[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

文字の大きさ
36 / 72

36 拘束

しおりを挟む
「リレ……ラン……?」

 レギル王子の目の前の少年はジッと琥珀色の瞳でレギル王子を見つめたまま、この異様な事態にも動じない。顔を隠していたフードは既にずり落ちていて真珠色の艶のある長めの髪が、この黒っぽい霧の中でも艶やかに光っているのがわかる様だ。
 どうりで見つからないはず……レギル王子は龍の姿のリレランを探していたから…

「そう……人間の王子はしつこいんだったな………」
 
 折角人間に擬態して人間の世界に紛れているのに、こうもあっさりと引き合わされてしまうなんて…良からぬ仲間が余計なお節介を焼いてくれているんじゃないかと、リレランは余計な詮索をしてしまいそうだ。マリーが人間に力と魔力を与えた様に…

 この混乱した事態を作った張本人はリレラン自身なのだが……自然の精気の流れの乱れはリレランにとっては気持ちの良いものではなかったからこれはこれでいいだろうとも納得している。ただ、誤算はここに人間の王子が来てしまった事だろう。

「ラン……驚いたな………」

 しばし、虹色の瞳を大きく開けて、沈黙していたレギル王子が大きくため息を吐きながら言葉を紡ぐ。手に持っていた剣を鞘に収めると、リレランに触れぬ様にまた静かにフードを被せた。

「人間の王子はどこまでも来るんだろう?見つかりにくい所に居たつもりだったけど…」

 おかしいな?とリレランは小首を傾げる。

「私は、見つけられて良かった。まさか人の姿になっているとは思わず、龍を見なかったかと聞いて回るところだった。」

 困った様にクスリと笑ったレギル王子の瞳は今も虹色に輝いている。
 
 マリーの気配だ……いつも、僕を愛してくれた……なぜ…マリーは人間に宿った…?

 今は、きっとどれだけ問いかけてもマリーアンヌは答えない…それが、良くわかるからレギル王子には会いたくなかった。にじり寄って答えを貰えるまで問い詰めたくもなる。自分だけにその瞳を向けてもらいたくもなる。人間は、直ぐに居なくなるって、分かってるのにな……

「そんな事したら、人間に変な目で見られるよ?」

 見なければいいか…あの瞳を………

 レギル王子が被せてくれたフードをもっと下へと下げる。

「……夢の中で……君に、触れられなかったのが残念で仕方なかった……瞳の色が、今は違うのだな?」

 レギル王子はヒョイッとフードの下から顔を覗かせた。今度はリレランの琥珀色の瞳が見開かれた。

「瞳の色が違うな?何だか不思議だ……」
 
 今のリレランの瞳は透き通った琥珀色。龍リレランの瞳の色はどこまでも透き通る水晶の様な透明度のある瞳だった。

「人間には僕の様な色はないだろう?だから色をつけてるんだ。」

 ズイッと覗き込んでくるレギル王子からリレランは一歩下がる。

「君に、触れても?」

 あの夢の中で、龍のリレランに触れられなかった…後、少しだったのに…あの、物凄い幸福感をまた味わいたい……

「僕に、触れてどうするの?人間…」

「レギルだ。レギルという名前がある。」

 ここまで来る人間だ。意思が弱いはずはないんだ。今リレランが龍の姿をとっても喜んで近寄ってくる。レギル王子はそんな変な人間……

「……」

「…ラン……?いいかい?」

 リレランもレギル王子も互いに視線を外さない。レギル王子がリレランに望んでいる事は己を食べてくれとかきっとそんなしょうもない事だ。要らないと言っているのに追いすがってくる…本当に、迷惑この上ない……………

 リレランの返事を待たずに伸ばされるレギル王子の手。先程まで剣を持ち、剣だこの有るゴツっとした手でもある………

「……………」

 マリー………君は、どうしてこの人間を僕の前に連れてくるの………



「この霧の元となる魔術士はどこか!!!」複数の馬の蹄の音が聞こえる中、魔術士を呼ぶ声が一段と近くに聞こえてきた。

「…呼んでるよ。人間の避難が終わったんじゃない?」

 伸ばされた手を今度は自分で引かなければならない悔しさにレギル王子は唇を噛む。

「ここにいる!」

「姿を見せよ!!」

 騎士達がいる所から離れてはいないのだが、彼はこの霧の中に入ってくる事には躊躇がある様だ。

 仕方なく、霧から外に出るレギル王子…

「市民の避難は終わったのか?」

 先程の騎士とは違う隊長格の男が新たに騎士一団を率いてこの場に到着したらしかった。粗方報告は受けているものと思われるのだが………

「この者を捕らえよ!!」

「は!」

 周囲には市民を非難せしめようとして走り回る騎士達の姿。まだ完全には全ての民が建物内に避難できたわけではないだろうが、ほぼ森からの誘導は終わったであろう騎士達がチラチラと町に戻って来るのが見えている。
そんな中でレギル王子を捕らえよ、と目の前の騎士は命を下した。

「!?お待ち下さい!!指令!何をしているのです?」
 
 市民の誘導を選択した先程の騎士団隊長タリムがこちらに気がついた。

「この者に、猛獣を扇動した疑いがかかっておる!捕まえて、牢に繋げ!」

「な!!カシュクールの王族ですぞ!!」

 こんな事が知れれば国家問題に発展してしまう。

「王族が我が国に入国した知らせは受けてはおらぬ!連れて行け!!」

「ま、待たれよ!!司令官殿!気でも狂ったのですか?この方はあの霧で猛獣を引き止めてくれていたに過ぎませぬ!扇動などもっての外です!」

「なに、分からぬ。カシュクールは最早滅びに向かっていると言うではないか…猛獣をけしかけて、このアーランを乗っとる算段でも企てたのであろう!」

 今の今まで市民の安全を確保するために、部下に指示を飛ばし走り回っていた騎士は信じられない者を見る目つきで司令官を仰いでいた…

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギャップがあり過ぎるけど異世界だからそんなもんだよな、きっと。

一片澪
BL
※異世界人が全く珍しくないその世界で神殿に保護され、魔力相性の良い相手とお見合いすることになった馨は目の前に現れた男を見て一瞬言葉を失った。 衣服は身に着けているが露出している部分は見るからに固そうな鱗に覆われ、目は爬虫類独特の冷たさをたたえており、太く長い尾に鋭い牙と爪。 これはとんでも無い相手が来た……とちょっと恐れ戦いていたのだが、相手の第一声でその印象はアッサリと覆される。

騎士団長の秘密の部屋に匿われています!?

krm
BL
王子なのに魔力が異端!?式典中にまさかの魔力暴走を起こした第三王子アストル。地下室に幽閉されそうになったその時、騎士団長グレンの秘密の部屋にかくまわれることに!けれどそれは、生活感ゼロ、無表情な騎士とふたりきりの、ちょっと不便な隠れ家生活だった。 なのに、どうしてだろう。不器用なやさしさや、ふいに触れる手の温もりが、やけに心に残ってしまう。 「殿下の笑顔を拝見するのが、私の楽しみですので」 「……そんな顔して言われたら、勘違いしちゃうじゃん……」 少しずつ近づいていく二人と、異端の魔力に隠された真実とは――? お堅い騎士×異端の王子の、秘密のかくれ家ラブコメディ♡

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

魔王様が子供化したので勇者の俺が責任持って育てていたら、いつの間にか溺愛されているみたい

カミヤルイ
BL
顔だけが取り柄の勇者の血を引くジェイミーは、民衆を苦しめていると噂の魔王の討伐を指示され、嫌々家を出た。 ジェイミーの住む村には実害が無い為、噂だけだろうと思っていた魔王は実在し、ジェイミーは為すすべなく倒れそうになる。しかし絶体絶命の瞬間、雷が魔王の身体を貫き、目の前で倒れた。 それでも剣でとどめを刺せない気弱なジェイミーは、魔王の森に来る途中に買った怪しい薬を魔王に使う。 ……あれ?小さくなっちゃった!このまま放っておけないよ! そんなわけで、魔王様が子供化したので子育てスキル0の勇者が連れて帰って育てることになりました。 でも、いろいろありながらも成長していく魔王はなんだかジェイミーへの態度がおかしくて……。 時々シリアスですが、ふわふわんなご都合設定のお話です。 こちらは2021年に創作したものを掲載しています。 初めてのファンタジーで右往左往していたので、設定が甘いですが、ご容赦ください 素敵な表紙は漫画家さんのミミさんにお願いしました。 @Nd1KsPcwB6l90ko

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

【完結】ネクラ実況者、人気配信者に狙われる

ちょんす
BL
自分の居場所がほしくて始めたゲーム実況。けれど、現実は甘くない。再生数は伸びず、コメントもほとんどつかない。いつしか実況は、夢を叶える手段ではなく、自分の無価値さを突きつける“鏡”のようになっていた。 そんなある日、届いた一通のDM。送信者の名前は、俺が心から尊敬している大人気実況者「桐山キリト」。まさかと思いながらも、なりすましだと決めつけて無視しようとした。……でも、その相手は、本物だった。 「一緒にコラボ配信、しない?」 顔も知らない。会ったこともない。でも、画面の向こうから届いた言葉が、少しずつ、俺の心を変えていく。 これは、ネクラ実況者と人気配信者の、すれ違いとまっすぐな好意が交差する、ネット発ラブストーリー。 ※プロットや構成をAIに相談しながら制作しています。執筆・仕上げはすべて自分で行っています。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

処理中です...