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42 地の果てに
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"酷いな…レギル……"
レギル王子の周りに転がる緑の物体が増えて行くのをチロリ、と横目で見つつリレランは言う。
「何を言う?ラン。こうなる事が分かっててここに連れてきたんだろう?私が酷いと言うなら、君もだぞ?」
クスリ、とリレランを見つつレギル王子は真っ直ぐに美しい龍を見返す。レギル王子に国に帰れと言っておきながら、リレランはここを離れようとはせずレギル王子に付き合っている。本人は素っ気ない態度をとっているつもりかもしれないが、レギル王子はリレランの小さなその優しさに今はまだ情けなくも甘えていたい様な気もする。リレランが本気を出せば、レギル王子を食べる事も、吹き飛ばす事も、ここに置き去りにして去っていく事だって造作もないのに…リレランはそれを一切しないでここに居てくれる。それだけでもレギル王子の存在はリレランに隣にいても良いと許されている様で夢の様に嬉しい…
クスクスクスクス、自分の命は未開の生物の前に危険に晒されているにも関わらず、自然に笑みが溢れてきてしまう。
"レギル…何笑ってるの?ここは人間の住める様な所じゃないだろう?"
恐怖はないの?コテンと首を捻ってリレランは不思議そうにしている。
「……出来たらこの命……ランに食べてもらおうと決心して国を出た私に?今更?出来ればこんな怪物にではなくて、この命はランに捧げたいのだが…?」
"レギル……君の命を取るつもりは無いって…生きていて欲しいんだよ…"
マリーの願い………
「ならば、ラン。共に生きよう?君に望みが出来るまで、私がランに対価を払えるその日まで…」
食虫植物を切り捨てながら、爽やかにレギル王子はそんなことを言う…共に生きよう?龍がどれだけ長生きかも知らないで?太古の龍達はどれだけ長い間一匹でいるかも知らないで?
君は……僕にそうなれと言うのか……君を、心に残したまま………寂しいままで……僕に、君にもそうなれと言わせたいの………?
リレランが黙してもレギル王子は気に留めた様子はなくて、セッセと植物を刈りとっている。数日経てば周囲は綺麗に除草されてしまった。
「ラン…この森の奥には何がある?」
数日目のある日レギル王子はリレランに問う…ここ数日この森で動物に合っていない…食虫植物が、それもあんなに大きな物がいるのだから、動物はいるのだろうが……ランがいるからなのか、この奥に何かあるのか?レギル王子は不思議でならなかった。
"この奥には人間は行かない方がいい…奥にあるのはただの森の果て…"
「森の果て?」
はて?この地には限りがある物なのか……誰も見た事もないならば、世界で言われている事は全て推測でしかないのだが、果てとは一体……?
「そこには何がある?」
"何も無い…瘴気の森…"
「瘴気!!魔物がいるのか!」
グッと愛刀を握りしめ直すレギル王子にリレランは静かに首を振った…
"違うよレギル。もう魔物は居ない"
そう。龍の出現情報が途絶えてからというもの、魔物も一切出なくなったと言う伝承も残されている。関係性は未だに不明だが、瘴気ある所魔物ありと言われているのもまた事実で。
「ならば、なぜ瘴気が?」
森、と言うほど瘴気が滞っているのならば、魔物が湧いていても不思議では無いのでは?未だにレギル王子はリレランの言っている魔物は居ない、が信じられなかった……
"人間の匂いがするのぅ……"
「精霊!?」
バッとレギル王子は即座に反応する。この森に入ってから、問いかけに応じない森の王モールから始まって精霊を見かけていない。精霊以外、動物すらもレギル王子は目にしていなかった。
「ギュルルルル……」
精霊語が聞こえたと同時に、リレランが低く唸りを上げる。甲高く澄んだ声色を聞いたことはあるのだが、こんなにも低く唸る様な声は初めて聞く。
"どこにいる?どなただろうか?"
初めて聞く声だ。低い様な深い様な地の底から聞こえてくる様な……
"ほう……精霊語を操るか……"
"…………"
リレランは最初の唸り一声で、声を鎮めてしまった。
"どこに居られる?すまないが、私には貴方の姿が見えぬ。"
"見えぬとな……クックックッ…そうであろう…"
声と同時に地が揺れる…!ザザザザ~~~と葉擦れの音と共に森の奥へと道が開けた。
"これは……?"
"来られよ……塵に等しい人の身と言えど、其方ならば死なんだろう…………"
死ぬ……!?この奥へは死にに行く様なものなのか?
レギル王子はリレランを仰ぐ。死にに行くような事があったとしても、それはリレランの為でありたいと思うからだ。
"行かなければ、そっちから来るんだろう?バルーガ……そっちの方がここの植物達に致命的だろうに"
"お若いの…分かっておるでは無いか"
「……バルーガ、とは?」
人間の言葉でレギル王子はリレランに聞いた。
「…この森の主で、瘴気の森の古龍……」
一瞬で人形になったリレランは惜しげもなく見事な色の髪をその身に纏わりつかせながら木から降りて来た……
レギル王子の周りに転がる緑の物体が増えて行くのをチロリ、と横目で見つつリレランは言う。
「何を言う?ラン。こうなる事が分かっててここに連れてきたんだろう?私が酷いと言うなら、君もだぞ?」
クスリ、とリレランを見つつレギル王子は真っ直ぐに美しい龍を見返す。レギル王子に国に帰れと言っておきながら、リレランはここを離れようとはせずレギル王子に付き合っている。本人は素っ気ない態度をとっているつもりかもしれないが、レギル王子はリレランの小さなその優しさに今はまだ情けなくも甘えていたい様な気もする。リレランが本気を出せば、レギル王子を食べる事も、吹き飛ばす事も、ここに置き去りにして去っていく事だって造作もないのに…リレランはそれを一切しないでここに居てくれる。それだけでもレギル王子の存在はリレランに隣にいても良いと許されている様で夢の様に嬉しい…
クスクスクスクス、自分の命は未開の生物の前に危険に晒されているにも関わらず、自然に笑みが溢れてきてしまう。
"レギル…何笑ってるの?ここは人間の住める様な所じゃないだろう?"
恐怖はないの?コテンと首を捻ってリレランは不思議そうにしている。
「……出来たらこの命……ランに食べてもらおうと決心して国を出た私に?今更?出来ればこんな怪物にではなくて、この命はランに捧げたいのだが…?」
"レギル……君の命を取るつもりは無いって…生きていて欲しいんだよ…"
マリーの願い………
「ならば、ラン。共に生きよう?君に望みが出来るまで、私がランに対価を払えるその日まで…」
食虫植物を切り捨てながら、爽やかにレギル王子はそんなことを言う…共に生きよう?龍がどれだけ長生きかも知らないで?太古の龍達はどれだけ長い間一匹でいるかも知らないで?
君は……僕にそうなれと言うのか……君を、心に残したまま………寂しいままで……僕に、君にもそうなれと言わせたいの………?
リレランが黙してもレギル王子は気に留めた様子はなくて、セッセと植物を刈りとっている。数日経てば周囲は綺麗に除草されてしまった。
「ラン…この森の奥には何がある?」
数日目のある日レギル王子はリレランに問う…ここ数日この森で動物に合っていない…食虫植物が、それもあんなに大きな物がいるのだから、動物はいるのだろうが……ランがいるからなのか、この奥に何かあるのか?レギル王子は不思議でならなかった。
"この奥には人間は行かない方がいい…奥にあるのはただの森の果て…"
「森の果て?」
はて?この地には限りがある物なのか……誰も見た事もないならば、世界で言われている事は全て推測でしかないのだが、果てとは一体……?
「そこには何がある?」
"何も無い…瘴気の森…"
「瘴気!!魔物がいるのか!」
グッと愛刀を握りしめ直すレギル王子にリレランは静かに首を振った…
"違うよレギル。もう魔物は居ない"
そう。龍の出現情報が途絶えてからというもの、魔物も一切出なくなったと言う伝承も残されている。関係性は未だに不明だが、瘴気ある所魔物ありと言われているのもまた事実で。
「ならば、なぜ瘴気が?」
森、と言うほど瘴気が滞っているのならば、魔物が湧いていても不思議では無いのでは?未だにレギル王子はリレランの言っている魔物は居ない、が信じられなかった……
"人間の匂いがするのぅ……"
「精霊!?」
バッとレギル王子は即座に反応する。この森に入ってから、問いかけに応じない森の王モールから始まって精霊を見かけていない。精霊以外、動物すらもレギル王子は目にしていなかった。
「ギュルルルル……」
精霊語が聞こえたと同時に、リレランが低く唸りを上げる。甲高く澄んだ声色を聞いたことはあるのだが、こんなにも低く唸る様な声は初めて聞く。
"どこにいる?どなただろうか?"
初めて聞く声だ。低い様な深い様な地の底から聞こえてくる様な……
"ほう……精霊語を操るか……"
"…………"
リレランは最初の唸り一声で、声を鎮めてしまった。
"どこに居られる?すまないが、私には貴方の姿が見えぬ。"
"見えぬとな……クックックッ…そうであろう…"
声と同時に地が揺れる…!ザザザザ~~~と葉擦れの音と共に森の奥へと道が開けた。
"これは……?"
"来られよ……塵に等しい人の身と言えど、其方ならば死なんだろう…………"
死ぬ……!?この奥へは死にに行く様なものなのか?
レギル王子はリレランを仰ぐ。死にに行くような事があったとしても、それはリレランの為でありたいと思うからだ。
"行かなければ、そっちから来るんだろう?バルーガ……そっちの方がここの植物達に致命的だろうに"
"お若いの…分かっておるでは無いか"
「……バルーガ、とは?」
人間の言葉でレギル王子はリレランに聞いた。
「…この森の主で、瘴気の森の古龍……」
一瞬で人形になったリレランは惜しげもなく見事な色の髪をその身に纏わりつかせながら木から降りて来た……
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