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39 馬車の中で
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王都を出てから早数日。天候にも恵まれ、西へと急ぐ旅程に差し支えるものも無く順調に進む。
が、何故か本日は朝から、ルーシウスと馬車に同乗している。
出発してからは、彼方に着いてからの政務や、雑務やらの確認調整に移動中も仕事尽くめであった為、朝の他殆ど顔を合わせることも無かった。
いつもの朝の回復魔法後、ルーシウスはサウラに同乗する様にカリナへ指示を出したそうな。
それを知らずに、馬車まで案内されたサウラ。いつも同乗しているカリナが乗ってこない事に首を傾げていると、カリナよりも身長の高いルーシウスがひょっこりと乗って来る。
「??」
予定外のことに、人間は驚くものだ。
「サウラ、俺は今日は此方に乗る。」
「カリナさんは?」
パチクリしながらも、聞いてみる。
「後ろだ。護衛も外から付いて来る。今日位ゆっくりしてもよかろう。」
ややお疲れ気味のルーシウスであるが、顔色はそう悪くないことにホッとする。
二人きりでゆっくり対面というのも、伴侶に立候補、を告げられてから、初めてのことと気がつき、やや緊張してしまうサウラである。
「お仕事は片付いたんですか?」
「ん、大体な。」
「お前は疲れていないか?こんなに長く旅をするのは初めてだろう?」
旅自体が初めてのサウラだ。見る物、聞く事、起こる事、全てがほぼ初めてなので、疲れはするが、全く退屈はしない旅であった。
馬車の中でカリナと話す事が無くても、ずっと外を眺めているだけでも十分に楽しめた。
外の景色も王都と比べてだいぶ様変わりして来ている。街を抜け数日経つと、段々と大きな木々の数が減り、低木が増えて、時には草地に岩場も見え出した所だった。
「いえ、見る物全て知らない事だったりするので、毎日が楽しいです。」
この旅の事よりも、ルーシウスに何と答えたら良いのか、将来の伴侶に立候補、に対する返答の方に苦労している。まあ、考えない様にしていると言っても良いかもしれないが、何しろ、自分の心が分からないのに、是も否もない。
ルーシウスが何か話そうとすると、サウラが緊張するのが分かる。自分の言動が発端となっているのだろうから致し方ない事だが。出来ればいつものサウラでいて欲しいと思うのは、贅沢というものだろうか?
態度がいつもと違うのは、少しでもサウラが自分の事を意識してくれていると思って良いのだろうか?自惚れだとは思うのだが、それだけでも嬉しいものだ。
「そうか。楽しめている様で何よりだ。」
ルーシウスの表情は優しい。深いエメラルドグリーンの瞳は心からサウラの言葉に安堵している様に見つめて来る。
本当に、優しい王様に呼ばれたと思う。もっと傲慢な人だったら、自分はどんな目にあっていたか分からない。物語にもそんな話はあったのだ。
「サウラ、お願いがあるのだが。」
王様がお願い?何でしょう?
「出来たらで良いが、俺の言った事は気にしないでいて欲しい。心残り無くと、自分に整理を付ける為に言った様なものだ。サウラを困らせる為に言ったのではない。俺には、好まずともやらねばならぬ事がある。それが終わらねば、始まるものも始まらない。」
ルーシウスの顔は少し寂しそうだ。サウラは今ルーシウスが言っていた事を心の中で繰り返す。
寂しそうな顔、心残り無くって何故?
「それが、その事が、終わってから言ってくれても良かったのではないですか?」
サウラは嫌な胸騒ぎがした。先程からのルーシウスの寂しそうな顔、今サウラが言った言葉に、さらに困った様な笑顔になった。
言えるものでは無いだろう。この度の結界には亀裂が入った。建国後から現在まで、結界に影響が出る程弱体化した事はない。
ルーシウス自身も相当の魔力持ちで、サウラのおかげで今は生命が尽きずに済んでいるだけだ。今回は、結界の補修と、補強を同時にしなければならなくなるだろう。誠の意味で番を得られていない今、それだけの魔力を使って、どこまで自身に影響が出るか自分にもわからないのだ。
建国の祖の力と同等に立つ為にサウラを番として、強引に自分の手に入れる事は出来ない。いや、自分の立場を利用したら十分出来るか?出来るが、それをしたら男としては終わりだろう。ただの強欲な男になってしまう。
サウラにはそのままで、初めて会ったあの日のサウラと、出会った感動をそのままに、側にいて欲しいと思う。
力尽くで手折りたくは無い。
だから、これで良い。
困った様に笑うルーシウスの瞳の中に、静かな決意の色が見える。
「私の、両親は冬山の谷に落ちて凍死しました。後、数時間諦めず、頑張ってくれていたら、見つけるのが、後数時間早かったら、助けられたんです。
諦めないで居てさえくれたら、助けられたんです。
私だったら、諦めないで居てさえくれれば、
私だったら助けられます!
だから、諦めないで下さい。
生きる事を諦めないで。」
サウラは居た堪れなかった。目の前のこの人は、自分が生きる事を諦めてしまっているんだ。
いつからこんな覚悟をしていたのか?死を覚悟した人を前に、宥める事も、諭す言葉もサウラは持っていなかった。
勢いで、関係ない両親の事まで話たが、両親の様に呆気なく、目の前から居なくなって欲しくは無い。
ただ、生きて欲しいと思うのは私の我儘なんだろうか?
この人が居なくなるのは、心底嫌だと思ったのだ。
ルーシウスの顔から表情が消える。
そしてサウラの視界からも、世界が消える。
気がついた時には、ルーシウスにきつく抱きしめられていた。
「頼むから、泣いてくれるな。」
少し掠れたルーシウスの声。
その言葉で、サウラは自分が泣いていた事を知った。
が、何故か本日は朝から、ルーシウスと馬車に同乗している。
出発してからは、彼方に着いてからの政務や、雑務やらの確認調整に移動中も仕事尽くめであった為、朝の他殆ど顔を合わせることも無かった。
いつもの朝の回復魔法後、ルーシウスはサウラに同乗する様にカリナへ指示を出したそうな。
それを知らずに、馬車まで案内されたサウラ。いつも同乗しているカリナが乗ってこない事に首を傾げていると、カリナよりも身長の高いルーシウスがひょっこりと乗って来る。
「??」
予定外のことに、人間は驚くものだ。
「サウラ、俺は今日は此方に乗る。」
「カリナさんは?」
パチクリしながらも、聞いてみる。
「後ろだ。護衛も外から付いて来る。今日位ゆっくりしてもよかろう。」
ややお疲れ気味のルーシウスであるが、顔色はそう悪くないことにホッとする。
二人きりでゆっくり対面というのも、伴侶に立候補、を告げられてから、初めてのことと気がつき、やや緊張してしまうサウラである。
「お仕事は片付いたんですか?」
「ん、大体な。」
「お前は疲れていないか?こんなに長く旅をするのは初めてだろう?」
旅自体が初めてのサウラだ。見る物、聞く事、起こる事、全てがほぼ初めてなので、疲れはするが、全く退屈はしない旅であった。
馬車の中でカリナと話す事が無くても、ずっと外を眺めているだけでも十分に楽しめた。
外の景色も王都と比べてだいぶ様変わりして来ている。街を抜け数日経つと、段々と大きな木々の数が減り、低木が増えて、時には草地に岩場も見え出した所だった。
「いえ、見る物全て知らない事だったりするので、毎日が楽しいです。」
この旅の事よりも、ルーシウスに何と答えたら良いのか、将来の伴侶に立候補、に対する返答の方に苦労している。まあ、考えない様にしていると言っても良いかもしれないが、何しろ、自分の心が分からないのに、是も否もない。
ルーシウスが何か話そうとすると、サウラが緊張するのが分かる。自分の言動が発端となっているのだろうから致し方ない事だが。出来ればいつものサウラでいて欲しいと思うのは、贅沢というものだろうか?
態度がいつもと違うのは、少しでもサウラが自分の事を意識してくれていると思って良いのだろうか?自惚れだとは思うのだが、それだけでも嬉しいものだ。
「そうか。楽しめている様で何よりだ。」
ルーシウスの表情は優しい。深いエメラルドグリーンの瞳は心からサウラの言葉に安堵している様に見つめて来る。
本当に、優しい王様に呼ばれたと思う。もっと傲慢な人だったら、自分はどんな目にあっていたか分からない。物語にもそんな話はあったのだ。
「サウラ、お願いがあるのだが。」
王様がお願い?何でしょう?
「出来たらで良いが、俺の言った事は気にしないでいて欲しい。心残り無くと、自分に整理を付ける為に言った様なものだ。サウラを困らせる為に言ったのではない。俺には、好まずともやらねばならぬ事がある。それが終わらねば、始まるものも始まらない。」
ルーシウスの顔は少し寂しそうだ。サウラは今ルーシウスが言っていた事を心の中で繰り返す。
寂しそうな顔、心残り無くって何故?
「それが、その事が、終わってから言ってくれても良かったのではないですか?」
サウラは嫌な胸騒ぎがした。先程からのルーシウスの寂しそうな顔、今サウラが言った言葉に、さらに困った様な笑顔になった。
言えるものでは無いだろう。この度の結界には亀裂が入った。建国後から現在まで、結界に影響が出る程弱体化した事はない。
ルーシウス自身も相当の魔力持ちで、サウラのおかげで今は生命が尽きずに済んでいるだけだ。今回は、結界の補修と、補強を同時にしなければならなくなるだろう。誠の意味で番を得られていない今、それだけの魔力を使って、どこまで自身に影響が出るか自分にもわからないのだ。
建国の祖の力と同等に立つ為にサウラを番として、強引に自分の手に入れる事は出来ない。いや、自分の立場を利用したら十分出来るか?出来るが、それをしたら男としては終わりだろう。ただの強欲な男になってしまう。
サウラにはそのままで、初めて会ったあの日のサウラと、出会った感動をそのままに、側にいて欲しいと思う。
力尽くで手折りたくは無い。
だから、これで良い。
困った様に笑うルーシウスの瞳の中に、静かな決意の色が見える。
「私の、両親は冬山の谷に落ちて凍死しました。後、数時間諦めず、頑張ってくれていたら、見つけるのが、後数時間早かったら、助けられたんです。
諦めないで居てさえくれたら、助けられたんです。
私だったら、諦めないで居てさえくれれば、
私だったら助けられます!
だから、諦めないで下さい。
生きる事を諦めないで。」
サウラは居た堪れなかった。目の前のこの人は、自分が生きる事を諦めてしまっているんだ。
いつからこんな覚悟をしていたのか?死を覚悟した人を前に、宥める事も、諭す言葉もサウラは持っていなかった。
勢いで、関係ない両親の事まで話たが、両親の様に呆気なく、目の前から居なくなって欲しくは無い。
ただ、生きて欲しいと思うのは私の我儘なんだろうか?
この人が居なくなるのは、心底嫌だと思ったのだ。
ルーシウスの顔から表情が消える。
そしてサウラの視界からも、世界が消える。
気がついた時には、ルーシウスにきつく抱きしめられていた。
「頼むから、泣いてくれるな。」
少し掠れたルーシウスの声。
その言葉で、サウラは自分が泣いていた事を知った。
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