[完]蝶の精霊と思っていたら自分は龍でした 皆んなとお別れするのは寂し過ぎるのでもう一度殻に閉じこもりますから起こさないでください

小葉石

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67 リレランの巣作り

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 スルジー男爵領の視察上は何も問題は無かった。ただ素朴で貧しいとしか周囲の目には映らなかった様な土地ではある事も確かだが、撒いた物が根付き花咲けば素晴らしい景色を堪能できる緑豊かな地であるのはこの領土の一財産だと思えた。

 なによりリレランはここを気に入っている。スルジー領に入ってからというもの、いつにも増してリレランはレギル王子から離れようとしない。それもいつもより執拗で、ほわんとした甘える様な表情で求められてはリレランの事が好きなレギル王子にはたまったものでは無かった。

「……ラン…?」

「ん……レギル…もっと…」  

 この地に着いたのは昼前だ。本来ならば領地一周位回って視察をすべき所だが、どうにもリレランの様子が変。その為大事を取ってスルジー領主館に泊まらせてもらう事になった。スルジー領主は大変恐縮され、直ぐにでもちゃんと挨拶をしたいとの事だったのだが、何を隠そうレギル王子をベッドで目覚めたリレランが離さない……部屋を借りるその時にレギル王子とは少しばかりの挨拶をするだけに留まってしまっていた。

「レギル……」

 一度、二度とこの腕に抱いてもリレランは手を伸ばして来る。もっと、と。男ならば、嬉しく無いはずはないのだ。求められれば答えたくはなるのだが、その細い身体に負担になりはしないかと躊躇してしまうのもまた事実で………

「レギルをもっと頂戴……?僕なら大丈夫だから…ね?」

「………!?」

 今までに、こんなにも直接的に求められた事など無くて、どこまで答えてやったらいいものか……それさえも分からないまま何度か抱けば、リレランはスヤァ…と寝入ってしまう。

「………ふぅぅ………」
 
 丸まって寝入ってしまったリレランの顔を覗き込みながら、レギル王子もゴロリと仰向けに寝転んだ。リレランに上掛けをかけてやる。スルジー男爵もいきなりやってきた客人が、まさかこんな事の為に部屋に篭ってしまっているとは流石に思うまい…少しの罪悪感に駆られながらもリレランのその満足そうな顔にレギル王子もまた満足そうな笑みを湛える。情事の後の気怠さはあるが、起きられない事もない……

「誰かいるか?」

「はい。側に……」

 部屋の外からヨシットの声がする。
 
「スルジー男爵に会おう。取り次ぎを。」

「はっ御意…」

 手早く身支度を整えて、レギル王子はスルジー男爵に会うために部屋を出た。既に夜は深けていたのだが、スルジー男爵は休まず待っていてくれた様だ。レギル王子との面会を恐縮しつつ喜んでもくれ、全面的に協力を惜しまないとまで約束してくれもした。先に来た王城からの手紙に夫人は寝込む程に驚いてしまったそうで、男爵は共にお迎えできない非礼を詫びた。

「かまわぬ。突然の訪問をしたこちらの非礼も許して欲しい。」

「そんな!恐れ多い……お聞きになったか分かりませんが、我が領も私の娘も大した物ではないでしょうに……何故、こんな事に……」

 見てる方が可愛そうになるくらい、スルジー男爵は恐縮し、少しぽっちゃりとしたその身体はますます小さくなっていく。

「我が叔父上…皇太子となられるオレイン公は、芯のある素晴らしい方だ。自分の信念に従い真っ直ぐに歩ける方でもある。家族の情にも熱い方で、ご自分で選んだ方ならばきっと大切にして下さる。」

 スルジー男爵は自分の娘が選ばれた事に喜ぶことよりも恐れの方が強い様だ。父親がこの様ならば、もしや令嬢も不安の方が大きいかもしれない…まずはオレイン公の人となりを知ってもらおうとレギル王子は叔父オレイン公を語った。

「殿下……」

「廃嫡される私よりもずっと優秀で、優しい方だ。ご令嬢の心にも沿ってくださる伴侶となられるだろう。」

 カタン……

 スルジー男爵の部屋の外で物音がした。護衛騎士かとも思ったが、彼らならば室内に入る前に声をかけて来る。

「………失礼を…お許しください………」

 そこに立っていたのは、今話していたオレイン公の妻候補となるスルジー男爵の令嬢ルアナだ。室内に入り、二人に深々と礼を取る。

「これは…この様な姿で失礼を致します。」

 ルアナ男爵令嬢の礼を受けてレギル王子も慌てて頭を下げた。ここへ着いてからまだ身を清めていないばかりか着替えさえもしていない。

「ご無礼を承知で参りましたので、どうかお許し下さいませ…」

「ルアナ…突然どうしたと言うのか……」

「レギル王子殿下がお父様の所に来られると聞いて…私もご挨拶しようと……」

 結果、立ち聞きしてしまう形となってしまったのだが……

「オレイン公が私をお望みなのですね…?でも、何故私なのでしょう?」

「貴方が次期王妃の器であったからではありませんか?」

 レギル王子の言葉にビクッと驚くのはスルジー男爵……今にも震えそうなほどだ。

「…そんな……私は王妃となる様な器ではありません…!次期国王と言うのならば、目の前に居られるレギル王子殿下こそではありませんか…!」

 王城より寄越された書状に偽りはないが、ルアナ嬢にとってはとてもじゃ無いが信じられることでは無かったのだろう…

「…ルアナ嬢……それならば私こそが王の器ではありません……」

「何を申されます…!」

 王家直系の男児はレギル王子のみのはず。器云々ではなく、資格ならば申し分はないのに…

 トントン…

「お話中、申し訳ありません。ラン様がお越しになりました。」

 部屋の外で待機していたであろう護衛がリレランの訪室を告げる。
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