91 / 143
91 焦り
しおりを挟む
コツコツコツ
硬い廊下に靴の音が響き渡る。
パザン城王の執務室に今日も日参してくるのはパザン国公爵位を賜るカント・アッパンダー公爵だ。
執務室に入るなり挨拶もそこそこに本日も王に詰め寄っている。
「陛下、再度サウスバーゲンへ書簡をお送りいただけましたかな?」
「本日もか。懲りないものだな。」
パザン国王エル・ガート・パザンは40代後半に見える。ハニーブランドの髪に茶の瞳、中肉中背だがゆったりとした雰囲気からは小国とあろうとも王の風格を堂々と表している様に感じた。
60代程に見えるアッパンダー公爵は背は高くシルバーの髪を後ろに撫でつけ、濃茶の瞳は何か焦燥を感じさせる色を湛えて王の前に立っている。
「何を言われます王よ。我が小国パザンが大国と並ぶ良い機会ではありませぬか。姫君とて大国に嫁ぐとあらば否やは申しますまい。」
「アッパンダー公爵、かの国王は伴侶殿を得られたとか。それでは此方は出る幕はなかろう。」
「番の話は眉唾ではありませんか?もしおったとしても側室なりにでもすれば宜しいのです。一国の姫君と比べるまでもありますまい。」
「番殿の話は事実であろう。西の結界を見事に貼り直された様ではないか。」
「それでも祝典にも姿を表さなかったそうではありませんか。人前に出れる様な者では無いのでしょう。何処の馬の骨とも分からん者を選ぶからです。なれど我が国の姫君ならば問題ありますまい。十二分に妃としての責を負う知識も器量も備えているではありませんか。」
ハァ~~~とパザン王が長い溜息を吐く。いつからこの男は頑なまでにサウスバーゲンに乗り出す事に固執する様になったのか?
「番殿の存在は確かなものだ、アッパンダー公爵。先代も先々代も結界の儀式で儚くおなりだ。現王は見事儀式を乗り越えられておる。健在なお姿も確認しているのだ。その王が既に伴侶を選ばれている。公式に発表はされていなくてもそれはサウスバーゲン国内の問題であって他国が口出しして良い問題ではないだろう。」
パザン王の眉間には皺が深く刻まれている。
「どうしたというのだアッパンダー公爵。其方の言う通り、サウスバーゲンへは打診をし断られもした。彼方からは此方の身に釣り合わぬ申し出に対しても不問として詳細も求められてもおらぬ。
公爵、この点はについては其方も申し開き出来ないだろう?」
アッパンダー公爵以下当時外交に携わる外交官は、現サウスバーゲン王病床説の折、パザンから出した書状に恥知らずにも代行執政を提案すると言う暴挙に出てくれたのだ。それに構っても居られなかったサウスバーゲンの内情に救われた様なもので、不問に処されなければパザンに対する全ての利権を剥奪されても文句は言えないところであった。
アッパンダー公爵はパザン国にとってただ一つの王家筋にあたる為、公には処分出来ないところが仇になり現在までも事あるごとにサウスバーゲンに対する圧を強める様にと上申書を持って来てはパザン王を煩わせている。
「大国のみがあらゆる利権を占めている様な状態がおかしいのです。パザンは実り多い地だと言うのに港を使う権利もサウスバーゲンにあるではないですか!」
ほぼ南の海岸線沿いに沿う様にある港町はサウスバーゲン国内にある。他国が港を使うには使用料もいる。国を潤わせ国力を上げるためには他国への輸出の要となる港が欲しいのだ。
「アッパンダー公爵、いいえ、カント叔父上。サウスバーゲンが何故利権を担っているのか分かっておられるでしょうね?」
パザン王の声が低くなる。その顔は既に険しいものに変わっていた。
サウスバーゲンは王自らの命を持って国に結界を張っており、大陸の四方八方に住んでいる魔力持ちを保護している。このパザンからも魔力持ちと分かるや移住を望んで移り行く者もいるのだ。サウスバーゲンが持つ微々たる利権は王の命に対するものだと良くわかっているはずである。
王の声質の変化を感じ公爵の勢いがやや削がれた。パザン王はこれ以上の軋轢を生み出したくはないのだ。
「しかし、しかしだ、エル。レギットの事を考えたら協力を惜しまないと言う後ろ盾は必要だろう!」
パザン国国王エル・ガート・パザンには3人の子供がいる。サウスバーゲンに輿入れを打診した18歳になる第二皇女ユーリンと皇太子である23歳になるレギットと他国に既に嫁いでいるアカリヤだ。
皇太子レギットは成婚したばかりであるにも関わらず現在原因不明の体調不良に悩まされ公務にも支障が出るほどだ。このまま後継を残す事も出来なくなれば王籍を外れた血縁筋を巻き込んで世継ぎ問題に発展してしまう。
残念ながら王室親戚筋であるアッパンダー公爵家にも男児は居ないのだ。
皇太子の病の快癒を推し進めるか、皇女に婿をとり次期王として立てるのか…と議論される最中、時を同じくして薬草の輸出量の多いゴアラに良い薬、薬師はいないかと探しに探している所にゴアラ王家に繋がりあるものに協力を仰ぐ事が出来るかもしれない機会が巡って来たのである。
ならば、協力を仰ぎたいのが人の常だろう。
その見返りに求められた事に付いては、パザン王は知らぬ事。公爵の元で今も留め置かれている…
硬い廊下に靴の音が響き渡る。
パザン城王の執務室に今日も日参してくるのはパザン国公爵位を賜るカント・アッパンダー公爵だ。
執務室に入るなり挨拶もそこそこに本日も王に詰め寄っている。
「陛下、再度サウスバーゲンへ書簡をお送りいただけましたかな?」
「本日もか。懲りないものだな。」
パザン国王エル・ガート・パザンは40代後半に見える。ハニーブランドの髪に茶の瞳、中肉中背だがゆったりとした雰囲気からは小国とあろうとも王の風格を堂々と表している様に感じた。
60代程に見えるアッパンダー公爵は背は高くシルバーの髪を後ろに撫でつけ、濃茶の瞳は何か焦燥を感じさせる色を湛えて王の前に立っている。
「何を言われます王よ。我が小国パザンが大国と並ぶ良い機会ではありませぬか。姫君とて大国に嫁ぐとあらば否やは申しますまい。」
「アッパンダー公爵、かの国王は伴侶殿を得られたとか。それでは此方は出る幕はなかろう。」
「番の話は眉唾ではありませんか?もしおったとしても側室なりにでもすれば宜しいのです。一国の姫君と比べるまでもありますまい。」
「番殿の話は事実であろう。西の結界を見事に貼り直された様ではないか。」
「それでも祝典にも姿を表さなかったそうではありませんか。人前に出れる様な者では無いのでしょう。何処の馬の骨とも分からん者を選ぶからです。なれど我が国の姫君ならば問題ありますまい。十二分に妃としての責を負う知識も器量も備えているではありませんか。」
ハァ~~~とパザン王が長い溜息を吐く。いつからこの男は頑なまでにサウスバーゲンに乗り出す事に固執する様になったのか?
「番殿の存在は確かなものだ、アッパンダー公爵。先代も先々代も結界の儀式で儚くおなりだ。現王は見事儀式を乗り越えられておる。健在なお姿も確認しているのだ。その王が既に伴侶を選ばれている。公式に発表はされていなくてもそれはサウスバーゲン国内の問題であって他国が口出しして良い問題ではないだろう。」
パザン王の眉間には皺が深く刻まれている。
「どうしたというのだアッパンダー公爵。其方の言う通り、サウスバーゲンへは打診をし断られもした。彼方からは此方の身に釣り合わぬ申し出に対しても不問として詳細も求められてもおらぬ。
公爵、この点はについては其方も申し開き出来ないだろう?」
アッパンダー公爵以下当時外交に携わる外交官は、現サウスバーゲン王病床説の折、パザンから出した書状に恥知らずにも代行執政を提案すると言う暴挙に出てくれたのだ。それに構っても居られなかったサウスバーゲンの内情に救われた様なもので、不問に処されなければパザンに対する全ての利権を剥奪されても文句は言えないところであった。
アッパンダー公爵はパザン国にとってただ一つの王家筋にあたる為、公には処分出来ないところが仇になり現在までも事あるごとにサウスバーゲンに対する圧を強める様にと上申書を持って来てはパザン王を煩わせている。
「大国のみがあらゆる利権を占めている様な状態がおかしいのです。パザンは実り多い地だと言うのに港を使う権利もサウスバーゲンにあるではないですか!」
ほぼ南の海岸線沿いに沿う様にある港町はサウスバーゲン国内にある。他国が港を使うには使用料もいる。国を潤わせ国力を上げるためには他国への輸出の要となる港が欲しいのだ。
「アッパンダー公爵、いいえ、カント叔父上。サウスバーゲンが何故利権を担っているのか分かっておられるでしょうね?」
パザン王の声が低くなる。その顔は既に険しいものに変わっていた。
サウスバーゲンは王自らの命を持って国に結界を張っており、大陸の四方八方に住んでいる魔力持ちを保護している。このパザンからも魔力持ちと分かるや移住を望んで移り行く者もいるのだ。サウスバーゲンが持つ微々たる利権は王の命に対するものだと良くわかっているはずである。
王の声質の変化を感じ公爵の勢いがやや削がれた。パザン王はこれ以上の軋轢を生み出したくはないのだ。
「しかし、しかしだ、エル。レギットの事を考えたら協力を惜しまないと言う後ろ盾は必要だろう!」
パザン国国王エル・ガート・パザンには3人の子供がいる。サウスバーゲンに輿入れを打診した18歳になる第二皇女ユーリンと皇太子である23歳になるレギットと他国に既に嫁いでいるアカリヤだ。
皇太子レギットは成婚したばかりであるにも関わらず現在原因不明の体調不良に悩まされ公務にも支障が出るほどだ。このまま後継を残す事も出来なくなれば王籍を外れた血縁筋を巻き込んで世継ぎ問題に発展してしまう。
残念ながら王室親戚筋であるアッパンダー公爵家にも男児は居ないのだ。
皇太子の病の快癒を推し進めるか、皇女に婿をとり次期王として立てるのか…と議論される最中、時を同じくして薬草の輸出量の多いゴアラに良い薬、薬師はいないかと探しに探している所にゴアラ王家に繋がりあるものに協力を仰ぐ事が出来るかもしれない機会が巡って来たのである。
ならば、協力を仰ぎたいのが人の常だろう。
その見返りに求められた事に付いては、パザン王は知らぬ事。公爵の元で今も留め置かれている…
0
あなたにおすすめの小説
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる