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26 決定

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 スロウルの元に突然にその知らせはきた。


 その日は極平凡な一日で、いつも来ているアクサードの訪問予定も無いとのことで、ふと、おかしいと思ったくらいのものだった。


 朝食が終わり、部屋の中でスロウルはアクサードが持って来てくれた本の続きを読んでいた。


 扉のノックとともに数名の騎士が入って来る。


「おはようございます。移送命令が出ております。我らが現地まで同行いたしますのでご用意お願いいたします。」


「何処に行くのです?」


「ガザインバークにございます。」

 騎士達は言う…行き先を誤魔化す必要もないのだろう。


「ガザインバーク?何をしに?」

 反乱因子の頭と見られている者をその最たる地へと……?


 すっとスロウルの血の気が引いてきた…


「誰の命か?」


「……エンドラン国王陛下にございます……」


「………分かった。荷物は多くは無い。数分待て…」

 
 騎士がが部屋の外に出て待機している。
荷物を運ぶにしてもその箱も、片付ける侍女も来ない。これは持っていくだ。



 一つ大きく深呼吸をする。

 最後の別れくらい、言わせても貰えないのか…
 

 スロウルの脳裏にもう何日も会っていない母の姿が浮かぶ…


 この時のために手紙を両親宛に書いておいた。牢番兵に渡せば父の元へと届けられるだろう。


 着替えて、身支度のみを整えスロウルは貴族牢を後にした。


 



 
 ガザインバークは現在エンドラン国他数国で国を分け、それぞれ直近の国に吸収される形になり管理されている。

 勿論ガザインバーク健在の時からその土地にいた貴族、国民もそのままに住み続け、吸収した国の貴族、国民として迎え入れられてはいる。が、それは表向きのことでかつての諍いや軋轢が消失するなど無理あること。

 迎え入られたは良いが、冷たくあしらわれ、郷に入っていく事も難しい者達もいた。

 
 ルウアを襲い、テドルフ家の力を削ぎ、スロウルを担ぎ上げて、エンドラン国そのものを乗っ取ろうとの奸計を測る者も確かにおり、ガザインバークに好意的な王家やテドルフ家に反対派の者達は、スロウルの存在そのものが目障りこの上ないものだった。


 彼らにとって、一刻も早くスロウルを亡き者にしたいと手を拱いていたのだ。


 以前より本人には非がない事、と前ガザインバーク王の同道を歩ませる事を許可しなかったエンドラン王が、数日前にまさかの許可を出したのだ。
 それならばこの機を逃すまいと、本人には事前通告もなく今回の移送処置となった。


 行き先は現テドルフ公爵領、かつてのガザインバーク国研究者達の手によって地に沈んだ大都市だ。


 現在都市には人の侵入は禁止。テドルフ公爵が定期的に見回り経年変化を追って来た。


 毎年、王妃、皇太子両名もガザインバークの血を引く王族代表としてこの都市に視察に来る事を義務とされている。


 都市を真下に見下ろす高台に絶壁の崖があり、此処からならば都市の大部分が一望できる。



 眼下に広がるのはかつての大都市、建物も人も整備された道も精錬された代表都市であった。
 今は見る影もなく都市の残骸たる跡も目に映す事も出来ない。


 地表から黒いモヤの様な霧の様なもっと質量がある雲の様な何とも例えられない物が黒々と覆い広がっているのだ。上空に向かって空気と溶け込む様に徐々に薄れていく様を見ることができる。 

 かつての研究者達は何を思って、何を作っていたのか?未だどの国の研究者も何も掴めず、ただ、成り行きを見守るのみだ。

 18年前からこの地の変化を見、そして誰にも侵入されず、悪用されない様にテドルフ公爵は尽力して来たのだ。



 
 スロウルは、自分の祖父の国を今初めて目にしている。そしてそれは今日まで父が守ろうとして来たものだ。

 同行して来た騎士達は此処で待機命令を出されている。スロウルがどう処されるのかは彼らも聞いてはいない様であった。


「スロウル様、ご不便はありませんか?」


 共に同行して来た騎士の中に見習いの年若い騎士もいた。
 崖の上には簡易テントがポツポツと張られ皆此処で待機となっている。

 
 スロウルには何も手荷物がなかったが、此処に来るまで不便を感じることなく過ごして来た。扱いとしては申し分ない。


「いえ、大丈夫ですよ?良くしてもらっています。」


「そうですか。」

 ホッとした顔をしている騎士は伝言を伝えて来る。


「本日指示を持った特使の方がこちらに来られます。ですから待機はもうしばらくです。」


 この若き騎士はきっとその内容を知りもしないのだろう。スロウルが退屈で飽きて来ているのではないかと心配をして時々顔を出してくれるのだ。



「…………今日、か。」

「はい。待機が長く申し訳ありませんがそれも今日で終わりますので。」


「何か、私に手紙か何かはありませんでしたか?」
  
「いえ、本日は預かっておりません。」


「そう…ですか。」


 薄く笑ったスロウルの表情は透き通る様に白い。感情が表立って現れない顔は今日も妖精の様に美しい…


 ファンからは口々に褒め称えられるスロウルはいつもと変わらず美しいままだった。
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