[完結]その手中に収めるものは

小葉石

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55 暗部に入って

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 カタン。

 早朝の部屋の中に小さな音が響く。
静かに入ったつもりが、少しの力加減で音が出る。
まだ、細かい所の力加減が上手くいかないような気がする。体を動かす事自体は全く違和感が無いのだが、力は以前よりも入るようだ。シエラからの注意でしばらくはこの姿から戻れない。

 ルーシウスには此度こたびの決意を伝えていない為、事後報告になってしまう。今伝えたとしても、このままの姿で会ったら気まずさだけが残るんだろうけど。
 
 ルーシウスに会えないと思っても、日々の仕事はしなくてはいけない。だからルーシウスが起きてくる前に部屋に忍んできているんだ。

 倒れた後のあの日の様にルーシウスの寝息は静かだ。
そっと手を伸ばせば、ルーシウスが触れた感覚も戻ってくる様で恥ずかしさがこみ上げてくる。

 ポァ、手早く回復魔法を掛けて側を離れる。
深いエメラルドグリーンの瞳が見れないのは少し寂しいが長居は無用だろう。
 


 この所、王の部屋へ朝も早くから訪問者がいる事に対し近衛の中では噂が立っていた。暗部の密使との事だが、いつも必ず夜明け前。
 王からも厳命されており、左腕のブレスレットを確認の上毎朝通してはいるが、なぜ王が目覚める前なのだ?
 密使ならば直接伝えることがあるのでは無いだろうか?

 そして番であるサウラ様の姿が見えない。体調不良との事で、侍女殿も心を砕いている様だが如何いかがしたのであろうか?
 密使殿もサウラ様と同じく黒髪、黒瞳、雰囲気も似ていると言えば似ている様な…まさか、番様が相手にしてくれ無いが為に王は…との誠しやかな話が外に行く前に、騎士団長からそれは厳しく箝口令かんこうれいが出された事は言うまでも無い。



 朝も早くから鍛錬場で鍛錬に励んでいる。身体に慣れるにはまずは動いてみる事だとシエラに言われ、まだ騎士団のメンバーが来るよりも前に来る様になった。
 時には夜勤明けの暗部やら、騎士やらに捕まり手合わせ相手にもさせられている。

 初日の暗部との手合わせ後、このようにシエラより通達があった。

 この度暗部に入る若者は、シエラ、サウラと同じ村の出でシエラの血筋に当たる事。曽祖父の代に村を出て各国を廻っていた所をシエラが引き抜いたと。
 名前は“ソウ“、歳はサウラと同じく15歳。対戦能力に優れ回復も使えるという理由で暗部入りさせた。
 シエラの血縁と言えば、似ているかもしれない?
 
 いささか苦し紛れではあると思ったが、致し方無い。各国を知っているかと聞かれれば全く知らない方なのだが…
 それでもシエラからの通達という事でこれで納得させてしまう所がシエラだからなせる技なのだろう。



 ポンポン、と何故かバートに頭を撫でられ、バン、とガイには背をたたかれる。

 暗部は基本3人1組で行動する。ソウが入った為人員の再編成を行い、バート、ガイ、ソウのチームとなった。
 そして、ダッフル騎士団長から告げられた後の反応が上記だ。
 
「お願いします。」
 荒い歓迎?が終われば彼らは先輩であり、同僚であり、命を預ける仲間だ。目的は多分一緒だろう。心から力を借りたいと思うし、力になりたいと思う。

「はぁ、言いたい事は色々あるが、自分で決めてここにいるんだな?」

バートの問いに真っ直ぐに目を見て答える。

「そうです。自分の意思です。」

「なら、何も言うまいよ。色々皆んな背負ってここにいるからな。なぁガイ?」

「何のことか分からんな。だが、お前は使えそうだ。力み過ぎて頼むから突っ走るなよ?」

「分かっています。頑張りますのでよろしくお願いします。」

「だーから、力みすぎるな。」
 またもやバン、とガイは背を叩き鍛錬場を後にした。

「まだ若いんだ。根が真面目なんだろうよ。」
 その後をバートも追う。

 これからは彼らと共に行動する。ただ城で守られている者ではなくて、自分も守る側になるのだ。
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