[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

文字の大きさ
35 / 72

35 呪われた王子

しおりを挟む
「私は、カシュクール国、第一王子レギル!!ソラリスの騎士に告ぐ!!直ちに森へ侵入した市民を町へと引き返させよ!先ずは市民の安全を!!」
 
 駆けつけて来た騎士達にレギル王子は呼びかけた。周囲にいる人々もレギル王子の宣言に驚きの視線を投げ寄越している。

「退かれよ!!王族の名を名乗るとは、なんたる不遜!!カシュクールより、王族の入国の通達は来ておらん!不届き者め!そこを退かぬか!」

 確かに国からは何も通達されてはいない。そして身分を保証する供も無く身元を知らしめる物は一本のブレスレットのみ…それであってもこんな状況下で王族の名を敢えて出しているのにも関わらず頭ごなしに否定するのもどうかと思われた。慌ただしい状況下であろうが、その真偽は見極めるべきではないのか?

「王族が王族を名乗らず、誰が名乗ると言うのだ!聞いたことがあるだろう?カシュクールの呪われた王子の名を!!」

 精霊の愛子……呪われた王子…この2つの名 は国内ばかりでは無く国外にも轟いているだろう。

「我が瞳を見るが良い!生まれながらにして呪を受けた者の証だ!」

"目を眩ませて、姿を隠せ"

 レギル王子が唱え終わると、黒いモヤモヤした霧の様な物が所在無げに固まっていた猛獣の周囲を囲み出し、その姿を完全に隠してしまった。

「な!!これは!」

 いずれの騎士も皆体格の良いものばかりでいかにもの手練れの揃い踏みと言う一団に見えたが、魔法の類にはあまり耐性が無いのか一様に驚きざわめいている。
 その前に立ちはだかるのは、虹色の不思議な色の瞳を惜しげもなくさらすレギル王子だ。

「…!?…なんと、聞いた事がありますぞ!その噂は誠であったのか?」

 隊長格の騎士は一度威勢を削がれた様であったが、しかしすぐ様に意を決した様にレギル王子にはっきりと告げた。

「まさか、カシュクールの王子が魔術の心得があるとは思い及びませんでした。しかし!我らも騎士!民を傷つけた狼藉を許しておく訳には行かないのです!」

 言葉使いは丁寧なものへと変わったが、レギル王子の提案を飲む気はさらさら無い様だ。彼らも民を守っていると言う矜恃があるので、仕方がないことではあった。

「ならば、見てみるが良い!ここにいる猛獣は誰1人として襲ってはいない!」

 確かに、報告に来た者達からは猛獣が逃げ出した、とだけであった。人を襲っている、とは一言も報告には上がっていないのだ。しかし、この大混乱の中だ。興奮した猛獣が、どこぞで人を襲うかもしれない。そんな危険分子を野放しになどできるわけがなかった。

「だからこそだ!先ず森へ入った人々を安全な所へ誘導されよ!森こそが、猛獣の住処であろう!彼らが入ってからではもう収集がつかないぞ!」

「!?」

 その通りだ。無知な民は散り散りに森にも逃げ入っていく所を騎士達も見ていた。

「隊長どうなされますか?」

「この場はこのレギルが押さえおく!猛獣の目を眩ませた故、これ以上の混乱は起きないだろう!人々の混乱を鎮められよ!」

「隊長!?」

 暫しの沈黙の後、騎士隊長タリムが号令を出した。レギル王子の真剣な虹色の瞳からタリム隊長はこの間一度も視線を外さなかった。

「……全隊に告ぐ!直ちに市民の避難を優先させよ!!森への侵入を禁止とし、森へ入った市民を誘導せよ!」

「は!了解致しました!」

「ソラリスの騎士殿、感謝する!」

"人間の王子…まだ天幕の中に猛獣がいる…そして、捕まっていた人間もだ"

"人間?…捕まっていたとは?"

"さあ?でも天幕にまだいるよ?"

 リレランの声だ……こんな時だと言うのに、何故か心がこんなにも踊る……

"ラン…天幕の中の猛獣を外の霧まで出せるか?"

"もうやっている…後は人間だけ…"

"分かった…!"


「騎士殿!天幕の中にも人はいないか確認を!!猛獣は天幕から出てきた!!まだ中に取り残されているものもいるかも知れん!」

「了解した!カシュクール王子殿下そちらの猛獣は任せましたぞ!」

 騎士達は数人ずつの小隊に分かれ森へ向かう者、市街地で誘導を行う者、天幕へと向かう者、と日頃の訓練の賜物とでも言おうか見事な統率で動き出す。それを見届けたレギル王子は霧の中へ向かっていったリレランを追う。

"ラン!どこにいる?"

 もう、何度呼びかけたのかも分からない。どれだけ声を張り上げたのかも……

「……………ここに………」
 
 上から?見上げると、巨大な象の上からフードの少年がこちらを見下ろしていた。が、周囲に霧が立ち込めていてリレランの表情までは良くわからない。

「……ラン?」

 なんで、そんな所に!

「…この子達を誘導するためだよ…」    

「なぜ!?人の姿になど……」

"行きな…"

 ポン、と象の頭に手を置いて象を誘導し、自分はヒョイッと飛び降りた…!

「ラン!!」

 それに慌てふためいたのはレギル王子。機敏にリレランの着地地点まで猛ダッシュで駆け寄った。が、手助けは要らなかった様だ……駆け寄った時にはすでにレギル王子の目の前に、琥珀色の澄んだ瞳を真っ直ぐに向けている、1人の少年が立っていたから…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される

あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

【8話完結】恋愛を諦めたおじさんは、異世界で運命と出会う。

キノア9g
BL
恋愛を諦め、ただ淡々と日々を過ごしていた笠原透(32)。 しかし、ある日突然異世界へ召喚され、「王の番」だと告げられる。 迎えたのは、美しく気高い王・エルヴェル。 手厚いもてなしと優しさに戸惑いながらも、次第に心を揺さぶられていく透。 これは、愛を遠ざけてきた男が、本当のぬくもりに触れる物語。 ──運命なんて、信じていなかった。 けれど、彼の言葉が、ぬくもりが、俺の世界を変えていく。 全8話。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結済み】騎士団長は親友に生き写しの隣国の魔術師を溺愛する

兔世夜美(トヨヤミ)
BL
アイゼンベルク帝国の騎士団長ジュリアスは留学してきた隣国ゼレスティア公国の数十年ぶりのビショップ候補、シタンの後見となる。その理由はシタンが十年前に失った親友であり片恋の相手、ラシードにうり二つだから。だが出会ったシタンのラシードとは違う表情や振る舞いに心が惹かれていき…。過去の恋と現在目の前にいる存在。その両方の間で惑うジュリアスの心の行方は。※最終話まで毎日更新。※大柄な体躯の30代黒髪碧眼の騎士団長×細身の20代長髪魔術師のカップリングです。※完結済みの「テンペストの魔女」と若干繋がっていますがそちらを知らなくても読めます。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

処理中です...