[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

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52 タリムの訪問

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 城内での強風騒ぎが落ち着きを取り戻してから数日後、北方の国ソラリスからカシュクールへ使者が訪れる。来訪の目的はレギル王子への謁見との事だった。国交問題であれば、宰相なり、外交官なりを通して意見交換をすればいいものだが、王子を名指しで謁見したいとの申し出にカシュクール内でも疑問が湧き上がる。

「して、使者殿。レギル王子にどの様なご用件で?」

 ソラリスとは国交こそあるもののそれは主に物流においてだ。人材派遣の町アーランが有名で個人的に仕事で利用している者はカシュクール内でもいるにはいるが、王家同士の密接な繋がりは過去には無かったはず。そして本日カシュクールに参じた使者がどう見ても騎士にしか見えず、ただ書状を運ぶ使者としては物々し過ぎた。

「は、私はソラリス国、アーラン在中の騎士隊部隊長タリム・アザックと申します。この度は我が王よりカシュクール国王子殿下であられるレギル王子殿下にご挨拶を述べる様に仰せ使ってまいりました。」

「挨拶を?おかしいですね?我がカシュクール王家はソラリス国王家とここまで懇意にはしておりませんでしたでしょう?」

 それなのに、王を飛ばして王子に挨拶を?カシュクール国宰相フラト・ノーイルは優しそうな背が高い男だがその顔には疑問がはっきりと分かるくらいに訝しむ表情を浮かべている。

「疑問に思われる件について、何も言い訳するつもりもございません。しかし、一度レギル王子殿下のご尊顔を拝させて下さいませ。」
 
 このタリムという騎士からは並々ならぬ覇気が感じられ、ただの騎士に宰相フラトは一瞬気圧されそうになった。視線にも一つの迷いもなく宰相フラトを見つめ返している。

「ふっ…いいでしょう。レギル王子に取り継ぎます。何やら、やんごとなき事情がおありの様ですね?」

 宰相フラトが片手を上げると、側で控えていた係官が頭を下げてその場を辞する。

 

 あの係官はレギル王子の元に使者の来訪を伝えに行くのだろうが、焦らず用件も拒否されずと言う事は、という事だ……

 あの事件後ソラリス国から出た命令は、捕まっていた者が本当にカシュクール国王子レギルであったかどうかを確かめる事であった。瞳の色に不思議な魔術は伝え聞いていた通りで、あの騒然としたアーランで見かけた者は間違えようも無く本人であるとタリムは確信していた。そのレギル王子が領主館に運ばれるのもこの目で見ている。そして行方不明になって…来る日もくる日も騎士達は、町や村、森の中を探し回った様だが手がかりの一つも得られず国王の命によって突入した領主館からもレギル王子は見つからなかった。逆に領主館で見つかった者はどう見ても犯罪者には見えない見目麗しい者達ばかりだったとか…
 これらの者達が何の罪状で拘束されていたのか領主すら明らかにする事はできず、却って領主の人身売買が露呈する事になった。当然領主は拘束、手足となって働いていた者達も一網打尽にした後にレギル王子の行方が問題となった。無事に逃げられていたとしても、国家間で謝罪をしなければならない問題へと発展しているものであり、カシュクール国から何も音沙汰がないからと言って無視出来る問題ではない。だからソラリス王の命を受け自分が来たのだ。レギル王子その人かどうかを確かめる為に。

「では、ここでしばらくお待ちいただきましょう。何ぶん、お約束の無い事でしたので、レギル王子を捕まえる事からしないといけませんから。」

「はい。失礼を働いていますのは此方ですので、レギル王子のご都合に併せて待たせていただきます。」

 無事に王子がこの城に戻ってきているのならばそれで良い。自分の事を覚えているのならば、いや、あそこにいた者がレギル王子ならば嫌でも国家間の問題に上るほどの事だったのだから…


 しばらくすれば、部屋のドアが鳴る。

「どうぞ…」

 宰相フラトの声でガチャリのドアが開くと同時にタリムは立ち上がり頭を下げた。

「レギルに用がある者はその人?」

 に?聞いたことのある声だ!

 ばっとタリムは視線をあげる。目の前にいたのは、あの黒い霧の中から出てきた、美しい少年……?

「これは、ラン様おいでですか?」

 国の宰相殿という者が、目の前の少年に向かって最上級の礼を取る。それだけでも驚いた事だが……瞳が……

 騎士タリムの目を奪ったのは、見たこともない少年の瞳の色だった。水晶の様にどこまでも透き通った瞳…美しい顔だちだが、明らかに人間離れしている。あの時の…?しかし、騎士タリムには違和感が拭えないでいる。

「あぁ、やっぱりだ。あの時の良い人間…」

 じっと騎士タリムを見つめる瞳に吸い込まれそうになりながら、騎士タリムは急いで頭を下げた。
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