し訳なく……」

 今の今まで王子である事を自分に課し自身を律して来た。けれど、けれども、どうしても…

「行きなさい…レギル…お前は精霊の愛子だ。ここに止まっていても精霊がお前を離してはくれまい…産まれながらにそんな運命を背負わせてしまって…不甲斐ない両親を許してくれるか?」

「父上……」

 もう、何も言えまい…父、国王は既に全てを知っている。精霊に愛され、惹かれて止まなくなる私の運命を…………

「……頂きました、全てを置いて行きます。父上、母上…どうかお身体をご自愛くださいませ…」

「最後の挨拶なんてしないよ、レギル。お前の籍は開けておく。お前の龍に良くよく礼を言っておいておくれ。」

 レギル王子は国王両陛下の前で深く深く臣下の礼を取ると、もう一度しっかりと父と母の目を見て国王の寝室を後にした………
 国王の隣にはいつの間にか王妃が寄り添って王の手を握り締めていた。

「レイチェル…君の息子を君から奪ってしまった…私を恨むかい?」

「いいえ……子供はいずれ親元を旅立つものでしょう?遅かれ、早かれ…今がその時なんでしょう…」
 
 静かに話す王妃の頬にツゥっと涙が伝う。そっと王の手が王妃の涙を拭き取った……

「レイチェル…オレイン公を呼んでくれ……」

 オレイン公…現カシュクール国王の歳の離れた弟だ。未婚で王城からは離れた領地に移り住んでいる、王位継承権第二位に当たる。

「レイチェル、私の事は軽蔑してくれていい…」

「いいえ、致しません。」

「ふふ。君も頑固だね?」

「貴方ほどでは無いわ。ギルダイン……」

「懐かしいね…君にその名で呼ばれるのは…」

「嵐が来そうですもの。」

「少しは城に活気が出るかな?」

「死者が出ないならそれでよしとしましょう?」

 深け行く夜に両陛下の、穏やかならざる会話は続く……




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 自分の愛馬と愛刀と少しの手荷物…食糧は持たず水袋だけ馬に括り付けて…レギル王子は簡単に身支度のみを済ませれば馬房から馬を出して荷を乗せた。
 籍は残すと言った父の言葉に倣い、自分に何かあった時のための身元を知らしめる為、国の紋入りのブレスレットだけ身につけて、軽装にマントを羽織って…

 一度だけ、王城の父の居室を仰ぎ見る…止められると思っていた自分の思いはアッサリと見透かされていて…背中を押してもらう形になってしまった。何となしに面映い思いが湧き上がってくる。

「帰って…来なければ、な…」

 龍リレランが命以外の物を所望してくれるといいのだが…

 暫し目を瞑ったレギル王子が次に目を開けた時、もう後ろは振り向かなかった。リレランを探す方法なら既に心得ている。父の了承も取り付け、これで国に対しても思いを断ち切れる。後は、真っ直ぐに進むだけだ……
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