40 / 143
40 西の結界領到着
しおりを挟む
ガタゴト、ガタゴト馬車は停まらず進んで行く。
「 前方から狼煙が上がっています。」
先行していた兵が、ダッフルに報告を伝えに来る。
前方の林右手より、細長く上空に一筋の白い狼煙が目視できた。そろそろタンチラード領付近のはずである。
出迎えの騎士隊が近く待機している手筈になっている。
「何処の旗かを確認せよ。」
「はっ」
短く答えると、騎馬兵は前方へと急ぐ。
泣き止むまで抱きしめられたまま、またも頭を撫でられ続けていたサウラ。外の風や馬車、自分とも違うこの香りは、ルーシウスのものだろうか?
「陛下、お寛ぎの所申し訳ありません。前方林付近より、白い狼煙を確認しました。」
馬車の後方より声がかかる。その位置では中は見えない。
「どこの旗だ?」
触れているルーシウスの胸元から、直接低い声が響いて来る。
「対の蛇です。」
一対の蛇の旗、2匹の蛇が輪の様に重なり合って追いかけている、タンチラード領の印だ。
どうやらタンチラード領の東領域まで到着した様だ。
「着いたな。」
ルーシウスは名残惜しそうに、ポツリと呟く。
「ただ今、カリナ嬢が、彼隊へ赴きましてございます。」
あと少し進めばタンチラード領だ。直ぐにでも別邸に赴くことになろう。ゆっくりとこの領地を見せてやれ無い事は非常に残念ではあるが、今はこの手の温もりだけで満足すべきだ。
「サウラ、タンチラードに着く。着いたらば王家所有の別邸に留まる事になる。そのまま準備に取り掛かり、明日には儀式を取り行うだろう。」
胸の中のサウラが、コクリと肯く。
「別邸に着いたら、其方はゆっくりと寛いでおけ。領内を見せてやれないのは残念だが、時間がないのでな。」
別邸とは言っても、その離れに結界石が安置されているのだ。結界石の補強の為に、しばし王が滞在する為にある館のことである。
結界石を安置している建物は、建国時に石造りで作られた当時のままで、数百年もの歴史を持つ。ほぼ痛みも見られないので、当時の風格を窺い知ることができる唯一のものだ。
館はその後都合が良いと建てられ、何度か建て直されてもいる。
別邸の中には結界石守りが常駐している。館の管理は勿論だが、名実ともに結界石の守護である。それは各領内の采配に任されており、タンチラード領に於いては、領主の血筋の中から選ばれた者の役目となる。
「陛下、カリナでございます。」
馬車がゆっくり停まると、外からカリナの声が聞こえてきた。
カリナの声を聞き、ビクッとサウラの身体が反応する。
もしや、このまま馬車を開けられたのならば、ルーシウスに抱き留められている所を見られてしまうのでは? けれども、自分から離れて良いのか、このまま居なければならないのか、サウラには判断が付かない。今までも離れるタイミングが全く分からず、ずっとこのままの姿勢で来てしまった。
この状況下を把握してから冷静になればなるほど、どんどん言い出せなくなるから不思議だ。
「サウラ、時間だ。」
ルーシウスの方がサウラから離れる。やはり、名残惜しそうに髪を触ってはいるのだけど。
「何用か。」
そっとサウラの身体を起こすルーシウス。
「我がタンチラード辺境伯領騎士団一同、陛下にご挨拶申し上げます。」
ルーシウスは外に出る。馬車の傍にはダッフルが控えており、降りて来たルーシウスの肩に王のマントを掛ける。サウラはそのままそこにいる様にと、手で制されてしまった。
カリナを先頭に騎士団と思き一団がルーシウスの前に跪く。
皆一様に、肩に黄色のとても短い肩掛けの様なマントを掛け、揃いの胸当てに、剣を持っている様に見えた。マントの左肩には蛇が描かれた紋が刺繍してあるのが見える。タンチラード特有の風貌のものが多いが、髪色は明るかったり、暗かったり、中には他民族であろうと思われる者もいる。そして、一団の中に、女性も何人もいる様で驚きだ。
「陛下、恙無くお越しになられました事、心よりお喜び申し上げます。我ら一団この身に代えましても、陛下の御身をお守り致します。」
タンチラード領の騎士の数はこれだけでは無い。主な兵士が、ほぼ国境付近に遠征中の為、王を迎える兵も多くは割けなかったのだ。
本来ならば、結界の補強と言う喜ばしい慶事の前に、盛大に王一行を迎え出なければならないはずであった。
小隊とも言える出迎えの規模の小ささから、王家に対する不敬を問われていてもおかしくはない事態ではある。
「出迎えご苦労。カリナ嬢、其方も長旅ご苦労であった。其方らの忠義を嬉しく思う。」
当のルーシウスは全く問題視にもしていないが。
「はっありがたきお言葉にございます。陛下をお迎えするにあたり、恥ずかしい限りでは有りますが、領民一同、父も陛下のご尊顔を拝せる日を心待ちにしておりました。」
「タンチラード伯は相変わらずの様だな。」
「姉もでございます、陛下。」
「健勝で何よりな事だ。」
爽やかな笑顔で王は答える。
「お疲れもございましょうが、入領の際には大通りを通ります。もう少しご辛抱くださいませ。」
「後は其方らに任せよう。良き様に計らえ。」
タンチラード領騎士団を先頭にルーシウスとサウラを乗せた馬車は続く。
西の結界石へ。
「 前方から狼煙が上がっています。」
先行していた兵が、ダッフルに報告を伝えに来る。
前方の林右手より、細長く上空に一筋の白い狼煙が目視できた。そろそろタンチラード領付近のはずである。
出迎えの騎士隊が近く待機している手筈になっている。
「何処の旗かを確認せよ。」
「はっ」
短く答えると、騎馬兵は前方へと急ぐ。
泣き止むまで抱きしめられたまま、またも頭を撫でられ続けていたサウラ。外の風や馬車、自分とも違うこの香りは、ルーシウスのものだろうか?
「陛下、お寛ぎの所申し訳ありません。前方林付近より、白い狼煙を確認しました。」
馬車の後方より声がかかる。その位置では中は見えない。
「どこの旗だ?」
触れているルーシウスの胸元から、直接低い声が響いて来る。
「対の蛇です。」
一対の蛇の旗、2匹の蛇が輪の様に重なり合って追いかけている、タンチラード領の印だ。
どうやらタンチラード領の東領域まで到着した様だ。
「着いたな。」
ルーシウスは名残惜しそうに、ポツリと呟く。
「ただ今、カリナ嬢が、彼隊へ赴きましてございます。」
あと少し進めばタンチラード領だ。直ぐにでも別邸に赴くことになろう。ゆっくりとこの領地を見せてやれ無い事は非常に残念ではあるが、今はこの手の温もりだけで満足すべきだ。
「サウラ、タンチラードに着く。着いたらば王家所有の別邸に留まる事になる。そのまま準備に取り掛かり、明日には儀式を取り行うだろう。」
胸の中のサウラが、コクリと肯く。
「別邸に着いたら、其方はゆっくりと寛いでおけ。領内を見せてやれないのは残念だが、時間がないのでな。」
別邸とは言っても、その離れに結界石が安置されているのだ。結界石の補強の為に、しばし王が滞在する為にある館のことである。
結界石を安置している建物は、建国時に石造りで作られた当時のままで、数百年もの歴史を持つ。ほぼ痛みも見られないので、当時の風格を窺い知ることができる唯一のものだ。
館はその後都合が良いと建てられ、何度か建て直されてもいる。
別邸の中には結界石守りが常駐している。館の管理は勿論だが、名実ともに結界石の守護である。それは各領内の采配に任されており、タンチラード領に於いては、領主の血筋の中から選ばれた者の役目となる。
「陛下、カリナでございます。」
馬車がゆっくり停まると、外からカリナの声が聞こえてきた。
カリナの声を聞き、ビクッとサウラの身体が反応する。
もしや、このまま馬車を開けられたのならば、ルーシウスに抱き留められている所を見られてしまうのでは? けれども、自分から離れて良いのか、このまま居なければならないのか、サウラには判断が付かない。今までも離れるタイミングが全く分からず、ずっとこのままの姿勢で来てしまった。
この状況下を把握してから冷静になればなるほど、どんどん言い出せなくなるから不思議だ。
「サウラ、時間だ。」
ルーシウスの方がサウラから離れる。やはり、名残惜しそうに髪を触ってはいるのだけど。
「何用か。」
そっとサウラの身体を起こすルーシウス。
「我がタンチラード辺境伯領騎士団一同、陛下にご挨拶申し上げます。」
ルーシウスは外に出る。馬車の傍にはダッフルが控えており、降りて来たルーシウスの肩に王のマントを掛ける。サウラはそのままそこにいる様にと、手で制されてしまった。
カリナを先頭に騎士団と思き一団がルーシウスの前に跪く。
皆一様に、肩に黄色のとても短い肩掛けの様なマントを掛け、揃いの胸当てに、剣を持っている様に見えた。マントの左肩には蛇が描かれた紋が刺繍してあるのが見える。タンチラード特有の風貌のものが多いが、髪色は明るかったり、暗かったり、中には他民族であろうと思われる者もいる。そして、一団の中に、女性も何人もいる様で驚きだ。
「陛下、恙無くお越しになられました事、心よりお喜び申し上げます。我ら一団この身に代えましても、陛下の御身をお守り致します。」
タンチラード領の騎士の数はこれだけでは無い。主な兵士が、ほぼ国境付近に遠征中の為、王を迎える兵も多くは割けなかったのだ。
本来ならば、結界の補強と言う喜ばしい慶事の前に、盛大に王一行を迎え出なければならないはずであった。
小隊とも言える出迎えの規模の小ささから、王家に対する不敬を問われていてもおかしくはない事態ではある。
「出迎えご苦労。カリナ嬢、其方も長旅ご苦労であった。其方らの忠義を嬉しく思う。」
当のルーシウスは全く問題視にもしていないが。
「はっありがたきお言葉にございます。陛下をお迎えするにあたり、恥ずかしい限りでは有りますが、領民一同、父も陛下のご尊顔を拝せる日を心待ちにしておりました。」
「タンチラード伯は相変わらずの様だな。」
「姉もでございます、陛下。」
「健勝で何よりな事だ。」
爽やかな笑顔で王は答える。
「お疲れもございましょうが、入領の際には大通りを通ります。もう少しご辛抱くださいませ。」
「後は其方らに任せよう。良き様に計らえ。」
タンチラード領騎士団を先頭にルーシウスとサウラを乗せた馬車は続く。
西の結界石へ。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる