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121.不穏な気配 3
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「いいね?メリー。王太子殿下はああして非常に寛大なお心でお前に対処してくださっている。アーキンにも今の職の責務がある。だから我儘を言ってアーキンや周りの人々を困らせてはいけないよ?」
王太子妃の慈悲で後宮にアーキンが面会に来れるからと言って、我が儘放題に呼び出してはいけない。父ルイグは愛娘に教え諭す。
「分かっています!私だってもう子供じゃないんです!」
先程まで小さな子供の様に泣きじゃくっていたメリアンは頬を膨らませて父にそう言い返した。見ている者達は自然と微笑ましい表情になってしまう。
チラリ…時折リリーの表情を盗み見るアーキンはどこと無く心配気だ。いつもの様なフードは取っているのだが、その表情は動かない。怒っているわけでもメリアンと両親のやり取りを羨んでいるわけでも無さそうではあるが、リリーの過去を知る者の一人としては居た堪れないのではないかと危惧してしまう。
「アーキン…アーキン!」
「…はい!何でしょう?」
自分の考え事に没頭していて王太子夫妻の前で返事を遅れるなどと、粗相を働いてしまった…
「私達はこれでお暇させて頂こうと思う。メリーの事が落ち着いたら故郷の方が心配でね。お前には苦労をかけるがここにに残ってもらっても良いのか?」
ピクリ…アーキンの視界の端でリリーが反応した様に思う。
「あぁ、そのつもりです。」
そうだ、離れるわけない。離れられるわけがない…!
「そうか……メリー兄さんが側に居てくれるからな?何かあったら兄さんを困らせない程度に頼りなさい。私達も手紙を書くよ?」
アーキンの言葉にルイグはほうっと息を吐き、メリアンに向き直って別れの挨拶をする。
「こんなにお早く?」
しばらく滞在して再会を噛み締めあってもいいのではないかと王太子妃は思ったのだが…
「王太子妃殿下。お心遣い心から感謝いたします。けれども私が離れる事で第2、第3のメリアンが出てしまうかも知れません。私共も騎士の端くれでありますれば、この剣にかけた誓いのために動きたいのです。」
若かりし頃に自分のΩの妻を護ると決めた事、この剣は自分達の村と人々を護る為にあると固く誓った誓いは今でも忘れてはならないものだから。
「ご立派な心構えであられるな…義父上の意向を汲みましょうぞ。」
「感謝します王太子殿下。」
「…父さん、母さん……!」
「大丈夫よメリー…!また必ず来ますからね?」
「うんうん…!約束よ?お兄ちゃんと待ってるから!」
「フフフ…アーキンにも良い方がいる様だ…我が儘は程々にな?」
別れを惜しむ親子の図を見てもリリーの心は揺るがない。思っていたよりも心の整理はついている様である。それよりもアーキンが故郷へ帰るかも知れないと言うところで、不覚にも反応してしまったのだが。
「………………」
番は要らない、アーキンと番うつもりはない。その意思表示もあってリリーはガードを付けているのだがアーキンの両親には思い寄らない事だろうからリリーはあえて沈黙を貫く。
「アーキン、まさかお前まで王族に連なる方を番にしようとは思わなかったが…まだ番っていないのだな?悪い事は言わない。自分の番として早く守れる様にしておく方がいい。」
子供のを思った父の助言だ。番ならばその手に抱く様な関係ならば早く番いあって他の者に取られない様に護りに入れと言っている。
「……………」
アーキンは何も言えないだろう。番たいと心底思ったとしてもリリーは命をかけてそれを拒否するだろうから……
「分かったな?アーキン。誰かに取られてからではお互いに苦しむ人生しか待っていないからな?」
父として、剣の師としてアーキンを護り育んで来た父にも素直に答えられないほどにアーキンはリリーが大事だ。
「…ああ、わかっている。ちゃんと考えているさ…」
そう…嫌と言うほど考えに考えた。それでも行き着くところはリリーを愛している、その事実だけ…
「そうか…!番になった暁には一度戻ってきなさい!王族の方には物足りないだろうがお前の故郷を見てもらうといい。」
番は自分の半身だ。自分の愛する物も大切な物も二人で共有し、分かち合いたい。そんな欲求も湧いてくるだろうから。
「あぁ、ありがとう…気をつけて帰れよ?」
アーキンが両親との別れを惜しむ間にリリーはメリアンと話をしている。メリアンはリリーに懐いている様で、普段からもリリーと話したいと強請っていたのだそうだ。
「では兄上、また伺います。」
「ああご苦労だったな、リーシュレイト。」
「またお話し相手になってくれますか?」
「メリアン嬢、話し相手が私では些かつまらなくはないか?」
「いいえ!リーシュレイト様の様なお綺麗な方と私親族になるのでしょう?鼻が高いです!」
先程泣き腫らした目元をまだ赤く腫らしたままメリアンは健気に目一杯笑って見せた。
「そうか…何かあったら義姉上に相談するといい。どうしても寂しいのならば白の邸宅にもΩがいるから話し相手に遣わそう。」
「いいんですか!?」
「兄上の許可が降りたらな?」
「はい!」
可愛らしい兄のΩは元来元気一杯の少女だった様だ。
王太子妃の慈悲で後宮にアーキンが面会に来れるからと言って、我が儘放題に呼び出してはいけない。父ルイグは愛娘に教え諭す。
「分かっています!私だってもう子供じゃないんです!」
先程まで小さな子供の様に泣きじゃくっていたメリアンは頬を膨らませて父にそう言い返した。見ている者達は自然と微笑ましい表情になってしまう。
チラリ…時折リリーの表情を盗み見るアーキンはどこと無く心配気だ。いつもの様なフードは取っているのだが、その表情は動かない。怒っているわけでもメリアンと両親のやり取りを羨んでいるわけでも無さそうではあるが、リリーの過去を知る者の一人としては居た堪れないのではないかと危惧してしまう。
「アーキン…アーキン!」
「…はい!何でしょう?」
自分の考え事に没頭していて王太子夫妻の前で返事を遅れるなどと、粗相を働いてしまった…
「私達はこれでお暇させて頂こうと思う。メリーの事が落ち着いたら故郷の方が心配でね。お前には苦労をかけるがここにに残ってもらっても良いのか?」
ピクリ…アーキンの視界の端でリリーが反応した様に思う。
「あぁ、そのつもりです。」
そうだ、離れるわけない。離れられるわけがない…!
「そうか……メリー兄さんが側に居てくれるからな?何かあったら兄さんを困らせない程度に頼りなさい。私達も手紙を書くよ?」
アーキンの言葉にルイグはほうっと息を吐き、メリアンに向き直って別れの挨拶をする。
「こんなにお早く?」
しばらく滞在して再会を噛み締めあってもいいのではないかと王太子妃は思ったのだが…
「王太子妃殿下。お心遣い心から感謝いたします。けれども私が離れる事で第2、第3のメリアンが出てしまうかも知れません。私共も騎士の端くれでありますれば、この剣にかけた誓いのために動きたいのです。」
若かりし頃に自分のΩの妻を護ると決めた事、この剣は自分達の村と人々を護る為にあると固く誓った誓いは今でも忘れてはならないものだから。
「ご立派な心構えであられるな…義父上の意向を汲みましょうぞ。」
「感謝します王太子殿下。」
「…父さん、母さん……!」
「大丈夫よメリー…!また必ず来ますからね?」
「うんうん…!約束よ?お兄ちゃんと待ってるから!」
「フフフ…アーキンにも良い方がいる様だ…我が儘は程々にな?」
別れを惜しむ親子の図を見てもリリーの心は揺るがない。思っていたよりも心の整理はついている様である。それよりもアーキンが故郷へ帰るかも知れないと言うところで、不覚にも反応してしまったのだが。
「………………」
番は要らない、アーキンと番うつもりはない。その意思表示もあってリリーはガードを付けているのだがアーキンの両親には思い寄らない事だろうからリリーはあえて沈黙を貫く。
「アーキン、まさかお前まで王族に連なる方を番にしようとは思わなかったが…まだ番っていないのだな?悪い事は言わない。自分の番として早く守れる様にしておく方がいい。」
子供のを思った父の助言だ。番ならばその手に抱く様な関係ならば早く番いあって他の者に取られない様に護りに入れと言っている。
「……………」
アーキンは何も言えないだろう。番たいと心底思ったとしてもリリーは命をかけてそれを拒否するだろうから……
「分かったな?アーキン。誰かに取られてからではお互いに苦しむ人生しか待っていないからな?」
父として、剣の師としてアーキンを護り育んで来た父にも素直に答えられないほどにアーキンはリリーが大事だ。
「…ああ、わかっている。ちゃんと考えているさ…」
そう…嫌と言うほど考えに考えた。それでも行き着くところはリリーを愛している、その事実だけ…
「そうか…!番になった暁には一度戻ってきなさい!王族の方には物足りないだろうがお前の故郷を見てもらうといい。」
番は自分の半身だ。自分の愛する物も大切な物も二人で共有し、分かち合いたい。そんな欲求も湧いてくるだろうから。
「あぁ、ありがとう…気をつけて帰れよ?」
アーキンが両親との別れを惜しむ間にリリーはメリアンと話をしている。メリアンはリリーに懐いている様で、普段からもリリーと話したいと強請っていたのだそうだ。
「では兄上、また伺います。」
「ああご苦労だったな、リーシュレイト。」
「またお話し相手になってくれますか?」
「メリアン嬢、話し相手が私では些かつまらなくはないか?」
「いいえ!リーシュレイト様の様なお綺麗な方と私親族になるのでしょう?鼻が高いです!」
先程泣き腫らした目元をまだ赤く腫らしたままメリアンは健気に目一杯笑って見せた。
「そうか…何かあったら義姉上に相談するといい。どうしても寂しいのならば白の邸宅にもΩがいるから話し相手に遣わそう。」
「いいんですか!?」
「兄上の許可が降りたらな?」
「はい!」
可愛らしい兄のΩは元来元気一杯の少女だった様だ。
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