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60 石の正体
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「揃った?」
城の地下、円形鍛錬場には先程から人払いを徹底している。
暗部2名、バートと運悪く遠征準備中であったビルガーが捕まった。フル装備とのことで、マントの下には暗器数種に自身の得物、薬品、薬草、目眩し、胸当て籠手に膝当てにと何処へ仕掛けに行くのかという荷物の重装備だ。視界が悪くなるので暗部では兜類は使用しない。
何が始まるのか全く聞いていない内に巻き込まれたビルガーは不信感満々。
「シエラ様、自分明日っから北西領に遠征なんすよ?打ち抜きの訓練ですか?」
それでも2人はないだろう?常に3人での任務だ。しかも自分を呼んだバートは違う組、行動を共にしていない。
「ん~?まぁそう考えてくれていてもいいわね。相手は知性も理性も足らないから2人で十分よ。」
シエラが先程から指で弄んでいるのは、バート達が持ち帰ったあの赤い石。
「相手って?バート、何の相手すんの俺ら?」
ビルガーは暗部にしては小柄な体格。けれども急所の隙を突くのが極めて上手い。一撃必殺を狙いに行ける腕前を持つ。普段は遠隔から弓を使う事が多いが、至近距離では短刀を好む。青みがった黒髪は短髪、金の瞳はキョトンとバートを仰ぐ。
対し、バートはやや緊張気味だ。あれが自分の考えているものだとしたら、ここは騒然となる。
やれやれ、いつもやっている事だから、満に一つ何か有るとも思えないが、いざとなればシエラが何とかするだろう。
「さあねぇ、フル装備した分は何かの相手をするんじゃないの?」
「だよなぁ。」
互いに諦めのため息を吐き、目の前のシエラの召喚陣に注目する。
陣の光が最大限に明るくなった瞬間に、シエラは手に持つ赤い石を陣に投げ入れる。石から小さな魔法陣が発動し召喚されて来た物の上にとどまる。
召喚されて来たのは1頭の馬だ。馬の頭の上で石の魔法陣の光が強まると、石自体が溶け解れ馬へと流れ出ていく。
目の前にいたのは1頭の馬だったはずである。
「おいおいおいおい!」
ビルガーが後方へ飛びずさりながらも弓を構えて、馬であった物の後ろ足付け根へと1本打ち込む。
痛みで怯んだところへ、バートの最大の雷撃を剣に込めて先ずは双頭の首一つを落とす。
馬であった時より、ものの数十秒の出来事で魔物と化した双頭馬は自身を傷付けた者を噛み殺さんとスピードを上げ牙を向けて突進してくる。
ビルガーの放つ矢は残った頭部の眉間を貫き、横に回ったバートは後ろ足1本を切り落とす。
バランスを失い盛大に横倒れになった所で、魔物の体をすっぽりと水球が覆い、動かなくなるまで消える事はなかった。
わざわざとどめを刺しに行かずとも安全かつ確実に任務を遂行するのである。
「う~~ん。フル装備要らなかったわね。」
倒れ動かなくなった魔物を前に、シエラは呑気だ。
「シエラ様。何んすか、これ?」
暗部と言えど騎士の端くれ。それを忘れてしまうくらい目の前の出来事に呆けていた。
「魔物ね。」
「いや、見て分かりますよね?」
「あの石、魔物を作る?」
バートも唖然としている。
元の馬のサイズよりも2回り程大きく、牙を剥き出し襲ってくるような魔物をあっさり倒してしまえる手練れの暗部でさえも目の前の光景を理解するのに苦労している。
「これで分かったわね。魔物が異常に増える理由。」
シエラの顔は暗い。あの赤い石、如何やら魔物製造機の様な物だ。魔法を使わないゴアラ人が魔法陣無くどの様にして魔物化させているのかは不明だが、この石はゴアラの物で間違いない。
これはかつてシエラが見た物と同じ気配がする物だから、間違えはないはずである。
「大昔にね、一度だけこれを作っている所を見た事があるのよ。」
「え、魔物を?」
ビルガーは魔物から頭が離れないらしい。
「違う。石の方。」
バートは無言で剣をもどし、今倒した魔物の方へと向かう。
「まだ、一人で潜入してたから物を回収も出来なかったけどね。見ていて気持ちの良い物じゃあ無かったわね。」
忌々しげに吐き捨てる。まだ暗部など無かった頃、知りたい事は自分で調べなければならなかったのだ。シエラの魔法は隠密行動には適するものの、攻撃し押さえ付ける程のものではない。
だから、あの時は見ている事しか出来なかったのだ。
魔物に近づき亡骸を見て回るバート。特に普段狩っている魔物の魔力の気配と特別変わりはない様だ。
「陛下に伝えますか?」
「ダッフルを、先ずはこれをなんとかしてもらいましょう。ルーシュは今日は一日中休暇だそうよ。火急の要件はシグにお願いね。」
「あー、なるほど。」
鍛錬場には、でん、と魔物の遺体が鎮座している。王城で魔物出現など話題に登るのも避けたいだろうし、ソウも休暇だと言われていたしな、そう言うことかとバートは納得する。
「では、早々に片付けますか。」
明日から遠征のビルガーとて暇ではない。バートとしてもこの後ガイの補助に入るのだし、その後も団長から招集がかかるだろう。
とっとと終わらせて休みをもぎ取る事にしよう。
城の地下、円形鍛錬場には先程から人払いを徹底している。
暗部2名、バートと運悪く遠征準備中であったビルガーが捕まった。フル装備とのことで、マントの下には暗器数種に自身の得物、薬品、薬草、目眩し、胸当て籠手に膝当てにと何処へ仕掛けに行くのかという荷物の重装備だ。視界が悪くなるので暗部では兜類は使用しない。
何が始まるのか全く聞いていない内に巻き込まれたビルガーは不信感満々。
「シエラ様、自分明日っから北西領に遠征なんすよ?打ち抜きの訓練ですか?」
それでも2人はないだろう?常に3人での任務だ。しかも自分を呼んだバートは違う組、行動を共にしていない。
「ん~?まぁそう考えてくれていてもいいわね。相手は知性も理性も足らないから2人で十分よ。」
シエラが先程から指で弄んでいるのは、バート達が持ち帰ったあの赤い石。
「相手って?バート、何の相手すんの俺ら?」
ビルガーは暗部にしては小柄な体格。けれども急所の隙を突くのが極めて上手い。一撃必殺を狙いに行ける腕前を持つ。普段は遠隔から弓を使う事が多いが、至近距離では短刀を好む。青みがった黒髪は短髪、金の瞳はキョトンとバートを仰ぐ。
対し、バートはやや緊張気味だ。あれが自分の考えているものだとしたら、ここは騒然となる。
やれやれ、いつもやっている事だから、満に一つ何か有るとも思えないが、いざとなればシエラが何とかするだろう。
「さあねぇ、フル装備した分は何かの相手をするんじゃないの?」
「だよなぁ。」
互いに諦めのため息を吐き、目の前のシエラの召喚陣に注目する。
陣の光が最大限に明るくなった瞬間に、シエラは手に持つ赤い石を陣に投げ入れる。石から小さな魔法陣が発動し召喚されて来た物の上にとどまる。
召喚されて来たのは1頭の馬だ。馬の頭の上で石の魔法陣の光が強まると、石自体が溶け解れ馬へと流れ出ていく。
目の前にいたのは1頭の馬だったはずである。
「おいおいおいおい!」
ビルガーが後方へ飛びずさりながらも弓を構えて、馬であった物の後ろ足付け根へと1本打ち込む。
痛みで怯んだところへ、バートの最大の雷撃を剣に込めて先ずは双頭の首一つを落とす。
馬であった時より、ものの数十秒の出来事で魔物と化した双頭馬は自身を傷付けた者を噛み殺さんとスピードを上げ牙を向けて突進してくる。
ビルガーの放つ矢は残った頭部の眉間を貫き、横に回ったバートは後ろ足1本を切り落とす。
バランスを失い盛大に横倒れになった所で、魔物の体をすっぽりと水球が覆い、動かなくなるまで消える事はなかった。
わざわざとどめを刺しに行かずとも安全かつ確実に任務を遂行するのである。
「う~~ん。フル装備要らなかったわね。」
倒れ動かなくなった魔物を前に、シエラは呑気だ。
「シエラ様。何んすか、これ?」
暗部と言えど騎士の端くれ。それを忘れてしまうくらい目の前の出来事に呆けていた。
「魔物ね。」
「いや、見て分かりますよね?」
「あの石、魔物を作る?」
バートも唖然としている。
元の馬のサイズよりも2回り程大きく、牙を剥き出し襲ってくるような魔物をあっさり倒してしまえる手練れの暗部でさえも目の前の光景を理解するのに苦労している。
「これで分かったわね。魔物が異常に増える理由。」
シエラの顔は暗い。あの赤い石、如何やら魔物製造機の様な物だ。魔法を使わないゴアラ人が魔法陣無くどの様にして魔物化させているのかは不明だが、この石はゴアラの物で間違いない。
これはかつてシエラが見た物と同じ気配がする物だから、間違えはないはずである。
「大昔にね、一度だけこれを作っている所を見た事があるのよ。」
「え、魔物を?」
ビルガーは魔物から頭が離れないらしい。
「違う。石の方。」
バートは無言で剣をもどし、今倒した魔物の方へと向かう。
「まだ、一人で潜入してたから物を回収も出来なかったけどね。見ていて気持ちの良い物じゃあ無かったわね。」
忌々しげに吐き捨てる。まだ暗部など無かった頃、知りたい事は自分で調べなければならなかったのだ。シエラの魔法は隠密行動には適するものの、攻撃し押さえ付ける程のものではない。
だから、あの時は見ている事しか出来なかったのだ。
魔物に近づき亡骸を見て回るバート。特に普段狩っている魔物の魔力の気配と特別変わりはない様だ。
「陛下に伝えますか?」
「ダッフルを、先ずはこれをなんとかしてもらいましょう。ルーシュは今日は一日中休暇だそうよ。火急の要件はシグにお願いね。」
「あー、なるほど。」
鍛錬場には、でん、と魔物の遺体が鎮座している。王城で魔物出現など話題に登るのも避けたいだろうし、ソウも休暇だと言われていたしな、そう言うことかとバートは納得する。
「では、早々に片付けますか。」
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