[完結]その手中に収めるものは

小葉石

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66 神託の巫女姫2

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 サザーニャの宮は本城からも近く、ルーシウス達が滞在している光林宮の隣に位置する。離宮自体は離れているが庭園に境はなく誰でも入れる様な造りだ。
 
 カザンシャル王国第一皇女サザーニャは光林宮へ侍女を遣わしサウスバーゲン国王の番殿を自宮へ誘うつもりであった。しかし運良く彼方あちらからサザーニャの宮殿の庭園へ来られたとあらば、このチャンスを逃すまいとサウラを自宮巫女宮へ誘う。




「一目惚れでしたの。」

 巫女宮と言われるサザーニャの自宮。皇女の宮には花の一つも飾ってはいない。落ち着いた色で纏められているが、絵や、華美な置物一つないのだ。
 殺風景と言われたら納得する様な皇女自室の応接室で、挨拶も無く自宮にサウラを呼んだ理由さえも告げられる前にサザーニャから驚きの告白を聞いている。

「はい?」

「ですから、ルーシウス様の絵姿を一目見て心奪われましたの。」
 少し俯いて、はにかみながら言う様はサウラよりも幼くさえ見える。

 いや、ここは友人の恋愛相談の場ではない。変な返答など出来ない。サウラはスザンナを下がらせる。聞かれない方がいいだろう。

「聞けば、サウラ様はまだ正式に婚約者として出ていらっしゃっていないとか。あれだけ仲睦まじいお姿でしたのに何故なのでしょう?何か訳がおありなの?」

「ルーシウス様の隣に居られない理由があって婚約出来ないのでしたら、番様の立場はそのままにどうか私を婚約者として迎えては下さいませんか?」

 サウラの表情が曇ってくる。理由も訳も大いにあるが、誰にも言える訳がなかった。

「まあ、やはりお心を痛めている事が有りますのね?」

「私でしたらきっとサウラ様のお心の負担を軽くする事が出来ると思いますの。」

 ルーシウスの隣にサザーニャが立つ?確かにルーシウスの隣に自分は相応しく無いと今でも思っているが。
 サウラの心の負担を軽くするとは理由も知らずにどの様にするんだろう?
 色々疑問が頭に飛ぶがサウラはじっとサザーニャを見つめる。

「皇女様はルーシウス様のことが好きなんですね?」

 頭で理解した事を口に出すと、言われた意味が現実味を帯びる。一目惚れだと言った。会っていなくても、話した事がなくても人を好きになる事があるんだ。それを番の立場のサウラに面と向かって伝えるとは、凄い勇気がいることなのでは?
 カザンシャルの女性は余り自分の意見を出さないとカザンシャル国王は言っていたが、どうやら慣習と個人の性格は一致していないようだ。

 しかししっかりと意見を言える人には好感が持てる。少なくとも何を考えているか分かるから対処がしやすい。

「サウラ様どうかサザーニャとお呼び下さい。私もサウラ様とお呼びしていますわ。」
 優しく微笑まれればやはり美しい人だと思うが、それだけで無くサザーニャは芯のしっかりとした強い人だと思った。

「でも、サザーニャ様。私はどの様にすれば良いでしょう?」

 サウラは番で有り、婚約を望まれているのだが。

「まあ、思いを叶えてくださいますの?」

 思いを叶えれば、サザーニャはルーシウスと夫婦になる、という事だ。部屋を共にし、食事を共に、いつも寄り添って連れ添う存在に…

 キュッと胃が痛くなる様な気がした。

「この場合、サザーニャ様の思いを叶えるのはルーシウス様だと思うのですが?私では役に立たないのでは?」

「いいえ、寂しい事にルーシウス様は今は貴方様しか見てはおられませんもの。ですから口添えをして欲しいのです。」

「口添えを?」

「ええ、王妃の座がサウラ様には重いのでしょう?ですから私がその重荷を負いましょう、と。」

 サウラは王妃の座が欲しいのでは無いし、自分の物で差し上げても良いものならば、どうぞと快く差し出したかもしれない。が今、サウラにはサザーニャの求めるものを差し出す権利も義理もない。逆に妨害しなくてはいけない立場でここに来ている。

 しかしサザーニャの恋心が本物ならば自分はルーシウスに伝えるべきなのか?好きな人の側に居られないのが辛いと言うのは何となく分かる。
 
 逡巡しゅんじゅんしたがサウラは心を決めた。

「サザーニャ様、ルーシウス様にお伝えする事自体は構いません。けれどそのお心にルーシウス様が答えられるかは保証は出来ませんし、お伝えしたとしても返事を下さるかどうかもルーシウス様次第とお考えください。」
 
 それでも宜しければお伝えしましょう。

 この場では何も約束しないが吉であろうとサウラは判断した。

 即決するには繊細で、約束を結ぶには大きな問題が後に残る。これがサウラができる最善策だった。

「恥ずかしながら、何度もお手紙を差し上げましたの。御健康を崩される前から、会う事は叶いませんでしたけれど、ここからずっと御無事をお祈りしていましたわ。」
 飲むとも無しにティーカップに手を添え寂しそうな笑顔になるサザーニャ。

「ご挨拶の際は父も居ましたし、お声を掛けて下さらない限り私の方から声をかける事は恥ずかしい事ですもの。サウラ様、貴方様が本当に羨ましいですわ。」

 本心だろうか?会ったばかりのサウラに心の内をこうまでさらすとは。

 知らずサウラの握りしめる手に力が入る。





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