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56 王子とリレラン 3

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 リレランが言っているのは娼館の事だろうかと思う。確かにリレランが言うように、交尾と言ったら交尾だが、やっていることは同じでも意味合いが違う……

「言葉以外のコミュニケーションと言うか、欲の吐け口と言うか……」

「欲の吐け口だろ?レギル、何困ってるの?」

 どうしても言い澱んでしまうレギル王子に比べリレランはストレートだ。

「……ラン、何処でそんな事を知って……」

「人間の生活は何年も見てきたから…欲の吐け口の延長に種族繁栄があるんだろ?」

「つい最近、ランは卵から孵ったばかりだろう?」

 キョトンとレギル王子をリレランは見つめる。

「僕、人間の歳で言ったら100を超えてるよ?」

「………!?」


 レギル王子が起こしに来てくれた時、リレランは一度孵化して眠った後だったのだから。マリーアンヌが逝ってしまってから十数年は経っていたし、孵化する前にはもっと長い年月を卵の中で過ごしてきたんだ。それはもう、リレランでさえ何年経過しているなんて分からないほど…その間、嫌というほど人間の生活や世界中の事を見てきた。だから大抵のことは経験は無くても知ってはいるつもり。

「だから、ずっとレギルが不思議だったんだよね?」

「それは?」

「一生一緒に生きてくれるんだろう?そう言う相手に選んだんなら交尾はするもんだろ?」

 どんな動物も人間も番になる相手を見つけたら先ずはするものだとリレランは思っているらしく、なぜレギル王子がリレランにそう言う事を求めてこないのかと逆に不思議でしかなかった。

「…それは……そうなのかもしれないが……」

 して良いものならば、レギル王子は今すぐにでも手が出そうなのなのだが。

「じゃあ、どこの店にする?」

「は?店?」

「そう!交尾するには皆んな店に行くだろう?この国にも近場に数軒あるけど?」

「……待て……ちょっと待て……ラン……………」


 湯から上がったレギル王子は早々に侍女達を部屋から退出させると、リレランと向き合う。

「…店、と言うのはどう言うことだ?」

「人間達が交尾する所だろう?」

 またもや屈託のない瞳はどこまでも澄んで………あどけない顔から似つかわしくない話題が飛び出してきて………
 
 それは確かにそうなのだろうが……

 リレランは知っている。男女が連れ立って、時には同性でもそんな店に行く者は皆んな交尾をしている。又は雄や雌が店で待ってて相手をしてもらう。人間はそうやって増えていくんだ。だから、一緒に生きたいと言ってくれたレギル王子とも、交尾したい時はそう言う店に行かなければいけない。なのになかなかレギル王子が動かないから、リレランはヤキモキしていた。

「人間は面倒な決まりがあって大変だな……動物の方がもっと自由だ……。」

 彼らは発情期にはどこででも相手を求めていくものだから…人間みたいに変な決まりはない。

「いや、ラン…人間にも決まりはない…」

「え、でも皆んな店に行くんだろう?」

 ふ~~~と、レギル王子は大きな溜息を吐くと、リレランを自分の膝の上に引き寄せた。

「ラン、ほら、こうしてここで寄り添うことだってできるだろう?」

「うん。じゃあ、交尾は?あの店に行かなくてはいけないんじゃないの?」

 ランは、一体何を見てきたのだろう?レギル王子は若干頭が痛くなるのを抑えてリレランの瞳をしっかりと見つめる。

「私よりも長く生きて、色々なものを見てきたのだろう?なのに娼館しか見て来なかったとは、少し嘆かわしいのだが?」

 人々の生活は雑多過ぎて、一つのところをじっくりと見続けたわけではない。かいつまんで、目立つ所を眺めてきたらどうしても交尾の場所はその様な店になった。そういうものだと納得すれば後は深く考えることもなかったから…

「……良いよ、ラン。気持ちを確かめるにも、情を交わすにも人間だってどこでも出来るのだ。分からんのなら、私が教える……」

 そっと、リレランの唇にレギル王子は口付けを落とす…触れたいと思っていたリレランにレギル王子は優しく優しく触れていく……

「…レギル…僕は雛鳥じゃない。」

 壊れ物を扱う様に丁寧にしたつもりなのにリレランにとっては何処か不満気にそんな事を言って来た。

「雛鳥?」

「親が餌を与えるのと同じ事をしただろ?」

「……キスは給餌行動じゃない…ちゃんとした人間の愛情表現だ。」

「愛情………」

「そう…ラン。マリーアンヌも其方に教えようとしたのだろう?大切に思う相手に、人間が気持ちを伝える手段の一つだよ?」

「ふぅん…。街中でしてる人って見た事ないけど…」

「はは…それはそうだろう?人に見せびらかすものではないし、これは特別で大切な相手にのみ送るものだからだ。」

「じゃあレギルにとって、僕は特別で、大切なんだ?」

 スルッとリレランの手がレギル王子の頬に触れる。

 特別で、大切……それはそうだろう。龍リレランを一目見た時からレギル王子は心奪われていたのだから……


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