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23 反撃
しおりを挟むアクサードとてただ手をこまねいて、スロウルの処遇が決まるのをただただ待っている訳ではない。
誰がルウアを襲ったか捜査の手は伸びていたし、何故スロウルに面会できないのか横槍に邪魔されつつも個人で調べながら動いてはいたのだ。
やっと御前試合が終わり面会特権を得てスロウルに会ってみれば、牢であった事をスロウルは丸隠しにして来た。
あえて、本人を問い詰めるつもりは無い…
でもな、スロウル、お前が苦笑いをするときは何か隠している時なんだ…
「愛してる……スロウ。」
そう言った俺の言葉に、一瞬体が緊張したな?
お前をしっかりと抱きしめて居ないと、あいつを切りに行ってしまいそうだ…
つい先日ご丁寧に、かつての上司ザックスから警告があった。
動くのだったら早くしろ、と。
この男、身分は低いがなにぶん肝が据った男で、俺に報復されても身を引かないと言い切った!
スロウがされた事を聞いたら、尚更此方の腹も決まる……。
誰が手放せるかって?一目見てこれの全てに惹かれたのに?スロウが居なくなるくらいならば一緒に自分もそれに乗ってやるくらいには腹は決めている。
それはもう…最初から、ずっとだ…
アクサードが通された部屋は重厚な執務室。この部屋は厳格たれと過ごしその様に家族にも接して来た方の性分が出ている様だ。
ドアが開き、この屋敷の主人が現れる。
「お時間を頂き有り難く思います。公爵、ご相談が御座います。」
立って迎えたこの家の主人は、無言で肯き着座を勧めた。
………スロウルを、この手に入れる………
*******
検分と言う名の外出が許されたのは更に数日後。
アクサードはあれから毎日の様に牢に来てはスロウルの顔を確認して、帰って行く。
髪や頬に触れ、キスまではするがそれ以上は求めてこない。
ザックスが触れたのも、あの一度きりだ。
スロウルとしてはあの時の感覚が強烈すぎて、アクサードと持つその先も今はまだ恐ろしいと思ってしまう。けどその反面、アクサードの記憶で全て消し去ってもらいたい気もして、落ち着かないでもいた……
貴族牢から離宮までは距離もあり一様囚人の身である為に、簡素な馬車で城内を移動することになっていた。
ゴトゴト揺れる馬車の中取り止めのない事を考えていたら、スロウルは異変に気がつくのが送れた。
「城の外……?」
検分ならば城内のはずでは?
「どう言う事だ!」
外の御者に声をかけてみるが返事はない。
勿論馬車のドアには鍵が掛かっている。
「お静かに……ある所にお連れしろと上の方からのご命令ですので…」
「その上の者とは?我が家の格よりも上の家なぞそうそう無いぞ。」
スロウルの言葉が鋭い。
公然と公爵家を敵に回す覚悟はあるのかと聞いているのだ。
「貴方様のお勤めになる場所とだけ聞いてきております。」
「勤めの場所?」
今までならばルウアの付き人だ。公爵家から正式に除名もされていない。ならばまだスロウルは正式に公爵家の者と言える。
「貴方様には生きる選択肢が有ると聞き及んでいます。其方の方では?」
選択肢……?
ザックスの言っていたことか?
「まさか!………」
スロウルの顔の色が消えて行く。ザックスがした様に媚薬を使うのか…?
「どこに……行くのだ……?」
半ば諦めの境地で呟いてみる。
「着けば分かると伺っております。」
着いた所は簡素な、そうは言っても一般市民から見たら十分に大きな屋敷だ。
「どうぞ。」
馬車の鍵が外され、スロウルのみが中へと案内される。
「この入り口以外、全て外に通じる窓やドアは開けられぬ様に潰してあります。御身の為を思うのでしたら、行動にお気をつけください。」
逃げられぬ、ということか…
「用がお済みでしたらこちらから出ていらしてください。」
「心得た。」
無情にもドアが、屋敷に入ったスロウルの後手に閉まった。
扉の前にはすぐに2階へと通じる階段。両サイドにも通路がある様だが、布が貼ってある。
必然的に2階へ行けと言うことだろう。
ここまで来れば覚悟も何もない。暴挙に出て全てを不意にするつもりも無い。
ただ、相手が常識的な者である様にと祈るだけだ…
なのに、なんで?
「なんで………アクサード……?」
何がどうなって、アクサードがここに?
「スロウルは、なぜここに?」
心なしか、アクサードの声がいつもよりも低い。
「検証の一環なんですってね。ここが…?
馬鹿にされるのにも程がある。」
「お前を嵌めたのは……スレントル家一派の者だ……」
「え……?」
スレントル家はアクサードの家だ……
「公爵筋ではルウア嬢の他に殿下と釣り合う年頃の令嬢がいないだろ?だからスレントル家は皇太子妃候補には名乗りをあげなかった………」
「知っています。」
「しかし、それをよく思っていなかった親戚筋が、イルンデ侯爵家に渡りをつけてガザインバークと共闘し自らの娘を次期の、と言う事らしい…。」
「……それを知っているのは?」
「テドルフ公爵…。」
「父上が……?」
「前々から怪しそうな所には手当たり次第間諜を入れていたらしいよ。用意周到な方だ。」
「スレントル家は?」
「さあね?家に帰っていないから分からんが、父も兄も知らんだろうさ。問題ある家には調べが入る。」
「皇太子妃候補暗殺未遂ですよ?スレントル公爵位も危ぶまれるかもしれません……」
「そんな事はどうでもいい。」
ツカツカと近付いたアクサードはグッとスロウルの腕を掴む。
「お前、此処に何しに来たのか分かってるのか?」
いつも優しいアクサードの瞳が今日は真剣そのもの…
「私が生きる為に選ぶ事の出来る道の一つですって…」
スロウルは泣き笑いの様な顔になっている。先程までの緊張のしわ寄せが、今どっと押し寄せてきていた。
「馬鹿な!こんな事しなくても生きて行く道なら俺が作る!」
言うと、アクサードはいきなりスロウルに深く口付けてきた…
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